「りえぞう」さんこと鈴木理栄さんが役者としてパペレッタ(人形芝居や音楽が中心の演劇)に出演するというので、昨日(19日)の午後、会場となった下北沢駅前の
東京都民教会まで行ってきた。演目は御馴染みグリム童話の「赤ずきんと狼のお話」。作家の久田恵さんが主宰する「
花げし舎」による公演で、りえさんは以前から本職のライター業のかたわら、この劇団の活動に参加している。
下北沢といえば断るまでもなく自主制作の映画や演劇の本場。門外漢な私でもこれまで結構ちょくちょくやってきているわけだが、今回の会場・都民教会のある西口には今までほとんど足を踏み入れたことがなかった。まるで一昔前の大学の学生会館のように狭くて入り組んだ下北沢駅構内で迷子になりかけながらも何とか脱出し、西口から5分ほど歩いてあっけなくたどり着いた都民教会は、あの「シモキタ」の駅前にこんな瀟洒な教会があったのかという感じの小奇麗な建物だった。
信徒さんと思しき小さな女の子たちが入口から出てきて、来客に「こんにちわ!」と笑顔であいさつする。“劇場”となる礼拝堂の中にも既に親子連れの客が結構きていて、高い天井に幼い嬌声が響きわたっていた。どういうわけか最近は何やかんやで教会という場所に妙に御縁のある私なのだが、今だにこういう環境にはえらく場違いな自分をそのつど感じて肩身が狭いのなんの(汗)。
りえさんはもともとクリスチャン系大学の出身で(自ら「転びバテレンだ」などと自虐的に言ったりしているけれども)、若い頃から演劇やダンスに打ち込んできたとのことだが、私が公演を観に来たのはこれが初めて。今回は久々の舞台ということでライター仲間たちにも案内がかかっていて、他にも客席には盟友である青山敬子さんや
天藤湘子さんも顔を見せていた。それにしても、この二人は開演前の待ち時間にも客席でヤクザ記事満載の実話系雑誌を広げていたりするなど、場違い度数は私のはるかに上を行っていたかもしれない(笑)。ともあれ、気がついて声をかけようとするまもなく、いよいよ公演がスタート。
もちろん「赤ずきん」もグリム童話も子供の頃から何度となく接してはきたけれど、なにせ久々なので正確なストーリーは今やほとんど忘れてしまった。「お話おばさん」として進行役を務めるりえさんの語りを聞きながら「ふむふむ……あ、そうそう、そうだった」と、徐々に思い出してゆく。
それにしても、りえさんの演技は堂に入っていた。もともと滑らかなアルトの声できれいに語る人なので、こういうのをやったら上手いだろうなとは思っていたのだけど、正直なところ予想した以上で、さすがという感じであった。とても普段から
平野悠さんや
鈴木邦男さんたちと一緒に
ロフトプラスワンあたりでワハワハ騒いでいるのと同一人物には見えない(笑)。
人形劇のほうも赤ずきんや狼の操作がなかなか高度かつビビッドだったため、結構最後まで楽しめた。ちなみに狼の声を演じた男性は誰だろうなと思って後から上記のサイトを確認したら、何とカメラマンの福田文昭さん(ロッキード法廷での田中角栄を写した一枚などで有名)だった。というか福田さんはこの日は主催者側のスタッフとしてカメラ係を担当しており、私のすぐ横から演壇に向かってバシャバシャとさかんにシャッターを切っていた。このように、この日の公演は一見極めて健全でささやかな子供向けパペレッタでありながら、実は客席にも壇上にもかなり濃い目というか錚々たる人たちが揃っていたのであった。
そんなこともあってか、肝心のお芝居のストーリーについても、何だかやたらとシュールに感じてしまった。まあ、「赤ずきん」そのものが最近では「本当は怖いグリム童話」なんかを通じて認識されはじめているように、実は中世ヨーロッパ的な狂気に満ちたグロテスクな童話であったりするわけなのだが、にしても最後は狼の腹をかっさばいて赤ずきんたちを救出しただけならまだしも、かわりに腹いっぱい石を詰め込んで水の底に沈めたというのだから確かに怖い話である。
最後にりえさんからの「この話の教訓は何だと思いますか?」との問いかけに、指名された客席のお母さん(?)が「大人の言うことを(子供は)よく聞きましょうね、ということだと思います」と答えて拍手を浴びていたけど、私だったら「『世の中は不条理にできている』ということ以外にないでしょう」とか答えていただろう。もとより、だからりえさんもこっちを間違っても指名しなかったんだろうけれども。
終演後、ロビーでりえさんたちに挨拶と記念撮影(↓)。「も〜、ほんとに仕事はほったらかしてお金になんないことやっちゃって大変なのよ」とか苦笑しつつも結構楽しそうだった。青山さんは何やらカバンから真新しい本の束を取り出す。最近りえさんと一緒に手がけた書籍で、今日みんながここに集まるついでに、2人のサインを添えて配るためにわざわざ持参したというのだった。タイトルは『グアンタナモ収容所で何が起きているのか 暴かれるアメリカの「反テロ」戦争』(アムネスティ・インターナショナル日本 編、
合同出版刊)。さっそくペンをとってサインにかかるりえさんだったが、さっきまで「赤ずきん」の「お話おばさん」をやっとった人が衣装もそのままこういう本にサインする光景というのもまた凄い。
帰りは青山さんや天藤さんと一緒にシモキタの駅前の喫茶店に寄り、この2人以外からでは滅多に聞けそうもないようなディープ話などを聞く。天藤さんにはずいぶん久々にお会いしたけど、最近は著書やテレビへのインタビュー出演など本当に目覚しい活躍ぶりだ(上記サイト参照)。もっとも、この日に直接伺った刺青の世界の話などはメチャクチャ興味深いものの、メディアではたぶん今後もあまり取り上げられないだろうなという内容で、たとえばこういう話もアワプラなどの独立系メディアでやっていく価値はあるんじゃないかな……などと思った次第。そんなこんなで楽しい人形芝居を観終わった後に、本当に怖い本やら土産話を抱えて帰ってきた一日なのであった。

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