翌日、李が帰宅してみると、なんと妻が自殺しているでは
ないか。驚き慌てたが、彼にはまったくその理由が分から
なかった。そこで、呂が正直に前夜の出来事を話して聞か
せたところ、嘆き悲しみながらも、事情を理解し、呂に旅
費を与えて北京へと赴かせたのである。
さて、呂は無事に北京に到着し、いよいよ科挙の試験に
臨んだ。課題の文章を書き上げたころにはすでに夜に
なっていたのだが、できばえは我ながら素晴らしいと
思えるものであった。念のために、さらにもう一度細か
く見直しをしていた時のことであった。一陣の陰風が吹い
たかと思うと、髪を振り乱し、舌を伸ばした女の幽霊が
こちらにやって来るのが見えた。
呂は大変驚いたのだが、心を鎮めてよく見ると、なんと
その女の幽霊は、首をくくって亡くなった彼の従妹、つ
まり李の妻の霊であった。
その霊は、呂を指差して「薄情者!」とののしり、「私
を死なせた恨みを今宵こそ晴らしてやる」と続け、猛烈な
勢いで呂に飛び掛り、命を奪おうとしたのである。ところ
がその時、忽然と一人の老人の霊が現れ、李の妻の霊と
戦いを始め、ついに李の妻の霊を追い払ってしまった。
その老人の霊は笑いながら「友よ。私はあなたが南昌に
来られた時、娘に大金を施して埋葬していただいた者
です。」と言い終わるや、また忽然と姿を消してしまった。
呂は夢から覚めたように気がつき、あの僧が観相して自分
に言ったことを思い起こしたのである。そして、深くため
息をついて言った。「相は心より生じ、好運は色を見て
淫せざるにあるのだ。さもなくば我が命は無かった。」
この科挙の試験で、呂は状元(一番で及第すること。状元
になれば超エリートであり、将来は約束される。)を
勝ち取ったということである。

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