背後の森で賑やかなクマゼミの鳴き声が響いている。そんな高台に立って…。
いつも、セミの鳴き声は幼かった頃の夏休みのひとこまを思い出させる。
大分市街だけでなく、遠く別府湾や国東半島まで、180度見渡せるこの丘に両親が眠っている。南西に開けて、いつも日当たりの良いこの丘で、両親もこの風景を見ているのだろうか?
暑い日差しに汗ばんでも、吹き渡る風が心地良い。
輝く広大な別府湾。水平線に立ち上がる入道雲。ホーバークラフトの、のどかな白い航跡。
長い歴史を物語る大きく広がった大分の街。
遠く重なる山並み。入り組んだ丘陵地。緑の上に広がる青空。
ずっと昔、海だった地形に広がる街並み。
街中をせわしげに走り回るクルマはアリの群れ。
アリ達は何をそんなに急ぐのだろう。
ここだけに、ゆっくりとした時が流れている。
それでも、時は待ってくれない。
過ぎ去った時はどこに行ったのだろう?
「今」は過ぎ去った時の終焉にあるのか?
はっきりしているのは、今は今でしかないこと。
それは、明日の為に生かされねばならないこと。
目の前に広がる絶対的風景。有るものすべてを包み込んだ風景。
大自然に溶け込んだ人工物としての街並み。
絶対的風景は強い。美しい。
そこに吹く風は健やかな息吹だ。
クマゼミは今も昔も一生懸命だ。

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