で、昨日はその目下帰京中(東京出張中?)の
西村仁美さんと夕方4時にJR信濃町駅前で待ち合わせ。目指すは最寄りの「
聖教新聞」。
前日に
寺澤有さんから電話で「『共謀罪TV』で創価学会のことをやるので撮ってきて〜。駅前で通りがかりの人への街頭インタビューもやってきて〜」と、例によって突然かつ全然遠慮というものを知らない電話が。「ヤだよ面倒くさい」と抵抗したのだが、既に西村さんがビデオカメラ持参で向かうことになっており、1人じゃ大変だろうから……ということで渋々出かけることに。
言うまでもなく「聖教新聞」といったら創価学会発行の日刊紙として「公称550万部」もの部数を誇るとも言われる巨大新聞であるわけだが、その発行元である聖教新聞社という組織(法人格はなく、あくまで創価学会内部の一部門)のプロフィールに迫った報道の類いというのは、そういえばあまり見かけた記憶がない。私も朝日や読売といった大手新聞にはこれまで軒並み取材などで訪ねているけれど、聖教新聞については不思議と全然接触機会がなかった。だったらこの際「本社」の建物がどんなところかを表から見るだけのついでにでも行ってみるか……と思ったのだ。
前日もこの近くに関連取材や調べものに来ていたという西村さんの案内で、駅北側にあるという「本社」を目指す。このJR信濃町駅一帯は、線路を挟んだ両側に創価学会の関連団体があちこちに立ち並ぶ「学会村」として知られる。もっとも私はこれまで学会を含めてこの界隈にあまり縁がなかったために不案内。しかも西村さんも元来こういう道探しがあんまり得意なほうではないらしく、案の定――道に迷った(笑)。
いや、そもそも聖教新聞社の場所自体、起伏の多い地形に古い民家が居並ぶ住宅街の一角という、公称550万部の「新聞社」にしては実に不思議な場所にあるのだ。2人で路地裏のような通りを右往左往するうち、ようやく民家の屋根越しに、下記のようなロゴを額に大きく掲げて丘の上に聳え立つビルを発見。
さながら「お城が見えた!」という感じだったが、実際この古めかしい、一昔前の新宿区内の様子をそのまま留めるかのような住宅街は「城下町」であるらしい。そこらじゅうの民家の軒先に公明党のポスターが貼られているほか、電柱や消火栓の広告までぞろりと以下のように統一されている。
だだ、下記のように隣接する敵対勢力とのささやかなバトルも見られる。
ともあれ、結果的に駅から思いっきり遠回りする格好で(20分ぐらい歩いたかな)到達したのがここ(↓)。
いかにも1970年代チック(というか昭和40年代か)な少々年季の入ったビルだったが、前を行く通りには通行人の影も少なく、地下の駐車場への車の出入りもまばら。造園業者が黙々と植え込みの樹木の手入れに汗を流しているという、静かな昼下りの光景が広がるのみ。ただ、守衛室から少し離れた場所にはスーツ姿の青年が直立不動で立っていて、この人がビデオカメラで周囲一帯を舐めるように撮影する西村さんをさすがに気にしたらしくて、やがてつかつかと歩み寄ってきたのであった。
「あの、どちらさまでしょうか?」
そのままビデオをまわし続ける西村さんに変わって私が応対する。かくかくしかじかで「共謀罪」というテーマについてのドキュメンタリーを取り続けている者たちである。別に怪しい者ではないし、もとより御迷惑をかけるつもりもありませんから……云々かんぬん。
それに対して先方は「所属はどちらですか?」「許可はとったんですか?」「撮ったものを悪用されるのは不本意です」と例によって言ってくるわけだが、こちらも「所属はありません(フリーですから)」「あんなデカデカ『聖教新聞』と大きく出してる建物を撮るのに許可はいらんでしょう」「建物の映像撮ったって悪用のしようがないですよ」と例によって答える。ただ、やはり宗教者(学会の会員さんとのことだった)だけあってか、警察や役所あたりとは違ってこういう時にもはぐらかさずに「はあ、そうですか。ただこちらとしてはですね……」と答えてくれるのは良いなあと思った。ついでに「共謀罪についてご存知ですか?」と聞いたら「いや、ちょっと私はよく……」との返事。
しまいには守衛さんが寄ってきて「なんでしたら広報におつなぎしますので、そちらで取材していただいたほうが……」と言って電話をかけにいく。おお、外観撮影だけのつもりが思いがけず内部も撮れるのか! と喜んで待っていたら、反対の後ろのほうから30代と思しき若いスーツ姿の男性がやってきておじぎをする。名刺を交換したら、何と創価学会本部の広報担当の方であった。なんだか何時の間にか面白い展開になってしまったぜ。
「取材はまた改めてメールかファックスで御連絡いただければ」と言われたが、せっかく西村さんもビデオを回しっぱなしにしていたことでもあるので、この際いろいろと質問してしまう。担当氏も「あくまで私個人の見解ですが」と言いながらもきちんと答えてくれた。
共謀罪については承知の通り自民・公明の両与党が賛成。その他の野党が反対という構図でここまで推移している。ところが、その与党の一角をなす公明党の支持母体である創価学会の内部では、この法案に対するスタンスは定まっていないらしい。事実、共謀罪反対の集会などには、自ら創価学会員であることを明らかにした上で「共謀罪には反対です」と発言している人たちも来ている。まあ、この組織の沿革からして「現代の治安維持法」とか言われる法案に対して穏やかでない心境の会員も当然いるであろうというのはわかる。
「(公明党としての政策はともかく)創価学会としてはこれまで共謀罪について何らかの姿勢を表明したということはありません」と広報担当氏は言った。あくまで政党としての公明党と創価学会とでは、それぞれ別の判断になる――と、まあ従前通りの説明ではあったが。
「会員の中にも『共謀罪には反対だ』という人は多いようですが」と私は言った。
「そういう人もいるだろうと思います」と担当氏は言った。「我々としても学会の人たちが、公けの場でそうした自分の意見を言うことを止めるつもりはありません」
――とかいうやりとりを、しばし白昼の路上で展開していたわけであるが、このへんの詳しいやりとりについては西村さんのビデオが一部始終を撮っていたから、いずれ御覧いただける日がくるかもしれないということで、改めて乞うご期待をば(笑)。
まあしかし、最初はイヤイヤ渋々向かった取材だったが、案外そういう時ほどこういう想外のちょっと面白い展開に出会うことも多くて、これはこれで記者冥利に尽きる部分ではある。ともあれ、そんなわけで創価学会員のみなさんには今後はどしどし公の場で遠慮なく「共謀罪反対!」と――ま、別に「賛成」でもいいけどね。率直な意見なら――言っていただければと思う次第(笑)。

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