おれにはこれがないと駄目なんだ。
そんなことを思いながら、
夜中にひとり、眼に涙をうかべながら、たくさんのレコードやCDから抜き出し、編み出したMDを聴く。
ちいさなイヤーフォンから流れ、ココロの襞にしみこみ、洗っているのはVAN DURENのOh Babe.
あたまの中には夕闇に染まる街の風景。
幻想の世界で視線をあげると、人と人とのつながりのように、街中に交錯する高圧電線。
「赤」を表示する信号。
視線をおろすと見えるのはじぶんの長い影。
アタマにうかぶ理想の生き方。
眼をとじれば見える、あの娘のやさしいほほ笑み。
夏の透明な緑の風が、彼女の栗色の髪を、サラサラとなでる。
うすい絹のような素材でできた桃色のスカート。
窓からさしこむ日差しと、暗い雲がさえぎる影が入り交じる。
ふいに入った湿気を含んだ風に吹かれ、ふわりとめくれる。
紅をひいていない、やわらかな、だけど潤ったくちびるに、そっ、と指をふれ、彼女の瞳をみつめると、しずかにまぶたを閉じる。
重なる唇。
重力がなくなり、世界にふたりしかいなくなったようなキモチで、腰に腕をまわして、身体を抱く。
真夏の、アスファルトにぽとっ、と落ち、とろとろと、溶けてゆくバニラアイス。
夏の恋ははかない。
そんな夢を見て気がついて、目を醒ますとひとり、汗びっしょりで暗い部屋によこたわっている。
よろよろと起き出し、水道の蛇口をひねり、ぬるい水で顔を洗い、ふた口、み口のむ。
部屋からはRANDY WINBURNのSomebody Else`s Girlが流れてくる。
しずかに、
深い闇に、ココロはたゆたう。

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