1日目
3月の下旬、TV撮影が終わり肩の荷が降る。今回はほとんど自分の釣りをやる時間が無かったため、タイ&ミャンマー旅の締めとして、数年前から興味津々だったタイのジャングルフィッシングに繰り出した。ジャクリット・奥さんのケイ・ジャクリットの舎弟コップと共に和気藹々にのんびりとした旅。しかし、湖に流れ込む川を少し遡っただけのお気軽なジャングルではなく、政府の許可を取り、片道1泊2日。本格的にジャングルに分け入る。
バンコク近郊から車を飛ばすこと約6時間、広大な湖を前にする。そこから小舟揺られさらに1時間、今回の旅の拠点になる水上家屋にたどり着く。今夜はここで一夜を明かし、明日の朝からジャングルに分け入る。舟から荷物を降ろし、遅めの昼食をとった。街からテイクアウトした昼食をほお張り、にっこりと微笑むケイ。

美味しいタイ料理を前にしながら、俺は水辺がどうも気になってしょうがない。昨年末のアマゾン釣行から、「水上家屋の珍魚釣り」の虜になってしまった俺は一刻も早く糸を垂らしたかった。いまいちご飯を食べることに集中できず、寄せ餌としておかずを水辺に撒いてみる。水面下約50cm、水中に没する家屋の柱の陰から黒い影がおずおずと寄って来て餌を口にする姿を目にしてしまい、食事を中断して生エビの切り身を餌に仕掛けを投入する! 影の正体は「プラー モー タカップ(タイ名)」でした。

2匹目も瞬殺! 小さくても、初魚種は嬉しいもの。仕掛けはメインラインが4lb。ハリスが0.6号。フナ用の針サイズ3。

しかし、数匹釣り上げてしまうと、その魚に対する興味があっという間に失せてしまうのが「水上家屋の珍魚釣り」。次なる珍魚を求め、水上家屋の徘徊を開始した。この水上家屋は4家屋が橋で連結されており、小魚の養殖場などもあってポイントは多そうだ。
水上家屋上の最強ポイントといえばやはり台所の下である。水上家屋の生活では、基本ご飯の残り物は湖に投げ捨てられるので、苦労しなくても餌が水上から落ちてくる台所下には珍魚が集結している。台所の物陰からそっと水辺に目をやると3つの黒い影が揺らめいていた。「ジャイアント グーラミだっ!」。食パンを小粒に丸めて投げ入れ、グーラミが反応することを確認してから仕掛けを投入した。競うように食パンに近づき、中型の1匹が食いついた。辺りに沈む柱やらロープやら、障害物だらけの中を暴れまわるグーラミをライトタックルでいなし、慎重に寄せて一気に手で掬った。

ジャイアントグーラミ、「タイ名:プラー ラット、学名:Osphronemus goramy」を初めて手にする。これは非常に嬉しかった1匹。

珍魚に夢中になっているうちに夜が来た。しかし、釣れるのはプラー モー タカップとジャイアントグーラミの2種のみ。この水上家屋、思ったより魚種は少ない。30種を狙えたアマゾンの水上家屋を懐かしみながら、家屋の奥さんが腕に選りをふるって作ってくれた夕食をいただく。


水上家屋の夜の娯楽、定番はやっぱり「酒を飲みながらの小鯰釣り」である。生エビを餌にボトムまで仕掛けを沈め、アタリを待ちながら酒をちびちびと飲む。まったりとした時間の流れがイイ感じ。しかしこの水上家屋、湖底に全く小鯰がいない…。アタリ一つ無く、退屈した3人は俺を取り残して早々に眠りについてしまった。
で、一人取り残されてしまった俺は「釣れるものはなんでも狙ってしまおう!」ということで、標的を陸に求める。ヤモリ(現地名「チンチョー」)やカエル(現地名「キィア タパー」)を釣って暇つぶしをする(笑)。意外とカエルはフッキングが難しく、段々と夢中になる俺…。


カエルを探してヘッドライトで湖面を照らした時だった。水深約40cm、水上家屋の土台が水中に没しており、その上に大きな影が横たわっているではないか! 体の側面の黒い斑点模様を確認し、心の中で叫んだ。「プラー カラッソンだ!(アーモンドスネークヘッド)」。まだ釣ったことのない未知の雷魚。それも50cm半ばの、この種ではかなりのビックサイズだった。
※下写真は後日、夕飯のおかずにするために漁師から買った「プラー カラッソン(学名:Channa lucius)」。いつかは釣ってみたい雷魚。

それから、ゲーリー6インチグラブを投入し、水上家屋の土台周りを丹念に探っていった。タイ人のコップも何事かと起きてきて、一緒にルアーを投げ始めた。しばらくして興奮気味にコップが俺のところにやって来て、「ボートの下に大きな雷魚がいる!」と言う。ライトで照らしてみると、ボートの真下に妙に細長い影がおぼろげに浮かんでおり、明かりを嫌って湖底へとゆっくりと消えて行った。コップはその地点に盛んにタイ製のペラルアーを通すが、俺は「ルアーじゃない」と思った。
先ほど雷魚を発見したポイントに戻り、カエルを釣って背掛けにし、水面スレスレを暴れてくれるように竿先から伸びるラインの長さを調節し、置き竿にした。ロッドの先に鈴をつけてアタリを待った。それから約30分後、一度「チリン!」と言って、すぐにけたたましく鈴が鳴り響いた。猛ダッシュで駆けつけ、一気に抜き上げる。暗かったので始めプラー チョーン(ストライプスネークヘッド)と見間違えがっかりするが、落ち着いてよく見たらコブラスネークヘッドじゃん!!

コブラスネークヘッド(タイ名:Pla Tjon Gnoo How・プラー チョーン グンハウ」。学名:Channa marulius)。長年追い求めていたレアな雷魚を遂にGET!

生簀に入れておいて、翌朝に撮影。

そういえばこの雷魚を求めてカンボジアの野池郡を放浪したこともあったなぁ。こいつを知ってから約8年、遂に捕獲成功! 餌釣りだけどね…。
2日目に続く!