当ブログの運営者は工藤英勝です 近代仏教史家で、とくに近代仏教と東アジアとの関係論に関心があります このブログではとくに朝鮮と日本宗教にかかわる問題とくに植民地布教についての資料とデータを提供いたします 大きな歴史認識や歴史解釈ではなく、諸事象と人間がどう動いていたのかを解析していきたいと思います 資料やデータにかかわる具体的なお尋ねには回答いたします

2012/2/13  12:40

植民地布教の実態と虚像 ―朝鮮布教統計表の解析から―  資料について

植民地布教の実態と虚像

 一九一〇(明治四三)年八月、日本国による「韓国併合」が発効してから、百一年目を迎える今日でも、この条約に対する歴史認識は当事者間で共有されていない。
 「韓国併合」はその後の実態からすれば、単なる政治的事件にとどまらず、民族、経済、文化、教育とりわけ宗教も巻き込んだ構造的ジェノサイドであると筆者は考える。
 この植民地統治において、日本宗教の果たした役割や位相については、これまでさまざまな立場からの個別の論及はあるものの、いまだにその実態と全貌が明らかになっているとは言いがたい。
 本稿では、朝鮮総督府による朝鮮布教統計のデータにもとづいて、その数値から日本国の統治下にあった朝鮮エリアの宗教団体の実態を解析する。

 日本宗教(神道・仏教・基督教)の朝鮮布教に対する歴史評価については、支配者側と被支配者側またはアジア・太平洋戦争の前後とでは対照的な評価があるわけだが、筆者は日本宗教の役割や実態についてはある種の虚像や幻想が共通して存在していると考える。つまり、肯定的な文脈であれ、否定的なそれであれ、日本宗教の教勢と実態について過大に評価しすぎているのではないかという疑問がある。

 朝鮮総督府が調査発行した各種の朝鮮布教統計は、散逸して全体を閲覧することは困難であったが、一九〇八(明治四一)年 から一九四一(昭和一六)年までの三十四年間分のデータを入手できたので、原資料の数値データを校正し、体系的な「朝鮮布教統計表」を作成した。統計項目は多岐にわたるが、本稿では布教所数、布教者数、民族別信徒数に焦点を当てて、植民地布教の虚像と実態を考察していきたい。

 韓国併合前夜からの日本宗教による積極的な開教・布教・宣教にもかかわらず、布教所(神社・寺院・教会)数の九割弱は、朝鮮の在来宗教(日本以外の外国基督教含む)によって占められている。支配者側の日本の諸宗教は一割程度にとどまり、客観的には優勢な教勢を保っていたわけではない。
 この傾向は、布教者数の数値においても同様であり、朝鮮仏教の僧侶数が全体の六割強を占めていることも影響して、日本宗教はすべて合算しても八%に届かない。
 さらに、各宗教民族別の信徒数の割合を見ると、日本諸宗教がどこまで現地住民に食い込んでいたのかどうかが明らかになる。信徒の民族による二極化が顕著である。朝鮮人信徒は朝鮮在来の宗教(朝鮮外国基督教・朝鮮仏教)に集中し、日本諸宗教の信徒はほぼ日本人入植者に限られ、朝鮮人信徒は、五%にも満たない。

 以上のことから、植民地支配者や日本宗教による圧倒的な差別・同化・抑圧・干渉・妨害にもかかわらず、@ 朝鮮外国基督教が全期間を通して優位な教勢を保ち、解放後もその地位を継承する、A 「内地」宗教は植民地開教・布教の意図に反して、「内地人」中心、B 神道(教派神道等) は「内地人」大半。神社強制参拝による劇的増加は認められない、 C 教勢では劣勢であるが「内地」基督教は当初は朝鮮人信徒中心。一九二〇年頃をピークに激減し、「内地人」信徒へ移行、D 朝鮮仏教は総督府・「内地」宗教による干渉や妨害にかかわらず全体を通して、教勢を維持している。  朝鮮総督府による布教統計は、支配者側のデータという限定はありながら、各宗教の実態を忠実に反映したものになっている。日本諸宗教の統計数値に、朝鮮民衆の日本諸宗教に対する拒否と抵抗姿勢を読み込むことはあながち牽強付会な仮説ではあるまい。

日本宗教学会『宗教研究』85-4 通巻第371号 (2012年3月)掲載
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タグ: 朝鮮 宗教 植民地

2012/2/13  12:20

統計資料の解題  資料について

統計資料の解題


朝鮮布教統計表の主たる統計資料である『朝鮮ニ於ケル宗教及享祀一覧』を紹介します

表題や発行所は朝鮮総督府の組織改編等によって若干の異同はありますが、昭和元(1926)年〜昭和16(1941)年までの朝鮮における宗教等の団体・布教所・宗教者や諸事業の統計がまとめられています

昭和以前のデータについては、大正期の一部については、この『朝鮮ニ於ケル宗教及享祀一覧』の付属資料にその累年比較の数値が掲載されています
それでも判明しないものについては、他の統計資料(凡例参照)により、適宜補充することにより、日本の植民地支配下の朝鮮のほぼ全期間の宗教団体の動静を把握することが可能です

日本の官憲側の資料であることの限界はありますが、掲載数値については、宗教団体からの具体的な報告にもとづいていますので、ほぼ実態を反映していると思われます。勝手に変更や改竄をすると、前後の数値と整合がとれなくなるからです

『朝鮮ニ於ケル宗教及享祀一覧』総目次
korea_statisticstable.pdfクリックすると元のサイズで表示します
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2012/2/10  8:00

統計表の凡例  資料について

朝鮮布教統計表 凡例

1.作成者  工藤 英勝 (近代仏教史家・東アジア植民地布教)

2.統計表の公開目的
 駒澤大学図書館に所蔵されている朝鮮総督府から寄贈された関係資料の中に、韓国・朝鮮における各種の宗教統計がある。これらの資料は、これまでは断片的にしか知られていなかったが、この資料群の発掘によって、約30年間にわたる神道・仏教・キリスト教(統計資料の掲載順)の布教状況の推移が概観できる
作成者は、東アジアとくに朝鮮開教・布教の実証的な調査研究の発展のために、、収集した統計表の一般公開を行う。
資料原本は膨大に及び、そのすべては公開できないが、必要に応じて個別にレファレンスサービスにも応じる用意がある。

3.統計表の作成方法
 下記の基礎資料にもとづいて、神道・仏教・キリスト教別(統計資料準拠)に、布教所、布教者、そして民族別の信者数の統計一覧表を作成した。
 その統計表の数値は、統計原本のデータに拠っているが、明らかな集計ミスについては、適宜、補正を施している。なお、集計項目の不統一などにより、その統計数値が確定できない場合には、あえて数値を統一せずに掲載している箇所もある。疑問な点については、下記の電子メールアドレスまで照会されたい。

    工藤英勝 religion_korea9110@hotmail.co.jp

4.依拠した基礎資料
@『朝鮮ニ於ケル宗教及享祀一覧』昭和元〜16年調査版
A『朝鮮総督府統計年報』明治41〜大正12年調査版・昭和4年調査版
B『朝鮮総督府施政年報』明治44〜昭和4年調査版
C『最近に於ける朝鮮治安状況』昭和11年5月


5.参考資料 ⇒ 順次、「作品集」のコンテンツで公開します

1998年 曹洞宗の朝鮮布教概史   (『宗教研究』第315号)
1999年 日本仏教の朝鮮布教    (『宗教研究』第319号)
2000年 神道各教派の朝鮮布教   (『宗教研究』第323号)
2002年 日本キリスト教の朝鮮布教 (『宗教研究』第327号)
2012年 植民地布教の実態と虚像  (『宗教研究』掲載予定) 
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