「底哩三昧耶不動尊聖者念誦秘密法」というお経に
こんな話がある…。
大日如来が正覚を成就せられた時、即ち悟りをお開き
になった時のこと。諸の天部の尊(つまりデーヴァと
呼ばれるインドの諸神群)を召集された。(おそらく
自ら証した悟りを宣布し、教えをたれる為と思われる)
ほとんどの神々は仏の威光の神通力に屈して集まって
来たが、ただ一人大自在天という神のみがこれに応じ
なかった。
何故なら、彼は三界の主であるという自負から慢心の
極に達していたので、自分よりえらい存在はこの世に
存在しないと信じていたからである。
そこで、大日如来は不動尊に、この大自在天を引き
連れて来るように命じたのであった。ところが、この
大自在天「ワシほどの高貴な神が、何でお前ごときの
夜叉の類の言うことを聞かねばならんのだ。」と頑と
して抵抗した。ところが神通力では不動尊に対抗でき
なかったので「なかなかやるな。だが、お前のよう
な持明者は穢れを嫌うと聞く。これでどうだ!」と
糞尿・汚物を化作(創造)してその中に逃げ込んで
しまった。【まるで、引きこもりですな。(;^_^A】
すると、不動尊は慌てず騒がず、ウスサマ明王という
穢れを食すことを専門とする尊を現出させ、これに
汚物類をきれいさっぱり食べさせてしまい、やすやす
と大自在天を引っ張り出して捕らえ、力づくで大日如
来の御元まで引き連れて行ったのである。
ところがこの大自在天「何で三界の主であるこのワシ
が、お前らのような夜叉の言うことを聞かねばならぬ。」
と、隙を見て逃げ出してしまった。なんと、このような
状況が7回ほど続いた。
そこで、不動尊は「如来様、この生き物はことさらに
三世の諸仏の教法に反抗し、随順しません。どのよう
にして彼を治すればよいでしょうか?」と大日如来に
尋ねた。すると、如来は「これを断ぜよ。」(即ちこ
れを殺せ!)と命じられた。
不動尊はこの命を受けて、大自在天を捕らえ、その額
を左足で踏み、またその妻のウマ妃の額を右足で踏んで
踏み殺してしまった。ところが、その踏み殺される悶絶
の苦しみの中で、大自在天は無量の法を証し(即ち悟り
を開いた)、授記(未来のいつごろに悟りを開いて仏と
なれるかという確証)を得て日月勝如来となるのを見た。
次に不動尊が「如来様、こやつを殺しましたが、次は
どういたしましょう?」と大日如来に聞いた。すると
「そうか。ではこれを生かせ。」と命じられたので、
不動尊は【法界生】の真言を唱えて大自在天を蘇生
させたのである。
生き返った大自在天は、大日如来の御前で合掌し、
大喜びして感謝し「不思議なことです!不思議なこと
です!私は先ほど死ぬ時に悟りを開き、つぎに日月
勝如来として未来に成仏する確証を見ました。」と
言い、続けて「一体、この夜叉の王は何者なのでしょ
うか?私にはさっぱり解りません。」
そこで、大日如来が答えて言われるには「これは
諸仏の主である。」大自在天は「諸仏は一切において
最尊でありましょう。その上に主があるのですか?
さっぱり解りません。」とさらに問ったのだが、
そのうち自ら悟り「そうか、この大王の力によって
私は作仏し、悟りを得たのであった。なるほど、
諸仏の主とはその通りである。」とひとりごちた。
このお話の諸天は、心の諸要素や諸力をあらわし、
大自在天は剛強難化の自我心をあらわす。不動尊は
菩提心をあらわしているという事だ。
…不動尊は剛強難化の自我を殺すのである。また、
自我を殺さねば正覚は得られない。一度死んで
実相真如に生き返った自我は、既に仏となっている
はずである。

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