唐の詩人孟浩然(もうこうねん689−740)の五言絶句に有名な「春暁」という名吟がある。
春眠不覚暁 処処聞啼鳥 夜来風雨声 花落知多少
「春眠暁を覚えず 処処啼鳥を聞く 夜来風雨の声 花落つること知る多少」
漢文の授業で暗誦させられたことを思い出す。一応、口語に訳すれば「春の眠りはここちよく、いつ夜が明けたか気がつかない。あちらでもこちらでも、鳥のさえずりが聞こえる。昨夜は雨まじりの風が吹いていた。花がいったいどれくらい散っただろうか。(さぞかしたくさん花が散ったことだろう)」ということになろう。今朝の眼覚めもこの詩にあるような、昨夜の風雨のあとのような、湿りがあった。聞くところによれば、春になると、ビタミンBが不足して、この眠たくなる現象が起こるらしい。
春愁ということばがある。これはビタミンB不足とうつ病との関連があると言われている。栄養素の不足がうつ病の原因になるのか、うつ病になった結果として栄養素が不足するのか因果関係がはっきりしていない部分もあるようだが、ビタミンB群の不足と、うつ病が関連していることは巷間言われているようである。うつ病とはいえないが、いつまでも眠っていたい懈怠感が春の朝にはあるようだ。
朝、 起きれば、世事の雑音が、飛び込んで来る。昨日、播州綾部山広陵の梅林から持ち帰った紅白の梅の見事さを眺めながら、ニュジーランド南部でのクライストチャーチの地震の惨状のテレビ放映を観る。余震の続くなかでの救出作業の難航を思えば、春眠暁を覚えずの甘えが吹っ飛んでしまう。
大手拓次の詩「恋人を抱く空想」から気分転換をはかろう。
ちひさな風がゆく、ちひさな風がゆく、おまへの眼をすべり、
おまへのゆびのあひだをすべり、しろいカナリヤのように
おまへの乳房のうへをすべりすべり、ちひさな風がゆく。
ひな菊と さくらさうと あをいばらの花とがもつれもつれ、
おまへのまるい肩があらしのようにこまかにこまかにふるへる。
―今日のわが愛誦句
・春眠や金の棺に四肢氷らせ 三橋鷹女
―今日のわが駄作詠草
・横顔に寒さ思わす女あり
春の眠りの温もりのときに

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