2016/2/29
高床穀物庫アランの天部装飾 旅の一場面


(写真 インドネシア・スラウェシ島 タナ・トラジャにて)
2016/2/28
”ドティ・ランギ=天界の班点”が描かれたトラジャ染織 染織
●染めとスリット織及び絣の併用染織 儀礼用の衣布

製作地 インドネシア・スラウェシ島 西スラウェシ州若しくは南スラウェシ州
製作年代(推定) 19世紀
民族名 製作者:ロンコン人? / 使用者:サダン・トラジャ人
素材/技法 木綿、天然染料、顔料 / 平織・スリット織、捺染、描き染め、経絣(スリット部分)
●浮文の二色二重緯紋織 儀礼用の褌

製作地 インドネシア・スラウェシ島 南スラウェシ州
製作年代(推定) 19世紀
民族名 製作者:サダン・トラジャ人 / 使用者:サダン・トラジャ人
素材/技法 木綿、天然染料 / 平地、緯紋織(二色二重)
●手描き媒染による両面染め 儀礼用の幟幡

製作地 インドネシア・スラウェシ島 西スラウェシ州若しくは南スラウェシ州
製作年代(推定) 19世紀
民族名 製作者:ママサ・トラジャ人若しくはサダン・トラジャ人 / 使用者:サダン・トラジャ人
素材/技法 木綿、天然染料 / 手描き、媒染(泥の鉄媒染含む)、両面染め
2016/2/27
19c泥(鉄)媒染・両面染め 失われしトラジャ更紗 染織





製作地 インドネシア・スラウェシ島 西スラウェシ州若しくは南スラウェシ州
製作年代(推定) 19世紀
民族名 製作者:ママサ・トラジャ人若しくはサダン・トラジャ人 / 使用者:サダン・トラジャ人
素材/技法 木綿、天然染料 / 手描き、媒染(泥の鉄媒染含む)、両面染め
サイズ 56cm×254cm
全長2m半に達する存在感溢れる意匠の本布は、祭事の幟幡として用いられたと考えられておりますが、布を所蔵・継承してきたサダン・トラジャ人の間でも明確な記録(記述)は残されておらず、出自や製作当時の用途等についておぼろな口承(記憶)のみが今に伝わる作品です。
明らかなのは、本布がスラウェシ島のトラジャ地域で手掛けられたものであること、今では製作されていない途絶えた伝統の染織であること、外来のインド更紗等とともに聖なる布”マア”と看做され、長い年月にわたり大切に保管・伝世がなされてきたという事実及び現在の姿となります。
作品の特徴としては、手紡ぎ・手織り木綿地に複数の媒染剤の描きが布両面から行なわれ、天然染料の浸染により模様付けがなされている点で、泥内の鉄分を利用する所謂泥染めが併用されている様子も伺われ、一見すると素朴な色柄の染め布ながら、百余年を遡る時代の木綿染め布としては、専門的な媒染技術(知識)に裏打ちされた高度な染織作品と言うことができます。
インドネシアの伝統染織と位置づけられる蝋を用いた防染による染め物(=バティック)ではなく、防染を前提としない媒染を主技法とする染め物(=インド更紗的染色)を志向している点に、この種の古い時代のトラジャ染織の独自性と特殊性があると考察されます。

(写真 インドネシア・スラウェシ島 タナ・トラジャにて)
2016/2/26
今も村々の生活の場であり続ける舟形屋根 旅の一場面



(写真 インドネシア・スラウェシ島 タナ・トラジャにて)
居住スペースとしての家屋”トンコナン”と穀物を中心とする貯蔵庫”アラン”
2016/2/25
17c手描き”幾何学&ゴマ手鋸歯文”インド更紗 染織



製作地 インド南東部 コロマンデル海岸エリア
製作年代(推定) 17世紀
渡来地・使用地 インドネシア・スラウェシ島トラジャ
素材/技法 木綿、天然染料 / 手描き、媒染、防染、片面染め
サイズ 88cm×204cm
このアラベスク風の模様は一般的にはスマトラ・ランプン渡りのイスラーム向けデザイン様式として知られるものですが、本布は17cにスラウェシに渡りトラジャ伝世布とされた点でやや特殊な部類のものと考察されます。そしてランプン渡りでは平滑な木綿地が主流ですが、本品は鬼手に近い木綿地であること、88cm×204cmとサイズが小ぶりである点にも特徴が見出せます。
何と言っても藍地と茜地を巧みに交えて染め描かれた文様密度の濃い”アラベスク模様”の色柄の美しさは格別であり、本体部の"線”での表現、ボーダー部の”点描(ゴマ手)”での表現のコントラストにも秀逸な味わいがあります。時代が育んだ空気感と色香に惹き込まれる一枚です。





2016/2/24
バティック模様の祖形となった古渡り期のインド更紗 染織
●17世紀 手描きインド更紗 トラジャ渡り

●バティック カウォン模様 製作開始時期はおおよそ18世紀後期〜

日本へはシルクロード〜中国由来の織物文様(錦等の絹織物)として仏教伝来の時代前後に伝わったと考察され、その後長きにわたり愛好されてきた”(花)輪違””七宝”のモチーフですが、インドからインドネシアへはインド更紗、つまり染め物の模様を通して伝わったものと考えられます。(近似する文様自体は時代を遡るヒンドゥの建築彫刻等でも確認することができる)
このモチーフはインドネシアでは”カウォン”と呼ばれますが、ジャワの王国において、大柄の”カウォン”は宮廷の禁制模様とされるほど高貴かつ重要な文様として取り扱われてきました。
2016/2/23
17c手描き”花輪違文”インド更紗裂 染織


製作地 インド南東部 コロマンデル海岸エリア
製作年代(推定) 17世紀
渡来地・使用地 インドネシア・スラウェシ島トラジャ
素材/技法 木綿、天然染料 / 手描き、媒染、防染、片面染め
裂サイズ 28cm×32cm
輪が上下左右に交叉しながら連鎖的な模様を構成する”輪違(わちがい)”の文様が手描き多色染めで表現された17c作のトラジャ渡りインド更紗裂。輪の各処に”花”を表わすモチーフが散りばめられており、”花輪違文(はなわちがいもん)”と呼称するのが相応しい作例です。
本インド更紗の大きな特徴は、茜地と藍地がほぼ同じ面積比率で入っていることで、媒染による”茜浸染”と防染による”藍浸染”の双方を巧みに組み合わせた、高度かつ手の込んだ製作技法の作品と言うことができます(茜地でありつつ藍地でもあるという両義的インド更紗は少ない)。
大陸由来の”輪違””花輪違”の文様は、古来より日本でも馴染みが深く、本インド更紗は日本向けの”古渡りインド更紗”であったとしても違和感の無いもののように思います。17世紀、江戸初期の大名・貴族・茶人が本裂を目にしていたとしたら、大いに愛玩したものと想像されます。
繊細でありながらふくよかさを兼ね備えた木綿地、明瞭で力強い染まり感を有する色彩、フリーハンドで流麗に描かれたカラムカリの描線、時代に由来する濃密な空気感と精神性が布上に凝縮したインド更紗であり、時代が変わると、この表情は表れ出ることがなくなりました。




2016/2/22
トラジャ人の誇りでもあるトラジャコーヒー 旅の一場面





(写真 インドネシア・スラウェシ島 タナ・トラジャにて)
2016/2/21
田園地帯の奥の森にある王族のお墓 旅の一場面




(写真 インドネシア・スラウェシ島 タナ・トラジャにて)
2016/2/20
祭事での噛み嗜好品”キンマ”の儀礼 旅の一場面



(写真 インドネシア・スラウェシ島 タナ・トラジャにて)
●水牛とキンマの葉(生命樹)の壁面装飾 ママサ・トラジャ

●水牛とキンマの葉の混交意匠(角・耳がキンマの葉) タナ・トラジャ

2016/2/19
キノコ的な”キンマの葉”模様の手描きインド更紗 染織


製作地 インド北西部 グジャラート州?
製作年代(推定) 17−18世紀
渡来地・使用地 インドネシア・スラウェシ島トラジャ
素材/技法 木綿、天然染料 / 手描き、媒染、防染、両面染め
一見すると”葉っぱ”が描かれているとは思えない、”キノコ”か”つくし”のような不思議な絵柄が手描きされたトラジャ渡りのインド更紗。
しかしながら、トラジャ渡りインド更紗の様々な作例を目にしていくと、これは明らかに”キンマの葉”を表わすものであり、それがデフォルメされたものであると判ります。
●15−16世紀作のトラジャ渡りインド更紗に描かれた”キンマの葉”

●14世紀作のトラジャ渡りインド更紗に描かれた”キンマの葉”

※上画像は平凡社刊「別冊太陽 更紗」より転載いたしております
●キンマの葉(コショウ科コショウ属)

ビンロウジ(檳榔子)を砕いたものと石灰・香辛料等を”キンマの葉”に包み口の中に入れて噛む、清涼感のある嗜好品”キンマ(蒟醤)”は、南アジアと東南アジアを中心とする熱帯アジア圏でひろく用いられてきたもので、古代に遡る長い歴史を有します。
また”キンマの葉(betel leaf)”自体に様々な薬効(有効)成分が含まれていることが知られており、噛み嗜好品とは別に、諸地域・諸民族それぞれの方法で薬としても用いられてきました。
鎮痛等の薬効成分及び興奮・酩酊作用を有する(とされる)キンマは、古来より宗教儀礼・呪術とも深い結びつきを有しており、意匠が凝らされた檳榔子カッターやビルマの蒟醤漆器等、儀礼に纏わる手工芸のうちにも、その結びつきの深さを伺うことができます。
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インドネシア・スラウェシ島トラジャにおいては、この地にもたらされた14世紀に遡るインド更紗(上掲)のうちに”キンマの葉”が描かれていることが確認されており、トラジャ向けデザインとされるインド更紗には、他の国・地域向けの交易インド更紗とは明らかに異なる高い頻度で”キンマの葉”が描かれていること(その作例)を見い出すことができます。
本トラジャ渡りインド更紗は、86cm×116cmと小ぶりで特殊なサイズの作品であり、トラジャの祝祭・葬祭儀礼に欠かすことの出来ない”キンマ(噛み嗜好品)”を使用する際に、王族・貴族階級の者が道具敷きの布として用いた可能性を指摘することができます。





2016/2/18
樹木と同化していく生命樹的トンコナン 旅の一場面

(写真 インドネシア・スラウェシ島 タナ・トラジャにて)
2016/2/17
トラジャ彫刻とトラジャ向けインド更紗の意匠 技巧・意匠・素材
●サダン・トラジャ人王族の舟形木棺に見られる彫刻の意匠

(写真 インドネシア・スラウェシ島 タナ・トラジャにて)
●トラジャ向けインド更紗 手描き藍地植物文の意匠

トラジャ人王族の家系に伝わる木棺を装飾する彫刻の意匠と符号するデザインのインド更紗。
家屋の壁や木棺等トラジャ人の彫刻(ウキ)で描かれるのは、彼らが信仰する”精霊・自然崇拝(アルク・トドロ)”に基づくもので、本意匠は”植物的精霊文”とも名付けることができます。
トラジャ人の”植物的精霊文”が、海洋交易の時代に”トラジャ向けインド更紗”の意匠とされたものなのか、逆に(更に数世紀を遡る時代の)インド更紗等の染織の意匠がトラジャ人の彫刻に影響を与えたものなのか、判断には研究・考察を要するものですが、興味深いものです。
”日本向けインド更紗”の中には、”扇面”や”桜花”など明らかに日本的意匠がデザインされたと判断できるものが存在しており、このことは”純粋なトラジャ的意匠”が描かれたインド更紗が存在し得ることを示唆しているように思われます。


製作地 インド北西部 グジャラート州?
製作年代(推定) 17−18世紀
渡来地・使用地 インドネシア・スラウェシ島トラジャ
素材/技法 木綿、天然染料 / 手描き、媒染、防染、両面染め
2016/2/16
17−18世紀の未完成のインド更紗 染織


製作地 インド北西部 グジャラート州?
製作年代(推定) 17−18世紀
渡来地・使用地 インドネシア・スラウェシ島トラジャ
素材/技法 木綿、天然染料 / 手描き、媒染、防染、両面染め
サイズ 約90cm×約480cm
本来は染め作業の完成後、鋸歯模様エンドボーダーと同向い合せエンドボーダー間の焦茶中央部で切断され、二枚の布が扉状に接ぎ合わされて完成に至った(はずの)大判のインド更紗。
しかしながら本布は、海洋交易の時代に、未切断・未縫製のままインドから船に載せられスラウェシ島トラジャの地にもたらされたもので、未完成のままの作品と看做すことができます。
数年前インド・グジャラート州で、左右接ぎ合わせ分を連続して染める手法の両面染めアジュラックを目にしたことがありますが、本布は17−18世紀まで遡る時代に、同じ手法で染められた両面染めインド更紗が存在することを”現物として確認できる”貴重な資料と考察されます。
トラジャ人が祭事儀礼の幟旗等として用いるため、敢えて未切断のままの長布を求めた可能性が考えられますが、300年前後の長きにわたる歳月、この布を代々継承する中で、”誰もこれを切断しようとしなかった...”という事実に驚かされ、ある種の畏敬の念を覚えます。
トラジャの地で、日本の”古渡り”にあたる時代のインド更紗の完品が残存するのは、インド更紗を”聖布マア”として崇め、これを一族の家宝として伝世する慣習が脈々と受け継がれてきたためですが、本布の存在は聖布信仰の(根強き)本質を裏付けるものと言えるように思います。
2016/2/15
パトラ写しのトラジャ伝世インド更紗(2) 染織

製作地 インド北西部 グジャラート州
製作年代(推定) 18世紀
渡来地・使用地 インドネシア・スラウェシ島トラジャ
素材/技法 木綿、天然染料 / 木版捺染、媒染、両面染め
サイズ 緯78cm×経212cm
同時代作の絹経緯絣パトラのデザインが忠実に写された、18cのトラジャ交易向けインド更紗。
この手のパトラ写しインド更紗は比較的長い期間にわたり製作されスラウェシ島トラジャやバリ島にもたらされたことが確認されますが、いずれも両面染めで手掛けられている点に特色があり、単なるデザインの写しでなく、パトラを代用する儀礼用布として用いられたことが推察されます。
繊細な模様ではありませんが、デザインと染めの完成度の高さを感じさせるインド更紗です。
●参考画像 絹経緯絣 パトラ (インドネシア渡り)

※上画像は京都書院刊「知られざるインド更紗」より転載いたしております




