魔法使いは、幻想を見せて人々をコントロールする。
幻想にもいろいろある。楽しい幻想、心地よい幻想、
美しい幻想、醜い幻想、寂しい幻想、あらゆる不幸の
幻想、恐怖の幻想などなど。
これらの中で、最も簡単に人をコントロールできるのが、
恐怖の幻想である。「このままだと地獄に堕ちる」とか、
「〜し続けていると病気(ガン等)になる」とか、
「誰からも相手にされず、孤独に死んでいく」とか、
各人の性格・性向を見て、その人が最も恐れる状態を
イメージさせ、その状態を逃れるためには、その魔法
使いの利益になるように行動することが必要だと錯覚
させるように幻想を仕組むのだ。
…もちろんこれは黒い(悪魔的)魔法使いである。
騙されてはいけない。信じてはいけない。事実や現実のみを
理解し、それを判断の材料にしよう。
さて、私はつねづね魔法使いには2種類あると思っている。
いや、善悪・黒白の区別ではない。本質的な観点からの
考察である。
ひとつは【真の魔法使い】、もうひとつは【魔法に使われる
魔法使い】、いわゆる妖術使いとか妖術師などと呼ばれる
輩である。
実は、真の魔法使いは【幻想を見ない】であろう。なぜなら、
幻想を幻想と知り、幻想を見ないからこそ、自由自在に、
冷静に幻想を扱い、今ある現実に立って、人に幻想を見せる
ことができるからである。
また、幻想を見ないため、現実の状況をよく把握し、自らを
含めてすべての事象を現実に即してコントロールできるため、
意図や行動が的確となる。こういう魔法使いは善・悪どちら
であれ、かなりの精神的な高みにあると言えよう。もしか
すると、彼らは因果律の法則さえ超越している可能性もある。
善ならともかく、悪ならば大変恐ろしい存在である。
次に、魔法に使われる魔法使いとは、自らも幻想の中に在り、
幻想を真実だと信じていて、またその幻想によって動かされ
る存在なのである。
彼らは、幻想を見せて人をコントロールする術を、ある程度
心得てはいるが、原則を完全には理解していないのである。
その、信じている幻想によって自らの目をくらまされており、
真の魔法使いのように自由自在にというわけにはいかない。
なぜなら、その信じている幻想の制約を受けるからである。
とはいえ、素質や修練により、強大なパワーをもつ者もたく
さんいることだろう。
また、こういう魔法使いは、ある程度人をコントロールでき、
利益を自身に集めることもできるため、うぬぼれが強く、
自らの優越を常に思い、人からの崇拝を強く求めるように
なる。そして、強い幻想の中で生きているため、人にもその
同じ幻想を伝染させようとつとめる。またもちろん、幻想と
共に生きているので、因果律の束縛を免れることができない
ことは言うまでもない。すぐそばに陥穽が待ち受けている。
もし魔法使いを志すなら、このような幻想に仕える魔法使いに
なってはならない。まず、すべての洗脳・幻想を捨てて、
【空】なる現実を観察・認識することだ。
コップに入った泥水に、清浄な水を加えても泥の濁りは消え
ず、飲むことはできない。濁った泥水を捨ててしまった後、
きれいに洗い、清浄な水を入れて飲めば、渇きを消すことが
できるだろう。

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