「the sad sad planetが歌う夜の新宿」
日記・雑記
名前からしてどこか不思議な二人である(下は1thアルバムのジャケット)。
バンド名は「
the sad sad planet」。ボーカル&作詞の女性が「そよぎ」、ギター(時おりサックスも吹いている)&作曲の男性が「工藤浩二郎」。
ひらがな三文字の女性&古風な漢字五文字の男性による“悲しい悲しいお星さま”(通称「サップラ」と言うらしい)のストリート系インディーズユニットというわけだ。他にもメンバーはいるようだが、今のところ私が目撃したのはこの2人だけ。週末の夜になると、新宿駅前の路上に出没しては、道行く人々を前に15〜20分程度(4曲ぐらい)の短いライブを行っている。たぶん、今日(17日)からの金土日も、新宿西口の京王・小田急前あたりへ夜8〜9時あたりに足を運べば、元気に演ってる2人の姿に出会えるはずだ(正式なスケジュールは
公式サイトのBBSで、そのつど直前に告知されている)。
新宿駅の西口から南口(甲州街道沿い)にかけての一帯は、日常的にこの近辺を通る機会の多い方々であれば御存知の通り、さながら草の根系ストリートパフォーマーのメッカである。何しろ日本で一番乗降客の多い駅前だ。普段はマスメディアに露出する機会がなかなか得られないアーティストたちが、道行く膨大な不特定多数の人々を眼前で、ここぞとばかりのパフォーマンスを繰り広げる。南口ルミネ2に陣取る「よしもと」の若手芸人から、ストリートミュージシャン、西口の小田急前で陸橋の柱を背に敢然と屹立しながら、雨の日も雪の日もガリ版刷の300円志集を売り続ける日疋冬子さん(確か去年ドキュメンタリー映画で紹介されていた)――。
もちろん人通りが多いとはいえ、その全てが良き観客として演奏に耳を傾けてくれるわけではない。演奏している目の前を片耳に携帯、片耳を指で塞ぎつつ通り過ぎる女性もいれば、酒が入って上機嫌のオッサンたちが「けっ、なーにやってんだガキどもがよ〜」といかにも斜に構えた態度で通り過ぎようとしたりもする。それこそ自分たちの歌や演奏や芸にきちんと向き合ってもらおうというのであれば、むしろこんな最悪な環境はないと思えるほどだ。
そんな中、この「サップラ」の2人はおそらく際立った存在なのではないかと思う。いや、私自身、いつ頃から彼らの存在が気になりだしたのかは定かでない。南口の甲州街道陸橋階段(ルミネ2の入口あたり)を、夕方から夜にかけての間によく通りかかるうち、「よく演ってるあの女性ボーカルの歌はなかなかいいなあ……」と思うようになったのが3〜4年ぐらい前だろうか(上記のサイトによれば、バンドの結成は2000年だというから、もしかすると相当前から目撃していたのかもしれない)。
実際、この2人の路上ライブには毎回、他のバンドにも増して大勢の通行人が足を止めて聴き入っている。あるいは熱心な追っかけがいるのかもしれないが、見たところ客層は毎回バラバラ。近くを通りかかるうちに思わず吸い寄せられてしまったという(つまり私と同じような)感じの人がほとんどだ。ちなみに、最近になってライブの場所が西口の前述のポイントへと変更されたが(南口界隈の甲州街道拡張工事との絡みだろうか?)、聴衆の多さは相変らずだ(参考までに、ほんのさわりだけだがライブの模様が
ここで映像紹介されている)。
いつも書いているように、私は音楽に関してはほとんど門外漢である。だから音楽的に見て、この「サップラ」の曲や演奏がどのくらいのレベルにあるものなのかというのは正直わからない。
とはいえボーカルの「そよぎ」の歌には、思わず足を止めてしまったぐらい、やっぱり引き込まれるものを感じる。聴いてもらえばわかるように、なかなか透明感のある綺麗な歌声を持つ女性なのだが、かといって、そうしたボーカルにありがちな変にツンツンお高くとまった印象などは受けない。むしろ透明感を持ちながらも、どこかしっとりとした潤いを感じさせるところが良い(自分たちで「湿度系」などと呼んでいるようだが、確かに言いえて妙ではある)。
なおかつ、この人の良さはその歌いっぷりだろう。さっきも書いた通りライブの場所である新宿駅頭はガヤガヤとうるさいところなのだが、小柄で華奢な彼女は、そんな悪条件を気にする素振りもない。それどころか、まさに今この場所で、通りかかった人たちを前に歌えることの喜びを全身で目一杯に噛み締めんとするがごとくに、盛んに拳を振ったり身を躍らせながらひたすら熱唱する。
何より歌がいい。手練のプレイヤーであるらしい工藤による曲と、「そよぎ」によるどこか不思議な響きを持つ歌詞(基本的に英語によるフレーズはなく、すべて平易な日本語)とが上手い具合に合っているのだろう。聴き終わってからの帰り道でも、頭の中には「♪どれくらい、どれくらい、大好きか〜」「♪もっと漕いで〜、高く高く〜」なんてリフがしばらく後まで響きわたっていたりする(笑)。
もっとも、ルックス的には2人とも(なかなか美女かつ美男ではあるが)振りも衣装も全然スマートとはいえず、時に不器用に感じられなくもない。が、さりとてルックス的には痛いどころか、逆に飾り気のなさに好感が持たれているようだ。毎回演奏を終えた後で「聞いてくださってありがとうございました」と折り目正しく深々と頭を下げる「そよぎ」には、立ち止まって聴き入っていた通行人たちから結構大きな拍手や、時には口笛も飛ぶ。その場でCDを買い求めにいく人も多いが、その全員に対して2人は屈託なくジャケットへのサインに応じている。
1ヶ月ほど前になるが、私も演奏後に初めてCDを買いつつ2人に声を掛けてみた(といっても演奏後は何かと慌しいらしいので一こと二ことだけだったが)。工藤浩二郎によれば演奏の場所はだいたいいつも同じポイントとのことだが、ストリートミュージシャンどうしの場所取りがなかなか熾烈で大変なようだ。
「ここ(新宿)以外の場所では演らないの? 渋谷とか原宿とか」と聞いた私に
「ここだけですっっ!!」と、整った顔立ちを途端に満面の笑みでクシャクシャにしながら「そよぎ」が答えた。いや、本当にここでの路上ライブが好きでたまらないって感じなんだなあ……と、何だか微笑ましく思った次第。
そんな「サップラ」だが、来月の16日夜には原宿のアストロホールでワンマンライブを行うそうだ。はたして屋根の下で歌うこの2人ってのもどんな感じだろうなあ、と大いに興味を引かれるところなのだが、あいにく私はその日は都合が悪くていけそうにない(泣)。なので、そんな私の代わりにというか、もし関心をお持ちの方がいるようでしたら観にいってやってください。もっとも、私としてはそれより前に、新宿の夜空の下で歌っている2人の姿を是非観に行ってほしいな……ということで、こちらのほうを是非お薦めします! ではでは〜♪

1