遅まきながら、というか地味な世間的には地味な話題だろうけど、新潮社が発行する月刊誌『フォーサイト』が来年で休刊になるのだそうだ。
「
『フォーサイト』来年3月に休刊 新潮社の情報誌」
(asahi.com 2009年12月16日18時42分)
って、また(もはや近頃珍しくもない)雑誌廃刊話になるわけだが、それでもちょっと気になるのは、この雑誌が基本的に直接販売(即ち書店流通にはほとんど依存しない)で創刊(1990年)以来やってきて、なおかつ上記の記事によれば現在でも約2万部もの発行部数を持っていた、ということである。
そもそ直販・月刊による“国際政治経済情報誌”というスタイルの『フォーサイト』が1990年の創刊時に先行モデルとして模範としたのは言うまでもなく『選択』だった。「三万人のための情報誌」を謳い、直販であらかじめ読者を絞り込むことで記事の質を高めよう(流通コストを削減し、直接購読による資金回収の円滑化を図ることで、そのぶんを充てよう)というやり方だ(ちなみに『選択』もその後のお家騒動とか分裂騒ぎがあったわけだが、とりあえずここで措く)。
だから現状の発行部数が「約2万部」だったからといって「三万人のための情報誌」モデルからすれば、決して絶望的といえるレベルではなかろう。だって、聞いた話では『週刊金曜日』だって、だいたいそんなもんである(っていうか、『金曜日』もそれはそれで大変らしいんだけど。あそこは社員も結構多いし)。
にも拘らず廃刊になるのは、まず第一には「新潮社の社員の給料が高すぎる」ということが原因ではないかと(笑)。2〜3万部の雑誌なら雑誌で、それに見合った人的コストの設定がなされるのが本来なら適切なあり方だと思われるのだが、ご承知の通り新潮社は『週刊新潮』や文芸部門を擁する老舗の総合出版社で、社員の給与水準も高い。そうした中で『フォーサイト』のような雑誌を単体で黒字にするのはそもそも無理があるのだ。
上記の朝日記事には新潮社側の「出版不況の中で全社的な事業見直しが避けられず、黒字化への見通しも立たないことから、創刊20年目の区切りで経営判断をした」というコメントが載っている。んなこといったってアンタんとこは『1Q84』で大儲けしたばっかりじゃないかと半畳も入れたくなるが、会社全体としては、それも雑誌部門は確かに厳しい状況にあるのだろう。もとより雑誌の規模から言ったら『週刊新潮』のほうがよっぽどシンドイ思いをしているのだろう(今年は例の誤報騒動もあったことだし)が、こちらは会社の看板媒体だから外せない。だとすれば、鉈を振るうのは傍流の『フォーサイト』などから……ということに必然的になるわけだ。
あと、『フォーサイト』という雑誌自体が、直販で読者を絞り込むというスタイルの特性を活かしきれていなかったんじゃないか、という気はした。というのも、だからと言って流通や広告主などのタブーを気にせずに思い切った論陣や斬り込み方ができるかといったら、版元の新潮社は他で取次・書店・広告主からさんざん世話になっている。
また『選択』のように「三万人のエグゼクティブ」を対象に、有力ジャーナリストらの匿名によるディープな記事で読ませるという手法も、たぶん新潮流のジャーナリズムとそぐわなかった。それだったらウチには海千山千の専属記者たちによる『週刊新潮』がある、という感じだったのではないか。
そういえば「人間、煎じ詰めれば色・欲・金だ」「人殺しのツラが見たくないのか」などの名言を遺したかつての同社の“陰の天皇”齋藤十一氏(以前
ここでも紹介した)は『フォーサイト』のような雑誌には生前、確か批判的だったような話も聞いたことがある。
まあしかし、そんな齋藤さんの嘆きじゃないけど、雑誌がだんだん窮屈な状況へと追い込まれる嫌なご時世になってきているような気がする。マジな話、雑誌というメディアは、この先も生き残っていけるとしたらはたしてどんな道が残されているのだろう。
私がかつて仕事をしていた『宣伝会議』とか『創』あたりだと、当時でも実売部数は1万部に届かないような水準だった。当然、雑誌それ自体では利益も出ないわけだが、そこを各種の講座ビジネスとか就職読本とかの利益で補ってきた経緯がある。
ようするに「まともに売って儲かってペイしている雑誌」なんていうもののほうが、とうの昔からこの国の出版業界では少数派だったのである。女性誌だって大半の利益は広告収入からだし、コミック誌にしても連載をまとめた単行本や、アニメ化などの各種権利ビジネスがメインだ。むしろ文芸誌とか総合誌とかは、社内のそういった別部門の利益によって「食わせてもらっている」形で今日まで何とか持ちこたえてきたわけで、それが現在のように広告から何から左前な経済状況になれば、真っ先に切られるほうが至極当たり前な話だとさえ言える。
ならばどうするか。思うに表題に書いた「雑誌なんて1万部も売れてなくたって普通なんだよ」というか、はっきり言って「売れなくて(儲けが出なくて)当たり前(だから他で儲ける)」のメディアであるという割り切りというか、思い切った発想の転換がそろそろ必要になってきているんじゃないかと思うんだけど……続きはまたね。

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