というわけで先週末は静岡まで帰省してきました。往復に高速バス「
駿府ライナー」を利用。
このバスには1年ほど前にも帰省で乗ったことがあるが、往復で利用したのは今回が初めて。新幹線「ひかり」なら片道1時間の距離を3時間ちょっとかけて走るが、運賃は片道だけで5000〜6000円はかかる新幹線に対して約半額の2800円。しかも往復割引では何と4500円と、新幹線の片道分がまるまる浮いて「青春18きっぷ」並みだということを先日になって初めて知り、「だったら1泊2日の帰省の往復に使ってみようか」と考えた次第。
実際この路線、好評を博してか、去年私が利用した時よりも増発されているらしく、最新の時刻表を見ると午前中の静岡発、午後の新宿発は1時間おきに出ているほどだ。
新幹線や東海道線に加えて、昔からある東京駅着発の東名ハイウェイバスなどがほぼ並行して走っている区間にあって、そこまでの需要があるのかとも思うが、両側の始発着駅エリアの乗客(都内なら新宿近辺もしくは新宿に発着する鉄道路線利用者、静岡側なら旧清水市〜旧静岡市東部に住居や実家のある人)にとっては、料金の安さや新幹線での乗り換えの煩わしさから、こちらも充分に選択肢に入るのだろう。
(ちなみに上記の「東名ハイウェイバス」は最近の高速バス路線とは違い、高速道路上に数キロおきに設けられたバス停へ「各駅停車」のように停まっていくという、一般の路線バスの高速道路版というか、新幹線の「こだま」号みたいな存在だ。始発―終着駅間を途中ほぼノンストップでダイレクトに結ぶという近年開設の高速バス路線とは形態を異にする)
確かに高速バスの快適なリクライニングの快適な座席に座ったまま3時間で、しかも乗り換えどころか階段の上り下りもない(新宿側も静岡側もバス乗り場は1階や道路脇のバス停)まま行けるのだから、実際に利用してみた感じでも、気分的に凄く楽なものがある(もっとも今回、私が日曜夕刻に静岡からの帰路で利用した便は神奈川県内での渋滞に引っかかり、新宿着は約1時間遅れ。ここらへんは都心へ向かう高速バスが宿命的に抱える“弱点”だ)。
もとよりマーケットとしてはニッチなものなんだろうが、それでも東海道ベルト地帯の一角をなすこの区間であれば、日中1時間おきに高速バスを走らせるぐらいの需要はあるということらしい。私が今回乗車した便も往復ともに6割ほどの乗車率で、大半がリピーターという雰囲気だった。
しかしこういうのを見ると「確かにJRの鉄道本体のほうは苦労するよなあ」と思う。といっても、さすがに会社の出張などのビジネスユースで新幹線を使う客は食われないだろうが、一方で「別にそんな急がなくてもいいから安く行きたい」というニーズは、たぶんこうした高速バスに流れちゃうのだろう。
その意味からもびっくりしたのは、東京に発着する夜行バスのブランドとして有名な「ドリーム号」の中に、今では「
ドリーム静岡浜松」なんて系統もあるということだ。上記の通り新幹線で日帰りもしくは「通勤」すら可能な距離にあって夜行の路線バスが成立するというのだから驚く。
こういうのを見るに、先日もここで書いたように今や鉄道の夜行列車というのが成り立たなくなりつつあるのはわかる。昔だったら東海道沿線における「深夜に移動したい」という需要を数本の夜行列車を運行することで吸収できたのだろうが、今やそれはニーズを細分化した形で高速バスがフォローしているということなのだろう。確かにコスト的にはそうしたほうが安上がりだろうし、JR各社も今や傘下にバス会社を持っている。だからそっちで回収したほうが得策だという判断なのではないか。
もちろん東海道あたりだと「ムーンライトながら」による夜行利用客も多いのだろうが、しかし「青春18きっぷ」あたりで利用されてもなにぶん単価が安くて(なんたって1日あたり2300円だし)、わざわざ列車を仕立ててもあんまり旨みが無い。だったら、むしろ夜間の停車駅に夜勤で入る職員の削減や、線路保守のことも考えて、夜行は鉄道本体よりもバスで、という判断になっているのだろうか。
とはいえ、個人的に夜行バスってのは便利さは認めるけど、今ひとつ好きになれないんだよな(苦笑)。
というのも、夜行列車だと乗り込んでからも夜更けまで夜景を眺めたり本を読んだりビールを煽ったりしながら、眠りにつくまで適当に時間が潰せたじゃないですか。通路の補助椅子や休憩室やデッキでぼんやり夜景を眺めたりとかできたし。それが夜行バスの場合はとにかく乗り込んだ途端に座席にもたれこんで眠らなきゃいけないみたいな、無言の圧力を感じるところがあってどうにも落ち着かないのだ。
だからまあ、旅を愛する人間としては、できたら東京⇔静岡でも東京⇔大阪でも同じ区間の移動に使う選択肢がなるべくたくさん並立・共存できる世の中であってほしいなと願うものです。忙しい人は新幹線や飛行機を使えばいい、特に急ぎでなく「ゆっくり帰省できればいいや」って人は高速バスを使えばいい、「運賃を節約したぶん、優雅な鈍行旅行を楽しみたいな」という人は「青春18きっぷ」がお得です……みたいなね。
その意味でもJRが昨今「ムーンライト」系夜行快速の縮小に向かっているのは残念に思う部分と「無理ないな」と思う部分の双方がある。韓国やマレーシアやイラン、トルコあたりの規模で、鉄道路線網がそれほど国土内に行き渡っていない国では高速バスが一般市民の足として昼行・夜行とわず重宝されていたのを、私も大昔のバックパッカー時代に体験したからわかっている。ただその一方で中国とかインドとかタイあたりでの夜行列車の風情は印象的だったし、ああいうのはまだ当地に残っているんだろうし、できたら日本にもなるたけそういうのが残っていてほしい……というのも、あるいは今や単なるノスタルジーからなのかもしれませんが。

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