生物多様性基本法が施行され、次の一手として考えなければならないこと、それは、下位法の中で残された“生きている化石”を眠らせることである。
以前、法学者の方から教授され、推薦された書籍の記述を明記する。
北村先生の著書に以下のように書かれています。
「環境法のなかの財産権尊重・配慮条項−生きてる化石?」
調和条項とその削除
かつて、「調和条項」と呼ばれる規定があった。1967年に制定された旧公害対策基本法が、代表例である(1条2項、9条2項)。そこでは、「生活環境保全は経済発展と両立する範囲で行なう。」という基本的思想が表明されており、事前予防を旨とする環境行政法の実施にあたって、政策的なコントロールを加えていたのである。しかし、この規定は、折からの反公害の世論の高まりのなかで、1970年の第64回臨時国会(いわゆる公害国会)において、削除された。
ところが、その後も、一種の調和条項が、個別実定法に規定され続けている。第一は、自然環境関係法にみられる「財産権尊重条項」である。第二は、公害規制法にみられる「中小企業手加減条項」である。
財産権尊重条項
自然環境保全法三条は、「自然環境の保全にあたっては、関係者の所有権その他の財産権を尊重するとともに、国土の保全その他の公益との調整に留意しなければならない。」と規定する。自然公園法三条、絶滅種保存法(「絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律」)三条にも、同様の規定がある。
しかし、こうした規定は、都市計画法、森林法、採石法などにはない。公用制限をかけることになる自然環境保護法制に対して、私的土地所有権至上主義の観点から牽制しているのであろう。「絶滅のおそれのある」というような急を要する政策を実施する法律にこうした規定があるのは、「場違い」な気がする。1992年制定という最近の法律にも入れざるをえないのは、内閣法制局筋の指導だろうか。そうだとすれば、憲法違反に対する過剰防衛的な、何と時代遅れの感覚だろうか。
引用:環境法雑記帖、北村喜宣、1999/11/15、(株)環境新聞社
「生物多様性は人類共通の財産である」と生物多様性基本法の前文に明記された。今時、財産権の尊重を優先する時代錯誤の政策をやめて、方向転換をする時に来ている。

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