密教の経典を渉猟してある時ふと気づいたのであるが、
佛尊・如来の降伏の対象は常に天(デーヴァ)なので
あり、阿修羅(アスラ)が降伏されるという記述が
一切なかった。
「…まてよ。一体これはどういうことなのか?」
天部の神は仏教に帰依し、護法善神として密教に取り
入れられているはずである。その帰依の過程において
佛尊の降伏を受けるという事は充分に考えられること
であるが、天の敵対者である阿修羅(アスラ)がその
降伏の対象として一切出てこないのはなぜなのだろう
と疑問に思ったわけである。天よりもっと凶悪な阿修羅
達がなぜ降伏の対象にならないのかという自然な疑問
である。
その後、アスラ=アフラ=光の神(善神)=非インド・
アーリア民族の神という認識にいたり、さらに、エリ
アーデの著作から古代インドにおいても、アスラという
名称は神的存在を賛美する一般名称であったと理解し、
アスラに対する凶悪な闘争の神であるという認識が
一変したのである。
また、アスラの王(統領)の名前にヴァイローチャナ、
ヴィローチャナという名称を見つけたとき、まさか
大日如来というのはアスラを起源としているのかも?
という新しい所見が私の中に生じたのである。そこで
アスラ=光の神というふうに考えると、仏教と光の
関係について思いをいたすようになったのである。
仏教では一切衆生が輪廻の苦海を抜け出す事ができない
根本的な原因として無明を挙げる。そう、明が無いと
いうのが原因なのである。明とはまさに光ではないか。
もちろん仏教で言う明とは智慧を表すわけであるが、
そのイメージは光なわけである。光明なのである。
阿弥陀佛(無量光如来)や大日如来、薬師瑠璃光如来等
光をイメージさせる佛尊も数多い。
そのように思索して、もしかすると仏教は、その
起源をゾロアスター教をさらにさかのぼった古代の
宗教に求められるのかもしれないなどと妄想を重ね
ていたのである。ただ、仏教は明かに釈尊が説かれ
たことにより発生しており、釈尊が始祖であるから、
ゾロアスター教から派生したとはもちろん考えれ
ないが、その思想の根底にそういう古代宗教の流れが
影響していたのかもしれないと、なんとなく思って
いたわけである。
そして、今年の岡寺のお手伝いのおり、その仮説を
衆僧に披露したのだが、2〜3人を除いてほとんどの
方が半信半疑の中、私の管見を耳にした獅子王猊下が
「密教ばかりでなく、釈尊自身がアスラの側である
ということは、30年ほど前に宮坂宥勝先生が既に
論文として書かれている。」と教えてくれ、かつ同意
してくれたのであった。(;^_^A
「へぇ〜。獅子王猊下、そんなこと大学の時から
知ってたの?すごい〜。(@o@)」と心中驚くとともに、
大いに私を啓発してくれそうな宮坂先生の一連の著作
を知ることになり、大変喜んだのであった。
早速大阪へ帰宅してから宮坂先生の一連の著作集を
府立図書館などで手に入れ、興味深い仏教の起源や
当時の部族社会の仕組みと仏教の関連にたいする
知識が深まった。
それらによると、シャカ族は日種と呼ばれる太陽神の
末裔(他に月種という流れもあるようである。)であり、
アーリア化が進み始めた当時のインドにおいて、非アー
リアの部族として、アーリア人に敵対する関係であっ
たようなのである。(…まさにアスラです。)
また、どうもシャカ族に伝わる独自の宗教のようなもの
があったようで、釈尊はそれを元に仏教を説かれた可能
性が強いということであった。(その証拠として、過去佛
の思想や釈尊に敵対する提婆達多の仏教の存在などが
挙げられる)【因みに提婆達多の仏教では過去佛は祀る
が釈迦牟尼佛だけは祀らない。…やっぱりね。(;^_^A
これは法顕伝に載っているそうである。】
そして、獅子王猊下も書かれているが、釈尊は反アーリアの
林住部族や諸部族(またはその信仰する神)を天龍八部
として初期仏教教団に包摂したのである。つまり、仏教
にはジャイナ教や唯物論者達と並んで反アーリア・反バラ
モンの宗教としての顔も存在する。
だから、バラモン教やヒンズー教側から見ると、仏教は
敵対者であり、釈尊はアスラの一派であると見なされて
いるのである。そのため、中世のプラーナ文献などでは、
釈尊はアスラを操ってデーヴァに対抗する者として
描かれているらしい。
これで密教の経典等で常にデーヴァ(主に大自在天と
その妃であるが、諸天はその眷属である)が降伏の対象
とされ、アスラが降伏の対象として出てこない理由が
やっと解った。だって、デーヴァをやっつけてるのは
姿を変えたアスラ(大日如来)なんですもの…。(@o@)
はしょって、散漫に書いてしまったので、解りにくい
かもしれないが、詳しくは宮坂先生の著作に目を通さ
れると納得されるであろう。最もやさしく読めるのは
「密教の学び方 宮坂宥勝著」
である。さらに詳しく知りたい方は宮坂宥勝著作集
(本当は全部目を通すのが理想(;^_^A)の中の
「仏教の起源」等に当たられると良いであろう。
ちょっと難しいけど…。

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