朝から終日猛暑日の予報が出ている。誰に言うでもなく、「今日も暑くなるのか』と独言を呟く。なのに妻は「すみません」と、殊勝な顔をして頭を下げた。別に何を責めるでなく呟いた言葉だったので、何に謝ってるのかわからない、「否、これから川西池田まで出掛ける」と云う。何だそんなことかと、熱中症には気をつけるように言って送り出した。
川西池田と云えば、拓本を長年やっていて、中国の洛陽龍門石窟、鞏県石窟、水泉寺石窟、千唐志斎(これは書らしいー)など仏教文化の芸術の宝庫の仏像を某中国学者とよしみ通じて拓本に取らせてもらった経緯がある。その長年付き合いがあった女性も卒寿を迎え、よる年波には勝てないのであるが、妻の興味を把握してくれており、現在進行している宇治の平等院鳳凰堂の彫刻で有名な雲中供養菩薩(うんちゅうくようぼさつ)についての拓本を貴女も採りなさいとお誘いがあったので暑さ厳しきなかを出掛けて来るということであったのだ。
夕暮れが近づいているのにまだ気温は下がらずエアコンのなかを家猫は快適に安眠を貪っている。
人通りピタリと絶える午後にして何を怒るか喚く人あり

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