承前。「大津」とは大きな津ということである。「大」は「津」のほめことばであるとみて好い。重要、良質、大切なという港(船着き場)についた美称と考えることが出来よう。大津という地名はまさに湖国と言われる滋賀県の県庁所在地の名に相応しい。一方、「草津」とは、陸地のなかにおける津なのである。草津という地名のことであるが、その原点であると考えられている「菌(くさびら)神社」を探ることを思いつく。JR草津駅の東北500mのところにあるという。カーナビにも現れて来ないので苦労したのだが、「伊砂砂(いささ)神社」という神社の祭礼に出会い、そこの氏子らしい人たちが綿菓子、かき氷、焼きそばなどを子供たちに接待しているので、その内の一人に尋ねると、私が宮司で「菌神社」の宮司も兼ねているとのことで、その場所を丁寧に教えてくれた。傍にいた氏子総代がどちらからきたのかと問いかけて来たので大阪だというと、この焼きそばを持っていけ、と大盛りを渡される。恐縮して賽銭にしていただきたいと1000円を渡す。
「菌神社」。その社伝によれば、景行天皇の頃、竹田折命(たけだおりのみこと)が田植えの折、茸(きのこ)が一夜にして生えたので「菌田連(くさびたのむらじ)」の姓を賜わったという。舒明天皇9年(637)勧請し、はじめ「口狭比良(くさびら)大明神」─「草平(くさびら)大明神」そして、明治から「菌神社」となった由とのことである。
クサツ(草津)のクサ(草)の意味は、、このクサビラ(菌)という神社のクサ(口狭)の由来と一致し、クサツ(草津)のクサ、クサビラ(菌)のクサも共に陸地、土地の意味で、クサツは陸上の中にある津、クサビラ(菌)は陸地に生える花びらのようなもの、すなわち茸(きのこ)とか野菜とかの意味であると、宮司から承った話である。
吉田東伍、『地名辞書』によれば
草津とは種々の物質の聚散せる津頭の義なるべし。此地は水運なきも陸路の走集なれば義相通ずとある。田圃のなかにポツンとだが鬱蒼としたまさに杜の中のお社が、いま、草津と呼ばれる原点の地、すなわち、一夜にして茸(きのこ)が生えた伝承の地であることに思いをめぐらしながら、佇んで羽黒トンボが飛び交っているのを眺めている。
―今日のわが愛誦句
・
日本よ裸に似たる女来る 青島ゆみを
―今日のわが駄作詠草
・江州は父祖の地なりとかねがねも
思いしことは商いのこと

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