しかし「はらたいら」氏の訃報には思わず溜め息をついてしまった。私ぐらいの世代なら、「クイズダービー」のレギュラー回答者「3枠」に座っていた彼の齢に似合わぬ童顔(確か30〜40歳だった)と、大橋巨泉に「宇宙人」と称されたほどの驚異的な正答率が今なお印象深いところだろう。
何しろあの頃、1970年代後半から80年代半ばにかけての「土曜夜7時半」といえば、すぐ後に「8時だヨ!全員集合」が控えるという正真正銘のゴールデンタイム。今の若い人には信じられないだろうが、家族全員が茶の前に揃って夕餉を囲みながらテレビ画面に見入るのが当たり前の時間帯だったのだ。
1980年前後の日本といえば、60年代から続いた高度経済成長が一息つき、全共闘運動のほとぼりも冷めた後の、静かに豊かに平和な時代。「オイルショック」だの「金権腐敗政治」だのといった殺伐とした見出しが連日新聞を飾っていた記憶もあるけれど、今から思えば日本社会全体に、ほどよく成熟した壮年期の若さがあった。
テレビが広告費で新聞を抜き、とうとう最大のマスメディアの座に着いたのもこの頃。まだ少年だった私たちにとって、当時のテレビは自分たちの日常感覚からは想像をはるかに絶した人物や出来事が次から次へと飛び出してくるビックリ箱。そして、その週末の夜の全国民注視の舞台で繰り広げられるクイズショーで毎週、どんな難問にもポーカーフェイスで難なく正解をはじき出してしまう童顔の青年は、まさに神秘の人ともいうべき存在だった。
そういえば「クイズダービー」を見なくなったのはいつ頃からだったろう? おそらく大学に上がって誰しも少しばかりテレビから離れるあたり(私の場合は80年代初め)だったんじゃないかと思うが、あの「はらたいら」が最後はどんなふうにブラウン管から去っていったか、その瞬間を見損ねたのが、今さらだけどちょっと悔やまれる。
「はら」氏はその後「男性更年期障害」を患うものの何とかそれを克服し、乗り越えるまでの日々を綴った手記を発表(私は未読)して話題を呼んでいた。今回の死因は肝不全だそうで、更年期障害との関連については報道を読む限り見えてこない。とはいえ、63歳という若さでの死には悲痛なものを感じてしまうし、澄み渡る秋の青い空に向かって香典代わりに叫ばずにはいられないところだ。
「
はらたいらさんに1000点!」もとい「
全部!」そして「
倍率ドン! さらに倍!」。
……で、最後にそんなニュースが入ってきたこの1週間、本ブログにもしばらく書き込んでいなかったため、何人かの方から御心配のメールをいただきました。ありがとうございます。んで御説明しますと、正直この1週間の岩本はブログに書き込みたいことはいっぱいあったものの、いざ書き出そうとするや、長い坂道の頂点を麓から自転車を押しつつ眺めるかのような物凄い疲労感を覚えてしまい、最後まで書ききることができなかったのです(実際この記事も結構しんどい思いをしながら書いている)。温泉に行ってさっぱりして帰ってきたと思ったら、もうこのザマだ。
「これって鬱病? それかもしかして『男性更年期障害』とかってヤツか?」
と思ったことから週の半ばの午後、思い切って近所にあるお医者さんを訪ねてみた。そういえば先日のフットサルによる怪我の時も結局ほっといたままになっちゃってたし、実に4〜5年ぶりくらいの医者通いだ。
「40歳を過ぎるといろんな症状が出てきますからねえ」と、私よりいくぶん年長そうな感じの院長さんが、やれやれという感じで言いながら、私の咽元に手を延ばしてきた。「いま見たところだとちょっと甲状腺のあたりが……」
「甲状腺がおかしくなるとどうなりますか?」と私。
「……疲れやすくなります」
「……まさにそれです、今」
「これからは定期検診をまめにお受けするようお薦めしますが、とりあえず検査してみましょうか?」
というわけで検査(といっても血液検査と尿検査の二つだけ)を受けて帰ってきた。結果は週明けにわかるとのことだが、さっき
Wikipediaで「甲状腺」に関わる症状を調べてみたところ「甲状腺癌」「クレチン症」「バセドウ氏病」「松本病」とかいったロクでもなさそうな名前が多数並んでいたものの、鬱病とか更年期障害とかいうのはまた別の話になるらしい。ただ、いずれにせよこういうのを見ていると気分がさらに暗くなるだけなので、検査の結果が出るまではなるべく気にせず大人しくしていようと思っているところだ。
(――などと書くとまたいろんなところに余計な心配をかけてしまいそうだが、そうは言いながらも相変らずジョギングはやってるし、打ち合わせで外出もしてるし、進まないながらも原稿仕事もやってるし、夜は飲みに行ったりもしておりますので、どうかご安心を)
それにしても、少し書かない間にも世の中では何やらイカレタ話題が続いたねえ。やれ「いじめ」だ「自殺予告」だ「履修漏れ」だ「やらせ質問」だ「命令放送」だ「談合」だ、と。私の周辺でも最近は同世代の人たちを中心に「鬱病になった」「糖尿病で大変だ」とかいう話をよく聞くようになっているけれど、ああいうニュースなんかを見てると、どうも今や世の中ぐるみで「更年期障害」になってるんじゃないかって気もしてくるな。

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