お久し振りですという笑顔に見覚えがない。運送業者が新型コロナウイルスで、仕事が殆んどなく会社に運転手が派遣されていないので、倉庫係りの私が代わりに寄せてもらいました、という。幾ら想い出しても分からないので、何時ごろからの知り合いなのかと訊ねると、神戸の震災前からと云う。もう30年も前のことになる。中学を出て何も分からなかったころ、その会社の幹部に、わが社の倉庫を片付けるように言われて毎日来ていたという。倉庫の在庫を確認しそれが済めば帰って宜しいと云うことであったらしい。後日、知ったのだが、それが大変な発見のきっかけになるとは想像しなかったのである。わが社は当時も今も、倉庫が店から離れていて、納品された商品は業者に依存する場合が多々ある信頼関係にあった。ある日、親しい同業者がその得意先から貰い物であると空瓶だけの返品があり、再三に渡りその状態が続いたので、会社に調査するように進言してくれた。配送担当の運転手がわが社に納品する中からピンはねし、その商品を同業者の得意先に廉価で買ってもらい空瓶だけが同業者に返される仕組みであったことが分かったのである。それが前述のわが社の在庫の確認で露見したのである。今日配達してくれた倉庫係りの運転手は、当時の会社から今の会社に合併した時以来の古参社員であった。そんな関係が分かって、わが社との因縁を知ることが出来た。当時の会社の社長は、ピンはねの事情を知り、その運転手を社長室に呼びつけて、「ええ加減にさらせ。このカス」と、
けんもほろろに、やってないとのいい訳を覆して、証拠があると、彼の首を即刻斬ってしまった。大阪ことばで、
「ガシンタレ」というのがある。牧村史陽によれば、『甲斐性なし。意気地なし。ガシンは、ガシ(餓死)で、飢え死にするよりほかに能のない人間、取り柄のない役立たずの意から、人を罵倒する言葉に転用されたものである。タレは貧乏タレ・シミタレ・クソタレなどと同じく、垂れるの義で、軽蔑の意味を含んだ接尾語』と、彼の著
『大阪ことば事典』にある。そんなことを想い出して当時の社長も君の名を秘した英断は立派なことで、合併の折に先方の社長に君のことを伝えるように申し入れたことも思い出した。現在も頑張っているのを評価したところである。
尾を垂れて野良猫どこに行くのやら一匹だけがそれを見ている


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