メンバー7010・FUMI
伝説の名山「蝙蝠岳(こうもりだけ)」
「蝙蝠岳」普通に読める人はかなりの漢字通だろう。
南アルプスにある蝙蝠岳は塩見岳から熊の平に向かう主稜線から外れた場所に位置し、不遇な山とされているがとんでもない。素晴らしい山である。
今回は昨年の南アルプスに引き続き、めっきり歩かなくなった妻を連れての山行にこの蝙蝠岳を選んだ。その記録をご紹介します。
三伏峠へは塩川からと鳥倉林道から登る方法の2つが選択できる。鳥倉林道の方がはるかに楽で近いということを事前にしっかり確認しなかった為、なんとなく塩川からの入山となる。塩川小屋の手前2キロ位の場所まで車で入れた。私は3泊4日分の食料とテント、シュラフ2つ、ハンモック、他生活道具一式を持ち、妻はほぼ空荷に近いザックで出発した。今はこんな状態だが、妻は学生時代に南アルプス全山縦走に成功している。今となっては信じられないが・・・。
ともかく休みながらじりじり高度を上げ、途中で弱い雨も降り出したが昼過ぎには山伏峠に到着した。
翌日、ここでも事前の情報収集のいい加減さが露呈し、蝙蝠岳を往復し塩見小屋でテント泊をしようと思っていたが、そこは幕営出来ないとのこと。仕方ないので、もしも疲れたら塩見小屋に泊まるつもりで荷物を軽くして蝙蝠岳から山伏峠を往復する予定に切り替えた。
天気は最高。さすが南アルプス、鬱蒼とした樹林と苔の生えた地皮が光りに照らされてなんとも美しい。そして人がいない。静かであることこのうえない!樹林のなかの道を進み塩川小屋に到着。この小屋の建設時の苦労話しは岳人で読んだが、感動せずにはいられない素晴らしい話しだ。
塩見岳への登りは急で崩れやすい岩場を登る箇所があるが、特に問題はない。塩見岳の山頂から蝙蝠岳が良く見える。結構遠い。ここまで山伏峠から登ってきた距離と同じ位あるのではないかと思った。
バテ気味の妻と、行こうか、どうしようか迷ったけど、行ってみることに。
「不遇な山」が呼んでいる
私たちは蝙蝠岳が周りの名だたる名峰に囲まれ、また遠くに富士山があり、また「不遇」などと書かれ何となく気の毒に思えてきた。しかし素晴らしい所もあるはずだ。それを探しすべく足を運んだ。
塩見岳から稜線を進み熊の平と登山道を分け北俣岳に進む。すると続く真っ直ぐな尾根の先にクフ王のピラミッドを思わせる美しい三角錐の蝙蝠岳が見える。
登山道は緩やかに下りながら、岩屑がロードローラーで固められたかと思うような道を行く。この感じ、他では見たことがない。強いて言えば北アルプスの蝶ヶ岳が似ているだろうか。展望は最高である。
紅葉し赤絨毯のようになった地衣植物を両脇にした登山道は一旦窪地に降りた。そこは2重稜線の間の様で枯れたコバイケイソウも見られた。6月頃はきれいな花を咲かせていたに違いない。ここからの登りは紅葉したダケカンバの葉が金色に輝き、さながら「黄金の回廊」の様だ。
登山道は再び見晴らしの良い稜線上に出る。目指すピークはあと少しだ。緩やかに登り続けること数十分で待望の山頂だ。
山頂にはしっかりした道標が立っているのだが、驚くべき事にそこには塩見岳までと二間小屋までの時間と裏には「静岡県」と書かれているが肝心の「蝙蝠岳」とは、誰かがマジック書いた蝙蝠岳2864.7mとあるだけである。
蝙蝠岳は100名山でこそ無いが、その美しい姿はプライドを失う事無く誇らしげに周囲の名山と張り合っている。南アルプスの中のそのまた中にあるこの山があるからこそ南アルプスが成り立っているといっても過言では無いだろう。
私たちは満足感とともに山頂を後にした。
辛い帰路では塩見小屋での宿泊の甘い誘惑に耐え、ヘッドライトの明かりを頼りに三伏峠に着いたのである。
翌日は三伏山に登り眺めを楽しんだ後下山した。
名山、「蝙蝠岳」は、あなたが来るのを待っています。