それにしても、今や学生など若い人たちが休みを使って金のかからない貧乏旅行をしようにも、日本というのはそれが著しく困難な国になってしまっているようだ。
はっしーは今回、交通手段としては「青春18きっぷ」やバイク、フェリー、宿泊先としては知人宅など――なぜか私の実家もいつのまにかそこにカウントされていたりする(笑)――を想定しているようなのだが、これだけの長期間にわたる旅となると、むしろ海外(特に東南アジアやインド)のほうが安上がりにできるのではあるまいか。
というのも、とにかく日本の場合は交通運賃が諸外国に比べて高すぎるのに加え、経済的に余裕のないバックパッカーなどの貧乏旅行者をターゲットにした安宿というものが、産業的にも文化的にもほとんど存在しないからだ。
(えーと、前にも何度か書いてると思いますが、私もその昔に海外をバックパッカーとして半年間旅したことがあるので、以下はその時の経験をもとに書いています。ただ、なにぶん既に10年以上前のことですので、「その状況認識は古い」といった指摘がおありの方は忌憚なく突っ込んできてください)
これが東南アジアやインドあたりだと、一泊100〜300円で個室、もしくは大きな相部屋の中のベッド一つを貸す宿(「ドミトリー」と呼ばれる)があちこちにあって、欧米や日本からのバックパッカーはそういうところを泊まり歩きながら数ヶ月、中には数年にわたる旅を続けていた。
中国のような外国人の自由旅行にまだまだ困難が伴いそうな国でも、北京や上海といったゲートウェイの都市には外国人バックパッカーを対象にしたドミトリーが複数存在した。
韓国でも、高速バスターミナルの近辺には1泊1500〜2000円程度で泊まれる綺麗な安宿が結構たくさんあった。また、行ったことはないがイギリスのような欧米先進国にも「B&B」(ベッド&ブレックファースト:つまり一晩のねぐらと翌朝の朝食のみを提供)という2000円程度で利用できる宿がバックパッカーたちに人気を博しているという。また、言うまでもないが欧米には昔から「ユースホステル」や「YMCA」「YWCA」「サルベーション・アーミー(救世軍)」といった、経済的に余裕のない人たちに最低限の寝床を提供しようと活動している組織が広範に活動を展開している。
それが日本ではどうだろう。確かにユースホステルは全国にあるものの近年は退潮傾向にあるようだし、YMCA・YWCA、救世軍もあることにはあるが限定的な存在だ。カプセルホテルやサウナ、漫画喫茶といった1泊1200〜4000円程度で利用できる施設は都市部にしかない。ドミトリーも新宿や池袋、板橋あたりの「ガイジンハウス」の話はよく聞くけど、はたしてそういう場所が東京以外の全国にどのくらいあるんだろうか(そういえばテヘランで宿を探していた時、たまたま会ったイラン人は日本滞在の経験があるやつで「ここ、日本でいったら南千住。よくない。ワタシあなたに銀座・原宿紹介する」と言ってたな)。
「いつか、日本にもおいでよ!」
と、旅先で出会ったバックパッカーたちにもよくそんなことを言ったものだけど、とはいえ彼らがいざ日本にきて、はたして懐具合を気にせずあちこちを回れるだろうか……と思うと、なんだか申し訳ない気分にかられたものだ。
「If You come to Japan,You must buy“Seishun 18 Chicket”!!」とか何とか拙い英語で教えてやった記憶があるけど、あれがはたして彼らの役に立った否かは、正直言って心もとないところだ。
ただ思い出すに、バックパッカーという存在は、たぶん世界のあちこちの町や村の中に日常的に誰か彼かはいたりした。実際、私はソウルでも、北京でも、上海でも香港でもバンコクでもニューデリーでもイスタンブールでも、そういった若き旅人たちと街中でごく普通にすれ違い、互いの旅の思い出を語り合ったりした。
ところが、なぜか「東京」という街ではそうした出会いに恵まれることが日常的にほとんどない。もちろん、この街では私は「旅人」ではないのだから、彼らとはハナから出会いようもないのかもしれない。でも、私は12年前のその旅の最中、ふらふらと歩いていた異国の街角で、土地の人々からさまざまな恩義を受けたものだ。いま、東京の街角をうろつく外国人バックパッカーたちを、この町に暮らす市井の人々はどんなふうに受け止めているのだろうか。
今頃になって政府は「日本ももっと外国人観光客にきてもらえるようにしないと」とか言ってるようだけど、少なくとも今の日本は、好奇心旺盛なバックパッカーたちがバンバン大手を振って旅できる国ではないのだ。
「バックパッカー? そんな職も投げ打って自分の人生を捨てた貧乏人たちのことを相手にしてもしょうがないよ」とか思うなかれ。私が旅先であった欧米からのバックパッカーたちの中にも「とりあえず旅が終わったら日本のN建設(大手ゼネコン)に就職するよ」とかいうやつが当たり前のようにいた。バックパッカーとしてしばらく放浪生活をやってたやつが明日から大手企業に入ってたちまちエグゼクティブになるなんてこともありうるのだ。そういう人材に来てももらえない日本って国は何だ?
と、こういう話になるとまた書き出して止まらなくなるのだが(笑)、あ、そうそう。日本にも、そうはいっても貧乏旅行用に使える手段は探せばまだまだあると思うのですよ。次回、私が知っているその一例を書いてみたいと思いますので、はっしーにもできれば参考にしてもらえればと願う次第。
(「岩本太郎のメディアの夢の島」とほぼ同じ内容を同時掲載)

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