風が吹けば唸る。たしか以前には記憶のないことであったのだが、最近になって気になり出した。外に出て付近を歩くとそんなうなりが聞えないところもある。こんなおかしな現象を、その都度、訪れて来る人に問えば、大概はビルとビルとの間を通過するときの風の音だと言う。
詩人の吉原幸子さんに
『風』と題する詩がある。
すこし暖房がききすぎるので 回転窓をほそく開けると
あはててまた閉めるほどの 風のうなり
(陽ざしは 小春日のうらうらなのに)
風圧に逆ってやっと閉める するともう 音のない午後
(どこにあの風?)生き生きと動くものは 木たち
それに 光る洗濯物たち
建物も 屋上の給水タンクも その細い脚も
テレビのアンテナも 電線さへ揺れない
にんげんのつくったモノは なるほど堅固だ
でもごらん モノをつくったご本尊たちは
前のめりに 裾ひるがへして
あんなに頼りなげに 木の葉のやうにー
最近、わが街が急速に変貌している。戦後、焼跡にバラックが建ち並び、忽ち、生活の最先端を先取りした、家電店の進出で「でんでんタウン」として発展して来た。その街も各地に出現した量販店に来街客を奪われ逼塞して既存業者の閉店が相次ぎ、街の様相に変化が目立ち出した。そして、昨今、マンション、ホテルの建設で高層ビルの乱立を見ることになっている。知らぬ間にわが家もビルに囲まれてしまった。前のめりになって前の舗道を歩いて行く通行人を見ての寸感である。
騒がしく唸る風音聴いている一歩歩けばその哀感を


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