先週の土日は藤枝(静岡)の実家まで1泊とんぼ返りの帰省。そのついでに、新宿駅から出る「
駿府ライナー」という高速バスに乗ってみた。昨年6月に開業したばかりの、まだ新しい路線だ。
東京から静岡までは新幹線「ひかり」で1時間。もっとも、快速や鈍行を乗り継いでも3時間ぐらいで着いちゃうし、新幹線の停まる東京駅や静岡駅までの乗り換えの煩わしさを嫌って、「下」(高架上を走る新幹線に対し、地べたを走る在来線をこう呼ぶ)で行く人も結構多い。
一方で高速バスの利用者も、昔から国鉄→JRの「東名ハイウェイバス」が運行されてきたためか、そこそこにいたらしい。所要時間も鉄道の在来線利用とほぼ同程度。
ただし東名バスは都心からだと東京駅まで行かなければ乗れず、静岡県内の東名高速のルートは市街地から遠い辺鄙なところばかり。県庁所在地の(旧)静岡市内のインターチェンジも地元では「駅南(えきなん=静岡駅を中心に東西に走るJR東海道本線の南側)」と呼ばれる“裏町”の南のはてにあるし、何より静岡側から乗る東京行きの便は、都内に入るや首都高の渋滞に巻き込まれて遅延がちだ。
また、価格面でも東京―静岡間は高速バス利用だと片道2850円だが、新幹線でも金券屋価格で同5300円前後と「ゆっくり行った割には案外安くなんないな」と思える差でしかない。それだったらむしろ貧乏人や学生向けには「青春18きっぷ」という必殺手段が(季節限定だけど)あって、こいつを使えば1日2300円で何と「日帰り往復」すら可能な距離なのだ(実際、東京都心やディズニーランドへ遊びに行くのにこの手を使う静岡県民は少なからずいるらしい)。
そんなわけで東京からの距離がほぼ等しい関東北部や山梨あたりに比べると、東京―静岡間というのは従来の高速バス業界にとっては「パイは大きいもののシェアは小さい」マーケットではなかったかと思われるのだが、そうした意味では約1年前に誕生した、この「駿府ライナー」の商品設計にはなかなか面白い新機軸が見られる。即ち起点側と終点側の双方のルート&バス停(=ユーザー向けのアクセスポイント)に少々工夫が加えられているのだ。
(以下、極ローカルな話題になるため「
わかんね!」という方はスルーしてくださいませ ^_^;)。
まず東京都心側のターミナルが新宿だということ。都市機能や人口がどんどん西へとシフトしつつある東京の住民にとっては、従来からある東名バスのターミナル・東京駅八重洲口より全然便利だし時間短縮効果も大きい(西の静岡方面に向かうんだったら首都高の混雑にもそんなに煩わされずにすむ)。
また、静岡側でも高速から一般道へと出入りするポイントが、静岡IC(インターチェンジ)より東京寄りの清水IC(合併前の旧清水市内)となった。バスはそこからは旧静岡市内の住宅地を東西に抜ける「北街道(きたかいどう)」という幹線道路上を、途中いくつかのバス停で客を降ろしながら進む。このあたりに住む人たちの場合、新幹線利用だと東京から静岡駅までついた後に、もと来た方向へといったん逆方向に30分ぐらい戻る格好になるから、確かにこのルートはありがたいだろう。
(ちなみに終着駅の「
新静岡」とは地元の静岡鉄道の電車&バスターミナルとショッピングセンターがある場所で、JR静岡駅からは徒歩5分ぐらいの繁華街に位置している。同市内の中心部を走るバス路線は基本的に隣接する上記2駅に相次いで停車するのだが、1日あたり上下各6便運行「駿府ライナー」は何故か全て新静岡発着でJR駅前までは行かない。これについては後述)。
……というかですね、そもそもこの「北街道」沿線って、私が10〜17歳にかけて住んでいた(こないだ
ここにも写真を載っけた)場所なんですよ。しかも路線図にのった停車駅を見たら終着の新静岡の一つ手前に「
三松(みまつ)」なんてのがある。私が通った中学と高校の最寄りではないか! あんなしなびた田舎町まで、本当に新宿駅から高速バス1本で行けるようになったのか? 何だか信じられないような気もして、これは近いうちに一度、帰省の折にでも乗ってみるしかあるまいと思っていたのだ。
で、17日(土)午後、15時10分発の「駿府ライナー3号」に乗るべく新宿駅新南口のJR高速バスのりばへ。いつも
the sad sad planetが週末ライブをやってる東南口から甲州街道陸橋を越えた反対側、タイムズスクエアやユニクロのすぐ隣だ。「本当にここから三松へ行けるのか!!」とまたしても一人で感動(しつこいな)。さらにはバス乗り場の壁にこんな凄まじいポスターが掲出されているのを発見。仰け反る(苦笑)。
この路線はJRと静岡鉄道系「しずてつジャストライン」の共同運行で、「駿府ライナー3号」はJR車両を使用。ただ、車体の「JR」マークが緑色なため、JR東日本系列のバス会社の受け持ちだとわかる。
それで「新静岡」が終点になっている事情が納得できた。同じJRでも静岡県内はJR東海のエリアで、静岡駅はその中心拠点。そんなところに、兄弟会社とはいえどケシカランことに地元の他の交通業者(静岡鉄道)と組んで新幹線の客を奪いに来たJR東日本の高速バス路線が平気な顔で出入りできるわけがないのだ。JRの「東日本」と「東海」との仲の悪さは有名だが、その一端がこういうところにも表われているようだ。
ともあれ、バスは座席が9割がた埋まった状態で出発。5月中旬の土曜午後、しかも後は静岡市内まで下車駅のない便であることからすれば、路線開設が「あたり」だったことを匂わせる乗車率だ。ルミネ前の甲州街道から西口〜山手通りと入り、池尻から高速に上がる。懐かしい街への旅路だと思うと、車窓から眺める普段から馴染みの新宿の街並みも何か違って見える。
もっとも、高速に上がってしまえば以前から何度も乗った東名バスと同じ、両脇をひたすら防音壁に囲まれてほとんど何も見えない沿道風景が延々と続く。床下から断続的に突き上げてくる衝撃(高架の継目の通過時には必ずこれがある)、窮屈で身動きがとれない座席……と、個人的に普段から高速バスを敬遠しがちないくつかの理由が、たちまち気になり出す。
唯一、中間点の足柄サービスエリアでの休憩停車中、外へ降りた途端に沿道の野山から押し寄せる新緑の香気に思わず「ほわ〜っ」とさせられた。新宿の雑踏を身にまとったまま、真空パックのように静謐なバスの車内に1時間も閉じ込められた後だけに、なかなかのインパクトがあったりする。他の客たちの表情を若干ゆるんだようだ。何せここを過ぎれば、後は目指す我が家まで1時間なのだから。
定刻(新静岡着18:09)よりも少し遅れて、18時少し前に清水インターで高速から降り、静岡市内へ。昔見慣れた「竜爪(りゅうそう)」を中心とする市内北部の山並みや、地元おにぎり飯チェーンの「
テンジンヤ」の店舗が沿道にあったりするため「静岡に着いた」と実感するが、何しろ市内東部のこのエリアはバイパス建設がらみで街路がやたらと変わり、何たって私自身がここを離れてから四半世紀も経っちゃってるので完全に浦島太郎状態なのだ。
とかなんとか言いながらも18時半頃には何とか三松に到着。おお、ずいぶん変わってるけど確かに三松だ!! と感動しながら下車し、終着駅へと向かうバスの後ろ姿をパチリ。四半世紀前には毎日の通学路だった北街道を少し歩き、後ろからやってきた静岡駅ゆきの路線バスに、かつて「おでかけ」の際によく利用した、当時の実家最寄りのバス停から飛び乗る。今も実家がここにあったら、私にとっても「駿府ライナー」はめちゃくちゃ便利な帰省手段になったことだろうが、母は現在ここから20q西の街で一人暮らしをしており、そこが今の私の「実家」になる。
一泊二日の「実家」滞在は、ひたすら母の手料理をがっつき、2人で近況を語り合い、一緒に墓参りに行くというパターンで終わる。私は今や「三松」近くにいた頃の母の年齢を超えてしまった。あの頃は母子家庭の母親と長男(私)はどちらも不機嫌な毎日を送っていたものだが、今では母のほうはすっかり悠々自適。一方の私は何時果てることもなさそうな不機嫌状態が延々と続いている。「ごめんね」と言い残し、東京への帰路につく。
帰路に利用したのは沼津発新宿行きの特急「あさぎり」。この列車は「駿府ライナー」とはまったく逆のパターン。すなわちJR東海が小田急と組むことで新宿駅まで乗り入れる(当然JR東日本の線路には1cmも乗り入れない)というケースだ。こうしたくだらない兄弟げんかのような客争いのルートを、実家への帰省ついでに往復で利用してきたのでした。ではでは♪
(※なお、今回は上記の写真をすべてケータイで撮影してみました)

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