2013年3月、テレビの特番の撮影でパプアニューギニアを再訪した。首都ポートモレスビーからプロペラ機で約1時間。ウエスタン州の州都ダルに到着。
7年前は滑走路だけの空き地の様な空港だったが、今回はちっぽけではあるが、一応ターミナルができている! 相変わらず、子供達がキラキラした目で出迎えてくれる。

泥棒避けの鉄格子に囲まれたホテルのバルコニーから、7年ぶりに南太平洋を見下ろした。泥に濁った波が打ち寄せる港は無数のゴミに埋め尽くされており、

漁民達の粗末な小舟がずらりと停泊している。周辺の村々から海産物を売りに来た人々には泊まる場所もなく、舟上や砂浜に御座を敷いて生活をしているようだ。夕暮れ時にはあちらこちらから煙が上がり、焚き火を囲んで飯を食らう人々の姿があった。

一種異様な光景だが、不思議と悲壮感は感じられない。

真っ黒な子供達が度々眼下を行き交い、僕らを見上げては何一つ屈託の無い笑顔を浮かべ、はにかんでくれる。僕が手を振ろうものならその瞳はにわかに輝きを増し、大きな歓声が沸き起こる。
なんか、ゴミだらけの絶望的な風景を、貧しいながらもすれていない人々の姿がかろうじて救っていると感じた。

翌朝、パプアニューギニア最長の大河フライ川に向けて旅立つ時がきた。お笑い芸人のコンビ・プロデューサーとディレクター・カメラマン、そしてタクヤ君と俺。総勢7名の大所帯である。7年前は川辺に点在する村々をセスナが行き交っていたが、数年前に廃線となったらしい…。現在は、交通手段は乗り合いボートのみだという。目的の村まではダル島から海を越えてフライ川の河口に入り、そこから200kmも遡らなければならないという( ノД`)シクシク…。
用意された舟を見るとあまに小さい。僕ら7人に船長とその助手、7年前にもお世話になった村人、計10名。そしてガソリンを300リットル、ドラム缶3本。さらに各々の荷物を加えると、とても積載できるとは思えない。案の定、全ての荷物を無理に積んだ結果、船縁は海面スレスレまで沈み、海を越える際転覆するかもしれないという。結局、もう一隻舟をチャーターすることになり、予定より4時間遅れ、10時半に出発した。

道中、川辺の村に立ち寄りながら順調に船は進む。

しかし夕暮れ時になり、突然空は一面分厚い雨雲に覆われ、南国らしからぬジトジトとした長い雨が続いた。次第にレインウェアの隙間から水が進入し、いつの間にか全身ずぶ濡れ。おまけに辺りはすっかり闇に包まれ、一体どこを走っているのかも分からない。気が狂いそうなほど時が過ぎ去るのが遅く感じられ、深い闇に包まれながら次第に時間の感覚を失っていった。
突然「ドンッ」という衝撃が走った。飛び起きて確認すると、舟が中洲に乗り上げてしまったようだ。幸い砂地だったため舟の損傷もなかったが、どうやら遭難しているっぽい…。もう誰もが押し黙ったまま、身動きもせずに寒さに耐え、ひたすら村に着くことを祈った。結局村に着いたのはダル出発から19時間後、午前5時、誰もが疲労困憊で、脱け殻のように弱々しく微笑みを交わす…。
夜が明けて、懐かしい人と再会する。 「著書の登場人物に会いに行き、本を片手に記念撮影」シリーズ、世界5人目です(笑)。

今回、俺も含めスタッフ一同が大の釣り好き。しかし、番組では芸人二人が主役のため、カメラが回っている間、僕らは指を加えて彼らの釣りを見守ることになる。俺には「釣り監修」という役割が与えられているが、実のところあまりやることがなく、芸人達とは別の舟に乗り、撮影を遠くから眺めているだけなのだ。怪魚のパラダイスと言える秘境において、なんともどかしい微妙な立場なのだろうか…。仕事なのでしょうがないのだが、俺は焦燥感に苛まれ、皆が撮影の本格的な旅への出発準備に勤しむ中、カメラマンの山崎さんと共にこっそりと水辺に向かった。リサーチという名目の、実は「ちょっと、俺達裏方にも釣らせろよ!」的な短時間のお忍び釣行である(笑)。

水草の生い茂る水路は朝の静寂に包まれていた。7年前に東南アジア産のストライプスネークヘッドが爆釣したのを思い起し、ワクワクしながら「クランク×フロッグ」的なルアー、スーペルナートを放っていく。水草の群集地帯に水面がポッカリといい感じに開けていた。水深40〜50cm、ルアーを水草に引っ掛け静かに着水させる。少し巻いて水面直下を泳がした後、水草際で止めプカァ〜と浮かせた途端、「ボンッ!」と出た。速攻でぶち抜くと、30cm半ばの可愛いストライプスネークヘッド。

途端、遠巻きに見ていた村の子供達が歓声を上げながら駆け寄って来て、足元に転がる魚を鷲掴みする。キラキラと輝く彼らの瞳に、「ああ、パプアってやっぱりいいなぁ」としみじみ。

気を良くしてさらに突き進み、いつの間にか隣で竿を振っていた山崎さんは消えていた。湿地帯からつながるフライ川の支流に出て直ぐだった。

二投目、ルアーは流芯を抜け足元から3m手前の浅瀬まで何事もなく戻ってきた。間もなく回収しようとしたその時、突如背後に黒い影が現れ、直後「スバァーン」という炸裂音とともに水飛沫が上がり、ハッと息を飲む。ほんの一瞬、魚体が翻って水中に戻って行く姿を目にし、俺は我に還った。軽く合わせを入れ針掛かりしたのを確認すると、直ぐ様リールのドラグを弛めラインを送る。魚との距離が丁度良くなったところで、ドラグを適正な強さまで締め込みファイトに入る。
そいつは川の中央に向かって一直線に突っ走った。おそらくこの川では生態系の頂点に君臨する両巨頭、パプアンバスかバラマンディのどちらかと思われるが、今一つ判別がつかない。川の流芯で思う存分暴れまわった挙げ句、今度は岸辺に生い茂る水草群の中に突っ込んでいく。プツプツとラインが水草を断ち切る音がして、僕は慌てて止めに入った。子供達の歓声に何事かと村人が集まってきて、俺の背後には20人以上のギャラリーが見守っている。固唾を飲んで見守ってくれる彼らの期待に応えるため、バラすわけにはいかない。慎重に力を加え水草の中から引き出していった。

やがてそいつは水面に浮かび上がり、ギャラリーは興奮の坩堝と化した。くすんだ金色をした風格のある魚体のバラマンディ。群衆の中からお手製の網を持ったおばちゃんが飛び出して来て、大声を上げながらバラマンディを掬ってくれた。

だいぶ痩せ気味ながら、101cmの納得サイズ\(^^)/

ルアーは懐かしの「JOLT‐SW(グレイズ)」。

張りつめた空気が緩み、村人から大歓声が上がる。幸福感に包まれながら、再び川辺を歩き始めると、一人のおっさんに声をかけられた。「カヌーを漕いでやるから、魚釣れよ!」。「え、いいの?」、撮影隊のことが少々気になったが、お言葉に甘えて、いざ出撃!

ルアーは、時間がないので何も考えずに定番の「ラパラのCD-11MAG」、すぐに小型のパシフィックターポンが飛び出す!

続いて、中型のパプアンバス。川底にギュンギュン突っ込んで、久々に淡水最強のパワーを堪能する。

さらに縞模様の残る小型のパプアンバス。

そして、同じポイントで3本目。パプアンの付くポイントは障害物などではなく、川の流心、流れのヨレの中。

サイズは小さいが、デジカメの撮影時間を確認すると、この間、写真を撮っていた時間も含めて約25分。大満足! というか我に返ると、皆を放置して一人船の上という状況に焦りを感じ、急いで岸に戻る。「仕事をしなきゃ(汗)」。
昼過ぎにフライ川本流のポイントへと出発した。大木をくり抜いて作ったという巨大なカヌーが2隻用意され、二手に別れ川を遡って行った。「お仕事開始!」。

見送ってくれる子供達の躍動感が半端ない!!

この後の続きはTV映像や書籍などでお楽しみください!
この旅で、裏方としてカメラに追われる芸人さん達を終止見守っているだけだった。脇役として少々寂しさを感じていたが、村での初日、バラマンディを釣り上げた時の人々の笑顔を思い出すと心は和んだ。魚を釣る度にどこからともなく人々が沸いてきて僕を祝福してくれた。人々はどんな時も俺をヒーローに仕立て上げてくれるのだ。パプアニューギニアは、釣りという舞台は誰もがみんな主人公であることを教えてくれる素敵な国なのだ。
追記:撮影を終え、ダルから首都ポートモレスビーへの帰路のこと。国内線の冷房が効き過ぎて、まるで火災の様。最後までヒヤヒヤさせてくれるのもまた、パプアニューギニアなのだ…(-_-;)。