車両をお預かりする前に内容によっては一度診せに来てもらうことがあります。
不具合箇所をある程度特定することでお預かりしてからの作業を円滑化するためです。
今回の車両も「一度診せていただいて、そのときに入庫する予約しましょう」
という話で茨城県からはるばるお越しになった車両ですが
来た時の問診時に
「フルレストア、エンジンフルO/Hしてもらったがどうも調子が悪い
その後、1年くらいかけて自分なりに部品交換、整備して今に至るが
スピードは120km/hがせいいっぱい!オーバーヒートはするし!
ギアのはいりが悪い!ヘッドガスケット部からのオイル漏れ等
究極はオイル交換の際にへんな細いピンが出てきた、金属粉も多かった」
なんて話を聞いたらこのまままた茨城まで乗って帰らせるわけにいかなくなりました。
ミッションのニードルベアリングなら万一のことが有っては一大事です。
店の置き場所はきついのですがそのままお預かりして
順番が着たら作業始めるという話になりました。
そのときで預かるのに1ヶ月待ち状態でしたから
順番が来るまで置きっぱなし状態になっていました。

見事なフルメッキ車両!
混み合ってしまって1ヶ月ちょいオーバーしての作業開始
まずはオイルを抜いて、フィルターケースも外して内部チェック

出たぁ〜〜 ピンが出た!
このサイズのピンといえば…

プライマリーシャフトのワンウエイに使われているニードルベアリングに間違いがない
なぜこんなものがバラけて落ちている??
こんなの初めて見ました。

フィルターケースも金属粉でいっぱい、不安でいっぱいです。
あ、もちろんスプリングシートは居ませんでした。
分解しながら各部のチェック
キックのナックル割れていますね〜、ここまで開いてしまう前に溶接補修しておきたい部分です。
エアクリーナースプリングが居ないじゃないですか!

また、バッテリーが合わせ目から液漏れを起こしていますね
よーく見ると、違う組み方されている部分が多いですが
いろんな車種を扱っているお店ではそこまで把握していないことが多いので仕方ない部分かもしれませんね
バッテリーを外してみると
あ〜あ見事に錆びてしまっています。

しかしバッテリークッションラバーがひとつも付いていない!リジット状態ですね。
リアエンジンハンガーとのジョイント部、ワッシャー、ナットが居ないです。
ドライブチェーンにおびただしい金属粉が…

カウンターシャフトの斜め上側のリブを削ってしまっています。

CB400Fの場合、シールチェーンを使う場合は幅の狭いものを選びたいですね。
もちろん全バラ決定ですが
まずはクラッチカバーを外して…

ボルトの長さが足りないものばかり
本来6X40のところ6X35ばかり、オイルフィラーの上はちょうどいい長さです
全部緩めた時点ですがボルトの頭の出方が違うのに注目!
クラッチアウターを外しミッションだけで空回しして動きを確認

変に重くなるところが有るのでミッションにもトラブルがあることを確信する。
「スピードが120km/hしか出ない」
「始動性が著しく悪い」ということから
キャブレターもチェックします。
一応、O/Hされているとのこと
まず目に付いたのがスロットルバルブが全開にならない

スクリューを目一杯締めこんであるのでスロットルバルブが途中で止まっています。
これじゃぁスピードが出ないのは当たり前
サービスマニュアルにも出ていますよ〜
また、チョークの作動もチェックすると

あ゛っ!スプリングがずっこけてる
チョークのカムとアームに隙間がありすぎるため

チョークレバーを引いてカムが動いてもアームを押してくれません
アームを押してスロットルレバーを動かしアクセルを少し開けた状態にして回転を上げるのです。
コレじゃバタフライが閉り混合気は濃くなりますが、ファーストアイドルは効きません
コレもマニュアルに出ているのに〜〜
お客様もキャブはいじっているようなので
双方チェックし忘れたのか?
さて、いよいよエンジン降ろして分解です。
ヘッドガスケット部のオイル漏れはスタッドガスケットNGでのオイル漏れ
シリンダーを外しピストンを見ると???
なんだこりゃ?まるで砂を噛みこんだような傷が一面に

もちろんシリンダーもおびただしい縦傷
オイルポンプを外すと…

ノックピンが1本もおらんやん!大、小2個ずつ使います。
落ちていたピンの正体は読みどおりワンウエイのニードルベアリング

しかし、何故ここのベアリングが破損する??????
いや〜〜〜な感触のミッションの正体はこれだ!
メインシャフトのニードルベアリング側

コレは幾度となく記事で掲載しているので分かりますね
ニードルベアリングのシェルとクランクケースとで位置決めのピンで回らないように保持されます
ベアリングのシェル側の穴をあわせずに組んだ結果
ピンに押されてベアリングが変形、シャフトを異常磨耗させる結果となるわけですね。

接した部分の痕跡がピンの頭とシェルとで分かりますね。
ピン自体も押されてケース側に埋もれてしまっていますから
そちらの処置も必要です。
最も驚くべきはクランクシャフトの軸の磨耗

分かりにくいかもしれないのでUP画像

メタル側もこの惨状

コンロッドメタルも…

メタルの計測間違いでピンポイントでかじるならまだしも
全部がNG、
一部メタルの色が分かったので調べたら間違えてはいない様子
可能性が非常に高いのがウエットブラストのメディア
サンドブラストより微細なものですが
研磨剤に変わりはありません
洗浄が足りなくて残っていれば充分に悪さをします。
おそらく、メインギャラリーに残っていたメディアが
メインギャラリー→クランクメタル→コンロッドメタル
と流れ、飛沫潤滑でシリンダーに飛んでシリンダー&ピストンに傷を入れた
このように仮定するとつじつまが合います。
メタルの状態、クランク軸の様子は砂を噛んだトラブルまさにそのもの
実際洗浄して微細なメディアらしきものは残っていました。
オイルとともにオイルパンに落ちたメディアはまたオイルラインを通ってエンジンに回って行きます。
結果オイルポンプもこの有様
クランク、オイルポンプ、メインシャフト使用不可
シリンダー要ボーリング
大変なことになりそうです。
総合点検も依頼されていて車体回りも診なくちゃですが
場合によっては乗り換えた方が良い場合もありそうです。
これまでに安易にサンドブラストしてトラブルを起こしたエンジンを
「砂の恐怖」と題して幾度となく紹介してきましたが
先にも書きましたがウエットブラストはサンドブラストほど切削力はなくメディアも細かいものですが研磨剤にはかわりはありません
サンドブラストでは完璧なマスキング
ウエットブラストでは施工中の洗浄が肝になります。
また施工が終わり手元に戻ってきたら自身で徹底洗浄を行いたいですね
自分でエンジン組みする読者も居ると思いますが
この臨床例を参考にしていただけると良いでしょう。