地蔵盆が終ってもまだまだ厳しい残暑の日が続いている。そんな折、淡い感じの紅や白と桃色のとりどりの花を咲かせ始めるのが鳳仙花である。この一年草の花を観ていると、やがて訪れる秋の哀歓さを知らせてくれるように、みずみずしい茎、柔らかさを感じさせるみどりの葉の横向きに垂れて何時果てるともなく咲き続けている姿を見るにつけ、新型コロナウイルスの感染予防で余り遠方に出かけるのをはばからなければならない老人には愉しいことである。
「やっぱり器用に 生きられないのね 似たような二人と笑ってた 鳳仙花 鳳仙花 はじけてとんだ花だけど 咲かせてほしいのあなたの胸で」と、歌っていた同じ年、生まれの島倉千代子が亡くなって何年経つたのかと思いながら、鳳仙花の紅の花を摘んでその汁を擦って爪を染めることを女の子たちに教えていた老女があり、鳳仙花のことを「つまくれない」「つまべに」とも呼んでいたとテレビで語りかけるのを聴いていて、焼跡を耕した畑の隅で咲いていた鳳仙花のことを知っていた島倉千代子に親しみを覚えたものだ。
残暑のなかにふと思い浮んだ「つまべに」のことである。
窓外に西日を受けしビルありて逆光と云う淋しきことば

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