今年の『正倉院展』は第72回目にあたっていて中学時代から続く図録の冊子が書架を占めている。今年は会場の混雑で新型コロナウイルスの感染を避けるために日時指定券を導入しなければならないことを承知していなかったのでその入館券が手に入らず、諦めていた折に、知人が夫婦と行こうと購入していた日時指定券が奥さんの突然の病気入院があり、拝観出来ないことになり、代わって貰いたいということになった。その日時の指定日が今日の午前9時から10時ということで、妻と出掛けることになった。
早朝から奈良国立博物館に出かけた。妻が慮って地下道を通らずに斜めに菊水楼の手前の道にでて、鹿に煎餅をあげる人たちを見つつ、いつもの入り口に辿り着いた。例年は前売り入場券を持っていても会場を取り巻く拝観者で1時間近く待たなければならないのだが、今年はその混雑もなく入館出来た。だが、年は取りたくないのだが、車椅子の使用を勧められる始末になってしまい、来年は駄目ですねと妻に揶揄されてしまった。
聖武天皇が薨じて49日目に光明皇后が天皇遺愛品と共に、60種の薬物を東大寺の大仏に献納し仏を供養するとともに、病人に分けて病気を癒す目的にして欲しいとの要望があった。その薬物が正倉院にも残されていて
『五色龍歯(ごしきりゅうし)と呼ばれる象の上頤(うわあご)右第三臼歯(きゅうし)の化石(約40万年前から2万年前)と云われる薬として残されたものの展示があり、コロナ禍の最中に悩むわれわれに深い感銘を与えていた。効くか効かぬか分からないものを珍宝とした天平人のこころが伝わって来て、長年観続けて来た正倉院御物の価値感に目頭の熱さを覚えた次第である。
紺碧の奈良公園の空を見て鹿と遊びつ秋深み行く


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