先日、東京新聞の大村さんという記者の方から連絡をいただいた。自費出版物を中心に手掛けている出版社の「
碧天舎」が先月末、東京地裁に自己破産を申請したのだという。その結果、同社から著者として本を出す予定だった人の多くが、本も出せなくなったどころか、払い込んだ金もドブに捨てる形になってしまったために目下怒り心頭の状況にあるらしい。ついてはその件について紙面で取り上げたいので、コメントをいただけないでしょうか――という話だった。
私自身は碧天舎とは仕事上の付き合いもなければ、取材などで訪ねたこともなかった(ただ、同社のオフィスが神田の神保町駅近くにあったため、アワプラに行く際などによく近くを通りかかったが)。なのに何で私のところにコメント依頼が来たのかというと、同じ自費出版の版元としては最大手として知られる「文芸社」についてのレポートを以前に書いていたからだ(『創』2002年8月号掲載「危うし! 自費出版ブームと『文芸社商法』の舞台裏」)。
もっとも、その記事もかれこれ4年も前に書いたものだし、それ以降は特に継続取材をしてきたわけでもない。なので今さら私が訳知り顔で何かを語るのはどうかな、とも思ったのだが、前出の大村さんによると「この分野については書かれたもの自体が少ないし、専門で追っているジャーナリストの方というのもあんまりいないみたいなんですよ」とのこと。まあ、確かに出版業界においては長らくニッチ産業的に位置付けられてきた分野ではあるし、そこについて詳しく語られたもの、詳しく書かれる人材が見当たらないというのも無理のない話だ。
ところが、そのニッチな存在だった自費出版産業が、ここ数年の間でにわかに急成長を遂げてきたというのもまた事実なのだ。例えば、新聞を毎朝読む習慣のある方ならご承知の通り、最近は「あなたの原稿を、出版します」「本にする原稿を探しています」といったコピーが大きく書かれた広告が頻繁に掲載されるようになっている。また、文芸社や、それこそ今回潰れた碧天舎のように、作品公募と共にアマチュア作家対象の文学賞を開設したり、有力作を民放テレビ局を通じてドラマ化したりという派手な展開に打って出ていることについても御記憶の方は多いかと思う。ウェブなどを通じて誰でも気軽に活字テキストを不特定多数に向けて発信できるようになったという状況も手伝ってか、「あなたも一夜にして作家デビュー!」といったような幻想が、何時の間にかかなり広まってしまったこともあながち否定できないところだ。
で、そういった具合に短期間で急拡大した業界というのが、えてして危うさを孕みがちだというのも過去の歴史が教訓としてよく教えている通りだ。この自費出版産業の隆盛についても私自身、その4年前の取材の際には、そのビジネス構造が必然的に内包する問題の所在を痛感せずにはいられなかった。
そして今回、私のところに連絡してきた東京新聞の大村さんも「碧天舎破綻」の背景にそうした構造的な問題点があったのではないか――という認識を持っているようだった。
「碧天舎」破産申請の数日後、その関連会社で女性向けコミックスやノベルスを出してきた出版社「
ビブロス」も倒産に追い込まれている。報道によれば碧天舎の破綻による資金繰りの悪化がその原因だったらしい。だとすれば、詳細は未だ不明ながらも私が4年前に上の記事で書いた「自費出版産業が構造的に孕む危うさ」は正鵠を射ていたのか――とも一瞬思ったりしたのであったが、とりあえず今は、私なりに思う問題点の所在を思いつくままに例示していくところから始めようかと思っている。
というわけで、これを機会に久々に「自費出版」の問題について、この場で書いてみようかと考えた次第だ。なお、上記の東京新聞の記事については、来たる9日(日)の「こちら特報部」に掲載の見込みだそうで、よろしければこちらも御覧頂きたい。
(つづく/なおA以降は「
岩本太郎のメディアの夢の島」にて連載の予定)

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