昨夜は、家人が近隣で栄えた電器店の跡に建ったホテルのオープンに際して、試泊の招待があったので、独り留守居の夜を過ごすことになった。
『晩秋即事』という七言絶句をつぶやきながら、孤閨とはと、秋思して寝つきの悪い一夜であった。
早晨 風冷かなる 授衣の時
窓外 蕭蕭たる 疎柳の枝
露に咽ぶ残蛩 声 断続
憂いを堪えて 数点 菊花披く
「早朝の風が冷たくなった衣替えの(旧暦九月の)時期になり、
窓の外には寂しげに疎らな柳の枝が見える。
露に咽ぶように泣く残秋のコオロギの声が、途切れがちに聞こえてくる。
そんな時節の憂いを堪えるように、菊の花が数点開いたようだ。」とでも、現代語に解釈しようか。晩秋の感慨に耽ってみる。
朝。帰ってきた家人から「天井が低い」「浴槽が狭い」「寝台が狭い」「朝食の好悪」など耳に入って来る周囲の風評などを聞きながら、客商売の難しさを考えているところである。
その昔、開高健が、「近頃のウイスキー党は、殆んどストレートで飲まないが、ウイスキーはストレートで飲むべしだ。」と、ご執筆願いたいとのウイスキーの美味しいいただき方の読者からの相談に、「現代は小さい時代や。生に生で立向かう気力を失うた時代や。すべてに間接接触するだけで、満足している。ときには正真正銘に生(き)無垢というものを味あわねばいかんのに割ったり、薄めたりばかりしている。ウイスキー一口(ひとくち)、水一口、ウイスキー一口、水一口、そうやって純から艶までをふくむ広大な一滴を味わいつくす。西部劇の暴れん坊が一気にカッとあおるのは一説では酒が不味すぎたからで、真似は感心できない。瓶ごと冷蔵庫で冷やしてる人があるけど、これは聡明なやり方や。」と、言っていたことを想い出して、久し振りに開高健の言う手法でウイスキーを生で遣っている。高くて手を付けられなかったスコッチウイスキーではあったが、最近の国産ウイスキーは舶来酒を凌駕していて開高健の言った、生の味が絶品で水で割って飲む愚行を如実に知らしめてくれたことである。
・きょうのわが駄作詠草
目がさめてふと耳にする音ありぬ例えば歩く猫の足おと


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