2019/7/9

検定合格「小6社会科教科書」の中の憲法(平和主義)と自衛隊の記述の分析  ]Vこども危機
 ◆ 小6社会科教科書
   憲法・自衛隊記述に目立つ政権への自主規制・忖度
(紙の爆弾)
   取材・文 永野厚男
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自衛隊南スーダン派兵時、戦闘地域で組織的武器使用寸前だった事実を載せない日文教科書

 本誌七月号で、都道府県を学習する段階の小学校4年生社会科の、二〇二〇年度から使用する教科書に突如、”国”の機関である自衛隊が登場した事実(発達段階も無視)を詳述・分析した。

 文部科学省が「大綱的基準として法的拘束力あり」とする学習指導要領(以下、指導要領)の一七年三月改訂版の小4「自然災害から人々を守る活動」に、政治絡みで「自衛隊」だけ明示したのが元凶だが、6年生も危ない。
 小6社会の指導要領は、現行版(○八年三月官報告示)が「地方公共団体や国の政治の働き」で「災害復旧の取組」を明示しているので、筆者が調べた限りでは、一五年度以降使用中の小6社会科教科書は、すでに各社、自衛隊を記述している


 一七年改訂指導要領・小6社会の「日本国憲法の基本的な考え方に着目して」に関し、『指導要領解説社会科編』一〇二頁(頁数は文科省が一七年六月HPに公表した当時のもの。『解説』は法的拘束力のない文科省著作の参考資料にすぎないが、教科書会社、特に編集者はバイブルのように信奉)は、「…平和主義の原則…などの基本的な考え方について、関連する条文などを根拠に調べることである」と記述した。
 ここまでは良いが直後、「なお書き」で、「平和主義については、自衛隊が我が国の平和と安全を守っていることに触れるようにする」と、自衛隊の軍事面まで肯定的に教化する主張をしている。

 そこで今春、文科省の検定に合格し二〇年度から使用する、東京書籍(以下、東書)・教育出版(教出)・日本文教出版(日文)の三社の小6社会科教科書について、憲法の平和主義と自衛隊の記述を紹介・分析する。
 十八歳選挙権となった現在、安倍晋三首相が謀(たくら)む憲法第九条改”正”の国民投票が万一、政治日程に上った将来、賛成票を投じる児童を増やそうとする保守勢力の野望を達成させないためにも……。

 ◆ 出版社の自主規制・付度が目立つ

 小6社会教科書は三社とも、指導要領通り、@政治編(東書は「わたしたちの生活と政治」、教出は「ともに生きる暮らしと政治」、日文は「わが国の政治のはたらき」)A歴史編(東書と教出は「日本の歴史」、日文は「日本のあゆみ」)B国際編(東書と教出は「世界の中の日本」、日文は「世界のなかの日本とわたしたち」)の、大きく三つの大単元から成る。

 三月公表の検定結果によると、東書の申請図書一〇〇頁の「第二次世界大戦後の世界のさまざまな紛争」という地図の「アフガニスタン空爆(2001年)」という文言は、文科省が「児童が誤解するおそれのある表現である」との検定意見を付け、「空爆」「軍事行動」という語に”修正”させた。
 これは、アルカイダによる〇一年九月十一日の同時多発テロ後、ブッシュ政権が起こしたアフガン報復戦争において、小泉政権が日米軍事同盟絡みで自衛隊に米軍艦への給油等をさせた日本の戦争加担に対し、批判的意見を児童が少しでも持たないよう、文科省が「空爆」より少しソフトな語に変えさせた、政治的な記述改悪だ。
 (同じ東書一一〇頁の「紛争や難民をなくすために」の項で、「世界には…空爆などで家を失い、自分の国や地域にいられなくなって、ほかの国などににげなければならないのです」と、米国に限らず「空爆」という語を使っている箇所には、同省は検定意見を付していない)

 この「空爆→軍事行動」や、領土問題(三社とも)の記述変更とは異なり、自衛隊に関する記述は検定意見ゼロ
 検定を受ける前の申請図書(白表紙本しろびょうしぼん)の時点で、出版社側が政府見解や自民党の施策に沿うよう自主規制してしまったのだ。以下、見ていく。

 ◆ 東京書籍

 東書は政治編のうち「わたしたちのくらしと日本国憲法」の単元は、八頁から二三頁まで。国際編の中で国連や地球温暖化、ODA、NGO等を扱う単元は、一〇〇頁から一一○頁までだ。自衛隊はこれらの中に出てくる。

 まず九頁で「日本の国や国民生活の基本を定めたものが日本国憲法です」と記述しているが、小学校であっても「憲法は国家権力の暴走をストップさせる」という立憲主義の基本は明記するべきだ(これは教出・日文にも指摘しなければいけない)。
 一〇頁で憲法の三大原則を記述後、憲法の平和主義と戦争、自衛隊をどう記述しているか、紹介・分析する。

 一七頁の「日本国憲法前文に示された国民主権の宣言(要旨)」に、「政府の行いによって二度と戦争が起こることのないようにすることを決意しました」等を載せている。
 そして一八頁で、尼崎市の「語り部活動」「核兵器廃絶平和都市宣言」を紹介し、「戦争は、人の命をうばい、生活を破壊するだけでなく、心に大きな傷跡を残します。日本国憲法の前文には、平和へのちかいが書かれています。それは、二度と戦争をしないという国民の決意を示したものです。憲法の条文では、外国との争いごとを武力で解決しない、そのための戦力をもたないと、平和主義の考えを具体的に記しています」と明記。
 一九頁の上部には、沖縄県糸満市の平和の礎(いしじ)の写真を載せ、その右横に「…わたしたちは、平和と正義を愛する世界の人々の心を信頼して、平和を守っていきたいと思います。わたしたちは、平和を守り、平等で明るい生活を築こうと努力している国際社会のなかで、名誉ある国民になることをちかいます。…どんな国であろうと、自分の利益と幸福だけを考えて、他国のことを忘れるようなことがあってはなりません」と記した、「日本国憲法前文に示された平和へのちかい(要旨)」も載せている。

 ところが、その一九頁の下部の本文は「日本には自衛隊があり、日本の平和と安全を守っています。東日本大震災のような自然災害が起きたときに、国民の生命や財産を守る活動をすることも、自衛隊の重要な仕事の一つです」と明記し、右横に「東日本大震災の被災地における自衛隊の活動(2011年)」という写真も載せる。

 また、国際編の一〇三頁、「世界で起こっているさまざまな課題を解決するための国連の活動の中には、戦争や紛争の予防や調停、復興支援などの活動があります。日本は、国連の一員として、世界各地の平和維持活動に参加してきました」と明記し、右横に「国連の平和維持活動に参加する自衛隊(2012年)20年余りの内戦を経て独立した南スーダンでは、幹線道路の整備が大きな課題の一つになっていました」という、大きなショベルカーと自衛隊員らの写真も載せる。

 だが一九頁・一〇三頁とも軍隊ゆえの自衛隊の危険な面(予算や武器の肥大化、事故の多発)や違憲論(PKOの駆け付け警護と称する、外国人への実弾発砲等武器使用の危険性を含む)の記述は皆無だ。

 一七頁でせっかく「政府の行為によつて…」を載せながら、離れた一九頁で自衛隊に言及し、この二つを結び付けさせないようにしようとする手法に対しては、今年六月、都内のある教科書展示会場のアンケートで、東書について「『自衛隊は日本の平和と安全を守っています』という記述がウソではないかと、気付こうとする児童を少しでも少なくし、軍事力による”国防”という政府見解や自民党の自衛隊増強の施策を、是と教化する意図があるのではないか」と批判的意見を書く人も出ている。

 自衛隊の写真の下に、「平和主義=世界では、今も戦争や紛争によって苦しんでいる人々が数多くいます。日本人だけでなく、そうした人々も平和でヘへ安心してくらしていけるように、日本がより積極的に活動することを国際社会が期待しています」(傍点は筆者。以下同)という「ことば」の説明が載っている。
 この「日本がより積極的に活動する」は、憲法前文や九条の精神からは当然、武器の輸出入禁止を含む、自衛隊ではない非軍事の国際協力に限り、積極的に進めるべきだ。
 だが三木武夫内閣時の武器禁輸三原則を、中曽根康弘政権以降空洞化させてきた自民党を中心とする政権は、安倍内閣においてとうとう撤廃し、真逆の武器輸出を原則とする”防衛装備移転三原則”に一変させてしまった。

 「まとめる」と題するワークシート形式の二〇頁・二一頁は、「平和主義=二度と戦争をしない」等の憲法の三大原則を再掲。
 そして、「わたしたちのくらしに日本国憲法の考え方がどのように生かされているのか考えてみよう/8月15日を中心に」「日本国憲法がなぜ大切にされているのかについて、自分の意見をノートに書き、友だちと話し合ってみよう」等の発問を掲げ、「平和主義」等の言葉を活かし記述するよう促している。
 ここに、個別的自衛権行使はもとより、戦争法(安保法)の集団的自衛権行使やPKO駆け付け敬言護の武器使用、安倍内閣の進める武器の共同生産を含む武器輸出等、自衛隊の軍事面も含め「日本がより積極的に活動する」べきだと一面的な意見を書かせてしまうような授業をしないよう、東書教科書一九頁・一〇三頁を教える教員には、強く望みたい。

 ◆ 教育出版

 教出は政治編のうち「憲法とわたしたちの暮らし」の単元は、一〇頁から三一頁まで。国際編の中で国連等を扱う単元は、二五六頁から二七一頁まで。自衛隊はこれらに出てくる。

 まず一二頁で「憲法は、国の政治の基本的なあり方を定めたものです」と書き、憲法の三大原則を記述後、「日本国憲法の前文には、日本の政治のあり方を決めるのはだれかということや、この憲法がどんな考えからできているかということなどが書かれています」と記述。一三頁の「日本国憲法の前文(一部)」に「政府の行いによってこれから二度と戦争の起こることのないようにしようと決意するとともに」等を載せ、そのすぐ下の「話し合い」で、この文言を繰り返した上で、「平和を大切にするということが、この前文の他のところからも読み取れるね」という男児(以下、イメージキャラクター)の言葉を載せている。

 さらに、一五頁の「みんなでつくった学習問題日本国憲法は、どのようなものなのだろう」の「話し合い」でも、「平和主義は、戦争をしないということを定めているのだと思うな」という女児の言葉を載せている。

 そして二〇頁・二一頁の「平和を守る」では、「沖縄にアメリカ軍が上陸し、住民を巻き込んだ激しい戦闘が行われました。広島と長崎には原子爆弾が投下され、多くの命が奪われました。…放射線による影響で、今でも後遺症に苦しむ人々がたくさんいます。一方で、日本は、アジアをはじめ外国にも大きな損害をあたえました。戦地の兵士だけでなく、数多くの民間人の命も失われた戦争の傷あとは、今なお人々を苦しめています」と記述(平和の礎の写真やひめゆり学徒隊の話も掲載)。

 政治編であるけれど、本来、歴史編に書くべき過去の戦争の教訓を書き、この直後の憲法の「平和主義の原則」「外国との問に問題が起こっても、決して戦争をしないこと、そのために戦力(武力)をもたないことを定めています」という記述につなげ、さらに左側の囲みに憲法第九条をそのまま引用(ただし「基調とする」「誠実に希求し」等はわかりやすく言い換え)しているのは、高く評価できよう。

 この後、右側に囲みで「自衛隊の主な役割」として、「自衛隊は国の平和と独立を守ることを主な目的として1954年につくられました。日本が自衛隊をもつことについては、憲法第9条で禁じている戦力には当たらないので問題はないとする見方がある一方で、憲法に違反していると考える人もいます」と記述。
 合憲論をやや長く書いた(しかも「災害派遣で出動した自衛隊」というキャプション付きの装甲車の写真も掲載)後とはいえ、安倍首相ら改憲勢力による自衛隊違憲論へのバッシングの中、違憲論を明記したのは、現在検定作業中の中学校社会科教科書に引き続き違憲論・合憲論を両論併記できる、貴重な論拠になるといえる。

 一方、国際編はどうか?「地球規模の課題の解決と国際協力」の最初の二五六頁〜二五八頁に、「今、緊急のアフガニスタン問題は、政治や軍事の問題ではなく、パンと水の問題である。何よりも尊いものは、人の命である」という「医師の中村哲さん」の言葉を引きつつ、その活動を紹介(中村さんのパキスタンでの活動は、二七〇頁のまとめでも「振り返り」の機会を設けている)。また二五九頁には、「地雷の処理に使われる日本製の機械(パキスタン)」というキャプションで、「UN」の文字入り大型ショベルカーの写真(自衛隊ではない)も載せている。

 だが、二六三頁に「国連の平和維持活動(PKO)に参加した日本の自衛隊(2016年、南スーダン)」というキャプションの写真を、「現地の人々と協力して、道路の補修などの土木工事を行いました」という説明と一緒に載せている。これは一面的な記述だ。
 教出は道徳では執筆者に日本会議関係者がいて問題が多かったが、社会は総じて土俵際で踏ん張っている。

 ◆ 日本文教出版

 日文は政治編のうち「憲法と政治のしくみ」の単元は、八頁から二七頁まで。
 まず九頁のキーワードに「日本国憲法国のきまり(法律)のなかで最高のもので、すべての法律は、憲法をもとにつくられています」と書いた後、一〇頁・一一頁で憲法の三大原則を記述する際、「平和主義は、戦争をしない、平和をたいせつにするということだよね」というイメージキャラクターの男児の言葉を載せている。

 続く一二頁で「日本国憲法前文」の一部要約を縦書きで掲載。「政府の手によって再び戦争の災いがおこることのないように決意し」は、横書きの平和主義の説明でも繰り返している。

 この後は、二三頁に防衛省の説明を、四〇頁に「自衛隊や警察、消防による復旧活動」の写真、二二六頁に「東日本大震災での自衛隊の救助活動(2011年、宮城県)」の写真を載せているが、いわゆる防衛面での自衛隊記述はない……と思いきや、二五四頁から二六五頁までの国際編の中で自衛隊を大宣伝していた(本記事タイトル部画像参照)。

 二五八頁に「南スーダンで活動する自衛隊員」というキャプションの大きな写真を載せ、下の本文に、「アフリカのスーダンでは、長く国内の紛争が続いていましたが、2005(平成17)年に終わりました。この状態を保つことを目的として、国連が活動をはじめ、2008年から日本の自衛隊も活動に参加しました。2011年には南スーダンが独立し、以後、この地域の平和と安全を守ることと、南スーダンの発展のために、国連はさまざまな支援をおこないました。自衛隊も国連施設の整備や道路の補修などをおこない、国連の活動に参加しました」と記述。

 小学生にこれだけ長い説明が必要かと感じるが、正確に書く気があるなら、東書でも指摘したように、PKOの駆け付け警護に向け実弾発砲等武器使用の訓練をし、現地ではもう一歩で発砲する危険性があった事実、戦闘状態だったため、一七年五月に撤収した事実も記述するべきだ。

 ※永野厚男(ながのあつお)
 文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。

『紙の爆弾』(2019年8月号)

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