アフリカに来てから1ヶ月が過ぎ去った。アブシンベルでは結局、舟を持った漁師が見つからず、オカッパリの日々が続き限界を感じた。これまで陸路3000km以上の道のりを要し、手にしたナイルパーチはたった9匹だ。それも最大で78cmという情けないサイズに留まっている。最後に旅を締めくくる巨大なナイルパーチを夢みていた。だが、砂漠に浮かぶ広大なナセル湖をたった一人、徒歩で開拓していくのは無謀であることを悟った。

ということで、アスワンの街にある釣り旅行会社に助けを求めた。話によると、船で6日間をかけてアスワンからアブシンベルまで行くサファリがあるという。レストランやトイレの付いた中型のマザーボート1隻と、小型のフィッシングボートが2隻。連隊を組んで湖を南下して行く。値段は6日間で約1400ドルと高額だが、シェフが同行する豪華な旅で、釣果は保障するとのことだった。
値段にも少し躊躇したが、それ以上に今までの一人旅とは違い、旅が旅行会社任せになることに違和感があった。だが迷った挙句、誘惑に負けた(^-^)/。今、日本はちょうどゴールデンウィークの時期。俺にも「一人旅におけるゴールデンウィーク」があってもよいだろう。たまには楽に行ってみようと思った。というか、30半ばで一人旅っていうのもどうかしているわけで…汗。
そして出発の日が来て、ナセル湖の小さな漁港で落ち合った。シェフがにこやかな顔でウェルカムドリンクと称しシャンパンを開けた。グラスを片手に、この1ヶ月間の貧しくも地道な旅を思い返し、「俺もいい大人なんだから、たまには豪華な旅も悪くはないな」と思った。

打ち合わせが終わり、小さなフィッシングボートに乗り込んだ。

ボートの前方半分は簡単な屋根で覆われており、ベッドが左右に並んでいる。

後方は釣りのスペースになっており、日中は釣り用のボートとして使われ、夜は寝床に変るというわけ。

隣のベッドにどっかりと腰を下ろしたのは大柄な初老の白人、ジョージさん。イギリスからの釣り客で旅の相方となる。そして真っ黒な顔をしたヌビア人の若者ヨセフがガイドだ。挨拶もそこそこにマザーボートと別れて、早速釣り場へと向かった。
1時間ほど走った頃、ヨセフが岩だらけの大きな島にボートを停めた。話によると、歩いて50mほど先にグットポイントがあるという。我慢しきれず、2人を残して駆け足でポイントに向った。早々に30cmほどのお子様のナイルパーチを釣り上げると、2人が遅れてやってきた。ヨセフは「オー、ビックフィッシュ!」と大笑い。ジョージさんは「ハーイ、タケ。そんなに急がなくても魚は逃げないさ」と、のんびりとしたものだ。
ヨセフによると、岸辺の浅場には小物が多く、大物は深場に沈む大きな岩の陰に身を隠すという。助言に従い、重めのスピンテールジグを湖底に沈め、ゆっくりと底をなめる様に引き始めた。岸辺から急激に落ち込んでおり、湖はそうとうな深さだった。なかなかルアーが湖底には届かず、じれったくってしょうがない。テンポの遅い、忍耐の釣り。
しかし、突然「ドンッ」ときた! 重々しい引きに耐え、足元に寄せると76cmのナイルパーチ。

ボディが黄色く染まる綺麗な1匹。スピンテールジグを丸呑み!

その後、船を走らせながらトローリングを続けるが、大物の気配は全く感じられなかった。結局、俺に50cmほどのナイルパーチが2匹掛かっただけで、西の空に陽が傾いてきた。「まぁ、初日はこんなものだよなぁ」と思いながら、マザーボートへと帰着した。

マザーボートの二階は吹き抜けのレストランになっていて、早速冷えたビールを開けた。この日、ジョージさんはノーフィッシュだったが、上機嫌でビールの缶を次々に開けてゆく。やがてもう1台のフィッシングボートも帰着して、2人のイタリア人釣り師も席に着いた。釣果を訪ねると、カロさんという爺さんが「トローリングを続けたが、80cmが1匹掛かっただけだ。相棒はノーフィッシュだったよ」と肩をすくめて苦笑いを浮かべた。だが、シェフによって次々に運ばれる料理を前に、沈滞したムードはかき消された。明日からの本格的な釣りにリベンジを誓って乾杯をした。
料理はこんな大雑把な感じ。でも、1か月間ほぼ地元食堂を巡ってきた身にはとっても美味い!

2日目はヨセフの勧めで朝からトローリングである。広大な湖ではトローリングで広範囲を探って行くのは利に適っている。事実、このサファリで100ポンド(約45kg)を超える大物はほとんどトローリングによるもので、世界記録の230ポンドも釣れているのだ。
ただ、トローリングという釣りに退屈さ以外に感じるものはない。大物を釣りたい、だがトローリングは大嫌いだ。複雑な思いを抱えながら、ただひたすらにロッドを抱えてあたりを待った。
一方、ジョージさんはこの釣り方には偏見が無いようだ。むしろ岩場を歩かなくても済み、楽に大物が狙えるため、できればずっとトローリングをやっていたいという。そんな彼を横目で睨み、暇過ぎて、ずっとビールを飲んでいた(^-^)/。

この日、モチベーションの差が現れたのか、ジョージさんは88cm18LBを筆頭に5匹のナイルパーチを釣る。

イタリア人のカロさんは中型2匹。俺ともう一人のイタリア人にいたってはノーフィッシュ。4人で7匹。この結果に「高いお金を払ってサファリに参加してもこんな釣果かよ(T_T)」と愕然とする。
しかし翌朝、衝撃の1匹に目を丸くすることになる。この日も朝からトローリング。少々うんざりしながら蒼い湖面をぼぉーと眺め呆けていた。突然、近くを流していたイタリア人コンビの船が慌しくなった。しばらくすると銀鱗の巨体が跳躍した。1mほど湖面を割って浮上するが、あまりの大きさに魚体は水から全てを現さず沈んでしまった。「うわっ、でかっ!」、思わず声を上げた。カロさんとガイドが水中に飛び込んでその巨体を抱え上げていた。カロさんが「150cm104ポンドもあったぞ!」と会心の微笑を浮かべる。

スーパーシャッドラップがこんなんなっちゃった…(*_*)

おまけに、相棒に外道で釣れた3kgのタイガーフィッシュ。

その後、メラメラと闘志が燃え上がる! MUSKY MANIAで89cm7.65kg。トローリングだけど…汗。

上陸して、CD‐14MAGで76cm。

エスフラットやバイブで小型3匹追加!

またまたトローリングで90cm9.9kg。

オカッパリに移行し(ポイントは終始こんな感じ…)、

CD‐11MAGで70cmを頭に17匹。

数は釣れ始めたが、いま一つサイズが伸びない…。

外道はこんな可愛い淡水フグ(^-^)。現地名は「ホマルエルバハッル」と舌を噛みそうな名前。岸辺の岩陰などに生息し、様々なタイプのルアーを追尾してくるが、フッキングするのは稀。ワームを使っているとテイルばかりがスッパっと切られる…。
一方、ジョージさんは数こそ6匹と少ないが、オカッパリを避けて体力を温存し、トローリングに完全集中し95cm25LB。

100cm28LBと中々のサイズを揃える。またイタリア人コンビは100LB超えを果たすも、その後は2人で6匹と低迷…。
その後、100ポンドを超える巨大魚が脳裏に焼きついて離れなかった。集中してCD‐14MAGを大岩の陰に通していくが、やはりオカッパリでは77cm…。

でも、癒しの淡水フグが嬉しい!! 美しい縞模様。そしてキャッチした後、「ホフッホフッ」と空気を吸って体を膨らます一生懸命な姿がモノ凄くかわいい。

夕暮れ間際、この日最後の一流しをすると、「ズッドーン」とアタリがあって、ラインが勢い良く引き出されリールが悲鳴を上げた。しかし、湖底に沈む漁師が捨てた刺し網に引っ掛かり、微動だにしなくなってしまった。ヨセフが長いロープの結ばれたアンカーを沈め、湖底を探り始め20分後、いきなりナイルパーチが走り始めた。主導権を渡してなるものかと、強引にラインを巻いてゆくと、それは期待していたよりだいぶ小さい1mを少し超えるだけのナイルパーチだった。ジョージさんが「グットフィッシュ!」と声をかけてくれるが、「イッツ スモール」と答え、次の言葉が出てこなかった(T_T)。
ナセル湖にはアフリカンキャットフィッシュやブンドゥという、大ナマズが生息している。昼間に釣っておいた小型のタイガーフィッシュを餌に、夜は餌をぶっ込む。気持ちの良いそよ風に吹かれ、ビールを片手にベッドに寝転んでアタリを待った。
ふいにロッドの先に付けていた鈴が「チリン」と僅かに鳴り、慌ててリールのクラッチを切った。すると、ゆっくりとラインが引き出され、次第にスピードが増してゆく。5mほど出されたところで、半身を起した不自然な体勢のまま渾身のアワセを決めた。「ズシッ!」という感触があって、魚が暴れだした。
約3分後、湖面に姿を現したのはアフリカンキャットフィッシュだった。船から飛び降りて、砂浜に引き吊り上げて安堵の溜息をついてると、ジョージさんが「何事か!?」と起きてきた。「オー!タケ、凄いじゃないか!それにしてもお前、まだ釣りをしていたのか? ワハハハッ」と笑った。この夜、久しぶりに満足感と共に眠りに着いた。

しかし翌朝、激痛で目を覚ました。体を起そうとするが、少しでも体を捻ると右わき腹に痛みが走った。昨夜、寝転びながら不自然な体勢で合わせてしまったため、わき腹を痛めてしまったのだろう。時間をかけてなんとか起き上がるが、あまりの痛さに「わき腹の骨が折れているかもしれない(T_T)」。
アフリカ大陸の怪魚を追え!「アフリカはつらいよ その10」に続く!