連日きびしい暑さが続く七月に入った。朝から壊されて行く隣地の銀行があったビルの地響きを伴う音に遣る瀬無い暑さを覚えている。この銀行が建てられるとき、わが家の別棟にあった建物を建築事務所にしたものだ。
「新内(しんない)の唄(うた)のなかよりぬけ出(い)でてきたりしごとく君(きみ)はかなしき」とは、吉井勇が紅燈緑酒の巷に惑溺する情景をうたい上げたものである。その銀行の新築がなり、これから新内を教えに行くという、近隣の寮に行くのだという新内節の師匠ともことばを交わす機会も出来た。大阪ではあまり馴染みがないが、東京出身の支店長が東京から人材を集めていたのか、社員に新内節を習わせていて、何処からか美女の新内師匠を見つけて来たものだ。そんなこともまだ残された時代もあったのだ。いろいろなことを想い出しながら、人が去り、建物も地響きとともに潰されて行く。マスクをせず歩けば黴菌が来たと揶揄される街になってしまった。竿竹や虫や金魚を売る声が、ましてや新内節を唄い流す美声も無い。そんな暑い七月がやって来た。
野良猫が三匹庭に入り来て瞬くの間に消えていたりし

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