8月上旬、連れ合いとフィリピンへ旅に出かけた。連れ合いはNGOの仕事でしょっちゅう日本とフィリピンを行き来しているが、私は初めてである。夫婦というもの、お互いのやっていることを「何であんなことやっているんだろー」と訝しげに思っていることも多いと思うが、果たして私も「何であんなにしょっちゅうフィリピンに行っているんだろう」位に思っていて、自分が行きたいとはこれまで全く思わなかった。しかし、今回は、およそ2000年前から作られているイフガオ州の棚田を見る、という目的にまんまと釣られてしまった。この棚田は、山のてっぺんからわき出ている水を、斜面に切り開いた棚田に水路を通して引いた水田で、世界遺産にも指定されているという見事なものらしいのだが、維持が大変で、このままでは崩壊してしまうおそれがあり、見に行くのなら今だ、と説得されたのである。
2000年も持続していたものが、この数10年の間に急速に崩壊していく様は、伝統的なライフスタイルが崩壊していくことでもあり、グローバル経済の闇を見る旅になるのではないかと思った。詳細に書くときりがないのであくまでさわりになることをお許し頂きたい。
マニラから夜行バスで8時間程で、イフガオ州のバナウエという集落に着く。ここは、この近辺の小さな集落を束ねる役目を持っていて、一応「市」らしいのだが、感覚的には「村」に近い。目的地は、ここから乗り合いバスで1時間程行った分岐点から、さらに山道を2時間程登り降りした所にあるバタッドという集落。
これがバタッドの棚田。2000年も前から無農薬有機栽培で現在に至る。ここで採れた米は自家消費のため。その他もほとんど自給自足のようである。集落は約130世帯だが、何と1家族で子どもが10人位いるので、人口は1300人程度という計算になる。
これが、私たちが泊まった「宿」。日本の高床式倉庫そっくりで、鼠返しも着いている。ちなみに、色々な国から宿泊しにやってきた旅人達は、よく「私の国にも昔はこういう建物があった」と一様に驚いていくという。ちなみに、とても涼しくてよく眠れた。
驚いたのだが、ここでは食事の度に脱穀をする。しかも全て人力で。大抵は子どもの仕事らしい。まずは籾殻の付いた米を手でしごいて取る。
次ぎに、臼に入れて杵で搗き、殻を飛ばす。これを繰り返して精米する。
野生動物も良く食べる。食べた動物の骨は、住居の屋根の下に飾っておく。ちなみにこれは猿の骨。
夜は焚き火を囲みながら、伝統的生活を取り巻く現状について話す。少しでもお金を稼いで、伝統的な住居ではなく、コンクリートで作った家に住みたがる傾向が強くなっているであるとか、若い人はここを出て行きたがることであるとか、私たちの住んでいる藤野でも似たような状況ではあるが、そうはいっても、まだまだ日本の「地方」に比べたら、底力を持っている印象を受けた。また、弥生式土器の様なもので炊事をしていたり、農作業に使う道具も類似したようなものがあり、稲作文化が繋がっていることを実感した。
ともかく驚きの連続だった。結構大変だが、興味を持たれた方がいたら、是非とも訪れてみることをお勧めしたい。


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