とうとう褞袍(どてら)を羽織る時候になった。褞袍着てさて何もなき日曜日ではないが、誰も来ない日曜日ならではのくつろぎの着物で広袖に綿が入っている。受験勉強に勤しんだころのものであるかどうか詳らかではないが(半世紀以上そんなものを使っている筈はないのだが)同類項の緊密感があるのだろうずっと同じものを着ているような親しみを覚えるものだ。
同類項という突如、ひらめいた言葉、即ち、代数式で、係数(一個以上変数の積にかかっている定数)は異なるが、他の因数がそれぞれ等しい指数を持つ同一の文字からなる、二つ以上の項なることの説明があり、宿題に出された解析の因数分解の問題を褞袍を着て水洟をすすりながら腹を空かし夜なべしていた時分を想い出す。近所のラジオからは、同い年の島倉千代子のデビュー曲
『この世の花』「あかく咲く花 青い花 この世に咲く花 数々あれど 涙にぬれて 蕾のままに 散るは乙女の 初恋の花」の西条八十の名吟に気を散らされていた頃が懐かしい。今では、腰痛に苦しみながら
よいよいになるのではと懸念したりもしている。何もしない日曜日にならないように、もう少し歩いて来ようかと腰をあげたところである。
ゆきずりの道なればこそその昔微笑みし娘の家今はなく

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