俺はまだ観ていないが観てくれと、変なことを言ってDVDを貸してくれた知人がある。いかがわしい代物ではと思ったが、五味川純平の
『戦争と人間』で、延延9時間を越す大作を連夜観て疲れている。昭和3年(1928)の張作霖爆殺事件前夜から昭和14年(1939)のノモンハン事件までを背景に、様々の層の人間の生き様から死に様までを描いている。山本薩夫監督が
『日活』100周年を記念して制作した作品で、滝沢修、芦田伸介、石原裕次郎、田村高廣、丹波哲郎、西村晃らすでに物故した懐かしい大物俳優が出演。そして、その後の太平洋戦争に至る経緯について丁寧に表現されている。
思えば、大正14年(1933)の今日4月22日、
『治安維持法』が公布された日である。この映画にも出てくる時代は、この法律で軍部に支配され、戦争の泥沼にはまり込んでいったのである。また、「内乱罪は破廉恥(はれんち)罪でない」「姦通(かんつう)罪で妻だけを罰するのは誤り」だと説いた滝川幸辰京都帝大教授の
『刑法読本』を内務省が発禁処分に、39名の法学部教官が辞表を提出することがあったのは、昭和8年(1933)の今日にあたっている。そんな時代が背景であるから、
『治安維持法』に絡んだ拷問のシーンが執拗に繰り返されているこの映画は圧巻である。
飢餓寸前の少年が、盗んだぶどうを食べたが、そのぶどうについていた小さな蛇もいっしょに食べてしまった。「お前はぶどうを盗んだろう」「絶対に盗んでいない」とがんばっているうちに、蛇が少年の胃を食い破って少年は死んでしまう。が、少年は死ぬまで苦しさに耐えて盗みを否定し続けた。実はこの寓話は、強情を張って損をしたという話ではない。西洋ではこの少年の強情ぶりを称え、一度、言い出したら最後まで押し通せとの教えであるという。
山本薩夫が追いかける拷問のシーンを観ながら、信念でこの時代を生きた人間の運命を考えさせられた。
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