ある日、呂がやはりどうしたものかと考えながら歩いて
いると、道端で一人の僧侶と出会った。その僧はじっと
呂の相貌を観察して言った。
「貴公の相貌は神色明潤である。必ず大きな善事を為し
たに相違ない。国印が輝き煌々として紫彩が現れている。
このような気が散じないのは、必ず科挙に及第する徴で
ある。国印というのは、肉の裏に黄色が隠れ、その外に
紫気が覆うことを言う。今年の科挙の状元はあなたに相
違ない。おめでとうござる。」
呂が旅費を人に送ってしまったことを告げると、僧は、
指を折って占い、呂に言った。
「旅費はある。もうすぐ手に入るだろう。」
呂はその言をとても信じることができなかったが、相手が
僧侶であるので、怒るわけにもいかず、そのまま別れたの
であった。
ところが、僧と別れてしばらくも行かないうちに、旧友で
同窓生の李覚生とばったり出会ったのである。二人とも
旧交を懐かしがり、かつ喜んだのである。そして、李が
是非家に来てくれと誘うので、遊びに行ってみることに
した。実は、李は役人で、江西に派遣されてからは、その
県の知事に次ぐ高官となっており、裕福に暮らしていた
のである。
さらに驚いたことには、李の家で食事をご馳走になっている
ときに、その妻が出てきて挨拶をしたのであるが、なんと、
それは呂の従妹であった。この従妹は淫蕩な性格であったが、
小さなころから呂の家に住んでおり、呂とは大変仲が良かった。
幼少時から慣れ親しんでいたので、自然と二人の間には恋情
が生じたが、彼女の父親は呂のうちが貧しいことを嫌い、従妹
を早々に李覚生に嫁がせたのであった。
彼女は夫に随い江西に来たのであったが、今日思いもかけず
呂と再会することができ、大変喜び、かつ舞い上がってしまっ
たのである。が、呂の方は現在科挙に赴く途中であり、その
ことに集中していたので、彼女の気持ちにそれほど敏感には
なっていなかった。
さてその晩、呂と李は楽しく杯を重ね、旧交を温めたのである。
そこで、呂は李に旅費を助けて欲しいと頼んでみた。すると、
李は出来るだけの事はしようと約束してくれた。お陰で呂は心
の重荷をおろしたように爽快となり、さらに杯を重ねて楽しい
時を過ごした。
李が、科挙の試験日まではまだ日があるからしばらく家に
逗留しないかと誘うので、その誘いを受けることにした。
翌日、早速旅館へ帰って荷物をまとめ、李の家に戻り、しば
らくそこ住むことになったわけである。
ところが、あろうことか、李の妻である従妹は、旧情忘れが
たく、夜間に呂の部屋に忍んで誘惑したのである。呂も旧情
を思い、誘いに乗りそうになったが、はっと回心し、「絶対
だめだ!読書人にとって『色』の字は最も慎むべきものである。
ましてや君は朋友の妻ではないか!」と心を閉ざし、厳しい
態度で拒絶した。
自らの情熱に冷水を浴びせられ、恥ずかしさと怒りにさいな
まれ、なんと彼女はその晩首をくくって自殺してしまったの
であった。
―― つづく ――

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