2012/9/29
タイ・デーン族のラック赤 技巧・意匠・素材

●宗教儀礼用の司祭者腰衣”シン・ピー”
製作地 ラオス・フアパン県
製作年代(推定) 20世紀初め
民族名 タイ・デーン族
素材/技法(画像の部位) 絹、ラック等の天然染料 / 緯絣
ラックカイガラムシから色素を抽出し染めの素材とする”ラック染料”の使用は、インドシナ諸国の染織に広く見られますが、茜染めの赤に比べて紅(ピンク)掛かった色味となることが通常です。
しかしながら、ラオスやカンボジアで手掛けられた古い染織作品の中に、”茜赤”と見紛うばかりの濃厚な真赤に染められた作例と出会うことがあります。
地産の絹手引き糸や木綿手紡ぎ糸、その土地の材から得た特殊な調合や加減の媒染剤、水の性質、気温や湿度及び染めの季節、そしてラックを染料化する特殊な技巧... 様々な条件が相俟って、この奇跡的な色味の”ラック赤”が生まれたことと推察できます。
この赤の色味・質感は現在では失われしものとなりました。いまでは誰も再現できない布上の色
”時代色”として残るばかりです。

●本記事内容に関する参考(推奨)文献
2012/9/27
飛翔を志向する天蓋布 技巧・意匠・素材

●仏教儀礼用の天蓋布”ピダン”
製作地 カンボジア南部
製作年代(推定) 20世紀初め
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 綾地・緯絣
主に寺院の天蓋布(仏陀様を奉った祭壇の背壁及び天井等に張られる)として用いられる、仏教絵巻としての絹絵絣”ピダン”。
緯絣ながら、緯方向に絵柄の上下が決められ(画像の上下方向が緯)、躍動感溢れる絵柄が緻密な括り・染め・織りにより流麗に描き出される、完成度の高い絣作品です。
空間に張られる布であるとともに、画面構成自体が飛翔(視線の上昇と浮遊)を志向するデザインとなっており、素材・技巧・意匠を併せ、世界に唯一のオリジナリティを有します。
●本記事内容に関する参考(推奨)文献
2012/9/26
祈りと根気の織物 技巧・意匠・素材




●アラン族(チン族系)の嫁入り織物
製作地 ミャンマー・ラカイン州
製作年代(推定) 20世紀初め
民族名 アラン族
素材/技法 木綿、天然染料 / 経地合・片面緯紋織、二枚接ぎ
結婚前に一枚、結婚時にもう一枚を母親が数箇月〜半年掛かりで織り、接ぎ合わせて完成させ、娘に嫁入りの家財として託すアラン族の大判の織物。
経地合の片面緯紋織で表された緻密なうえにも緻密な文様、技術的にも素晴らしい織物ですが、それ以上に愛情・祈りゆえの”織り上げる根気”に圧倒される想いがいたします。
文様は総異柄、170を数える文様が織り描かれた、世界に稀有の意匠を薫らせる織物です。
●本記事内容に関する参考(推奨)文献
2012/9/25
土地と時代に固有の色香 技巧・意匠・素材




●シャン族貴婦人の腰衣
製作地 ミャンマー・シャン州
製作年代(推定) 19世紀後期
民族名 シャン族(タイ・ヤイ族)
素材/技法 木綿、絹釜糸、天然染料 / 経縞、経紋織、刺繍
ある土地で、ある限られた時代にのみ生み出すことができた色香を纏った染織・衣装作品。
同じような糸、同じような染料を用いても再現することの出来ないであろう空気感と物語を秘めた表情に愛おしさを感じ、深いところに惹き込まれていきます。
●本記事内容に関する参考(推奨)文献
2012/9/24
完成美 技巧・意匠・素材

●宮廷・寺院の儀礼用布”ピダン”
製作地 カンボジア・コンポンチャム
製作年代(推定) 19世紀後半
素材/技法 絹(カンボウジュ種)、天然染料 / 綾地・緯絣
素材・技巧・意匠、作品の用途、時代背景、文化の固有性... あらゆる要素が一作品としてここに結実していると感じられる”完成美”に出会えた瞬間が、感動と至福をもたらしてくれます。
●本記事内容に関する参考(推奨)文献
2012/9/23
籠の鳥 旅の一場面

(写真 カンボジア・プノンペンにて)

(写真 ミャンマー・ヤンゴンにて)
インドシナ諸国の仏教寺院の前、籠の中の小鳥を購い、その場で空に解き放してあげれば徳を積むことに繋がるとされます。
いつの時代も、籠から自由になりたいのは、小鳥を空に放つその人(人間)自身なのでしょう。
2012/9/21
18cシャム古渡り更紗 染織

製作地 インド南東部 コロマンデル海岸エリア
製作年代(推定) 18世紀中期〜後期
渡来地・使用地 シャム王国
素材/技法 木綿、天然染料 / 手描&手染、媒染、防染

”古渡りインド更紗”の多くは、オランダやイギリス(東インド会社)等の交易催行者が、交易地の好みに合わせたもの(=金銀や香辛料香料等と優位に取引きできるもの)をインドの更紗製作者に発注し交易品としたもの、つまりデザイン発注者=交易催行者である場合が主流となります。
しかしながら、このシャム古渡り更紗は、シャム王国が宮廷儀礼用の布として、インドの更紗製作者と直接遣り取りをして完成に至った、シャムオリジナルデザインのインド更紗であり、当時のシャムとインドの共同製作品と言えるものです。
細密な毛抜き状のカラムカリ(手描き)で表現される文様の一つ一つ、茜の媒染染めを主体とする鮮やかかつ重厚感のある色彩と精緻な配色、シャム王国の染織デザイナーの細かなリクエストを、インド側の最上級の技術を有する絵付け職人・染め職人等が誇りに掛けて具現化した特注品であり、作品からは独自の完成美と信仰の布としての精神性が薫ります。
このシャム更紗の完成度の高さは、当時(江戸時代)の日本の大名・富裕層・茶人等を魅了したことは、現在に伝わる調度品や資料の示すとおりです。
●本記事内容に関する参考(推奨)文献