2019/10/9

子どものための教育ではなく、産業界のための教育  ]Vこども危機
  《被処分者の会通信から》
 ◆ 経産省が主導する「未来の教室」
吉野典子

 8月22日、「Society5.0時代の学校教育」をテーマに東京都総合教育会議が開かれた。因みにSoiety5.0とは、狩猟社会、農耕社会、工業社会、情報社会の次に目指すべき未来社会だとか。
 まず、「70〜90%の児童生徒がICT(情報通信技術)を活用した授業は分かりやすいと回答し、活用すると正答率が高くなる。しかし、諸外国に比べてコンピュータの整備が遅れ、ICTを活用した授業の実施率も低い」現状が報告され、続いて、ICT教育を推進する千代田区立九段小学校・町田市立堺中学校・都立三鷹中等教育学校の校長が、自校での成果を報告した。
 メインの講演は佐藤昌宏デジタルハリウッド大学大学院教授。開ロー番「社会の求める人材と学校教育にギャップがある」と言う。子どものための教育ではなく、社会(正直に産業界と言うべきだろう)のための教育という発想だ。


 アナログ人間の私には理解し難い話が多かったが、個別最適化とそれに必要なスタディログ(学習履歴)という言葉が心にひっかかる。家・学校・塾がシームレスに繋がって子どもの学習履歴を管理するという。
 「学習履歴を管理すれば、一発勝負の入試は不要になる」と聞けば、受験中心の学習から解放されるように感じるかもしれないが、自ら進んで自分に関するあらゆる情報を差し出さなければならない。24時間365日が試験だとも言える。
 全員が丸裸にされ、常にMRIの画像を首から下げているディストピアをイメージしてしまう。
 佐藤氏のプレゼン資料は、風にマントをなびかせてスックと立つ少女の後ろ姿を背景に「恐い?それともワクワクする?」という問いかけで終わっている。

 彼は経産省が昨年1月にスタートさせた「未来の教室とEdTech(注)研究会」の委員(座長代理)であり、その第1回の会議で配布した資料の最終頁も同じ。無知で頑固な臆病者と言われたくなければ「ワクワク」と答えるしかないと悟らせる殺し文句だ。
 今年6月、研究会は第2次提言を公表した。そこには「学校や民間教育の現場における日々の学習や課外活動の成果、そして生活環境に関する情報を学習ログとして蓄積するとともに、特に幼児期から悉皆的に一人ひとりの認知特性等の個性についても丁寧に把握し続けることが必要」とある。
 そ〜ら、やっぱり人間を丸ごと管理するつもりだ。

 これまた佐藤氏が委員に名を連ねる教育再生実行会議は、5月に第11次提言「技術の進展に応じた教育の革新、新時代に対応した高等学校改革について」を公表している。
 その中に「地方公共団体においても……総合教育会議を活用することなどを通じて、首長と教育委員会が一体となり、先端技術の活用を含めた教育の情報化を推進する。」とあり、小池都知事はこの提言を忠実に実行したわけだ。
 総合教育会議の傍聴者は18人。教育委員会定例会では見かけない面々が半数を占める。傍聴申請書に住所氏名を書く際に「会社の住所ですか?」と質問した男性、配られた資料を手提げ袋に入れたままメモも取らずに傍聴する女性。う〜ん、謎だ。教育市場の拡大を期待する企業関係者が出張で来たのだろうか。

 Society5.0自体初耳の私だったが、「何?それ」どころか、既に国策や都政のど真ん中に鎮座していた。
 Society5.0時代には「日の丸・君が代」のような分かりやすい道具を使わずとも、自発的な服従を容易に作り出すことができるだろう。私たちの闘いは透明人間を相手にするような、今以上に困難なものになりそうだ。
 9月に入って、東京都副知事にはヤフーの前会長宮坂学氏が、文科大臣にはアベ友の萩生田光一氏が就任。経産省の後塵を拝している感のある文科省は、省の存亡をかけてアベノミクス幻想への滅私奉公を加速させていくはずだ。ワクワクしろと言われても、恐いものは恐い。

 (注)EdTechとはEducationとTechnologyを組み合わせた造語。

『被処分者の会通信 第125号』(2019.9.24)

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