旅の最後には、サン・ルイス・ポトシ州のレアル・デ・カトルセ(Real de catorce)という街を訪れた。ここは19世紀には銀鉱山の街として人口4万人を数えたが、その後衰退、現在ではほとんどの建物が廃墟となっている。しかし、廃墟となったことが却って観光資源となり、現在では多くの観光客が訪れるようになっている。標高2700メートル以上もある高地で、ウイチョル族の聖山エル・ケマドがあることでも知られている。
レアル・デ・カトルセとは、直訳すれば14の真実という意味なのだが、これは、スペインの侵略に反撃して、先住民が14人のスペイン人兵士を殺した場所だからという話が伝わっている。この話が本当だとすれば、メヒコの地の多くがスペインに侵略されていく中で、ここはスペインの手がなかなか及ばない土地であるということを示すためにも、こういった地名が付けられたのではないかと考えられる。その証拠の1つとして、ここがウイチョル族の聖地であることが挙げられる。
メヒコ中西部ハリスコ州の山岳地帯に住んでいるウイチョル族は、先住民の中でもスペインの影響をあまり受けずに伝統的なライフスタイルを守ってきた部族として知られている。スペインが侵略してきたときには砂漠に逃げ、半農耕・半狩猟採集の生活を今でも続けている。農閑期にあたる2月頃になると、400キロも離れた聖地ウィリクタまで約40日間の巡礼の旅に出る。ウィリクタは、レアル・デ・カトルセも含む広大な地域を指す。
巡礼は、マラカメと呼ばれる祭司が村の中から選ばれた10人前後を伴って、聖地でペヨーテというサボテンの採取を行うというものである。ペヨーテに含まれているメスカリンは、意識を変容させる。ウイチョル族は、このペヨーテを使った儀式を太古から続けてきたのである。
ウイチョル族の聖山、エル・ケマドの山頂付近。儀式用の円陣。
レアル・デ・カトルセから聖地ウィリクタへ沈む夕日を眺める。


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