当初の計画は「笠ヶ岳」でしたが、悪天が予想されたので、危険な場合でも撤退のしやすい「中崎尾根」から槍ヶ岳の山頂を目指しました。
結果は「敗退」でした。その全ての原因ではありませんが、大きな出来事は「雪崩」にあった事でした。雪崩の事については後半に触れます。
メンバー
taroさん、iwaさん、kuwaさん、toku(記)
初日(28日)
8:15 新穂高温泉駐車場出発
9:20 穂高平小屋
10:35 白出沢出合
12:50 滝谷避難小屋
15:00 槍平冬季小屋
雪は穂高平小屋まではスネ〜ヒザくらいだが、トレースはしっかりありました。
白出沢出合付近でヒザ上くらい。ここまでに数パーティを抜かしていたこともあり、トレースは徐々にうすくなります。
しばらく進むと男性2人組がいてラッセルをしています。うすいトレースは残っていますが、ここからラッセル開始でした。
私たちはここでワカンを装着し、先行パーティに追いつきお礼を言ってラッセルを交代しました。
滝谷〜槍平までが一番苦しくて、深い所で腰くらいまで埋まりスピードが上がらない。
しばらく4人で交代しながらフルラッセル!1人10分くらいと決めて素晴らしいチームワークでいいスピード。
途中で追いついてきた若い男性も1人加わりますが、「この人達強い・・・」と小声でボソリ。こういう時ってなんか嬉しいですね。

滝谷から約2時間で槍平へ。仲間と力を合せて頑張るラッセルって、楽しいですね。
ここで最初の分岐点。
@少しでも高度を上げて幕営する。
Aすでに15時なので冬季小屋泊にして翌日早めに出発する。
15分くらい話し合ってAの冬季小屋泊に。理由は翌日はテント泊より出発がスピーディーなことと、少しでも良い環境で疲れを癒したかったからです。
そしてtaroさんの「特製キムチ鍋」をいただきながら、翌日の作戦会議に。
@荷物を全て担いで中崎尾根上の2400m付近まで行き、幕営して最終日に最小限の荷物で山頂ピストン。
A槍平から時間を決めて最小限の荷物で山頂ピストン。
これはみんなでかなり悩みましたが、Aでまとまりました。
理由はAの方が確実に30日に下山できるからです。@だとかなり多量の降雪があったら、一日で下山できない可能性もあるため。そして最大の要因は私たちには「予備日」がなかったからです。
二日目(29日)
5:50 槍平出発
7:10 中崎尾根上に出る
10:00頃 2600m付近
10:45頃 雪崩発生 2700m付近
11:30頃 撤退を決定
15:00頃 槍平小屋
起きたら月や星も見えて天気は期待できそう。実際、雪崩れる直前までは視界も良く快適な感じでした。

暗いうちからスタート。尾根に向かって左側から取り付きます。

朝焼けの「槍の穂先」が本当にキレイで、みんな感動して叫んでいました。
中崎尾根に出てからはしばらく尾根上をアップダウンしながら進みます。風はあるものの、場所を選べば幕営適地はいくつもあります。
途中テントが2張りあって、大学生くらいの男性が出てきました。今日は雪崩が怖いので停滞して翌日に山頂に行くと言っていました。

樹林のある場所は特に危険箇所はありません。

しかし、天気は悪化していきます。
そして、問題になった2600m付近の分岐点。
それまで先頭でラッセルしていた私ですが、目の前にやや悪そうな尾根と右側のそれほど急ではないルンゼ地形に判断がつかない。
ここでtaroさんに交代してもらう。taroさんは今までの経験と記憶からルンゼを選択する。
taroさんが行った後にiwaさんが「俺なら悪そうだけど雪崩が怖いから尾根を直上するかな」と。
この頃から天気が急変して視界も悪くなります。雪崩を意識して間隔をとりながら進みます。斜面を一つ越えたら左に岩場、右に草付の小さい尾根地形。taroさんは真ん中の浅いルンゼを進みます。
そしてルンゼを抜ける1m〜2m下で突然雪面に亀裂が入る。
taroさんとkuwaさんは比較的近くにいて、私は10m位下。iwaさんは私よりさらに10m位下にいました。
「ヤバイ」と思った瞬間、雪面が一気に流れて一瞬の無重力を感じたらすごい速さで落ちていきます。私は破断面が40センチくらいと目視できたのと幅が狭そうと感じて、左に1.5mくらい流されながらも移動してピッケルを力いっぱい突き刺しました。
たぶん、5mくらい流されて止まりました。
近くにいたiwaさんに「2人は近くにいますか?」と聞いても状況を理解していない。iwaさんは雪崩に気付いていなかったのです。私が大きな声で「雪崩たッ!」と言い周囲を確認してもらったらtaroさんとkawaさんがはるか下に見えます。
私の目視では200mくらい流されていました。(iwaさんは300mと言っていました)
運良く崖も岩も大きな木などもなく、傾斜が緩くなった場所で2人は止まりました。
もし岩でもあったら致命傷を負ったかもしれません。
無傷で本当に良かったです。

見にくいですが、2人のやや上に「デブリ」が見えます。
その後は進むか撤退かを考えましたが、時間的にも天気的にも精神的にもこれ以上は厳しいとの結論で「撤退」を決めました。
この日は槍平小屋までもどり、翌日新穂高温泉まで下山しました。
3日目(30日)はトレースもバッチリで体調も良く、槍平〜新穂高温泉まで2時間50分でした。
*今回はスタートから力を合せてみんなでラッセルしたし、迷った時はみんなで話し合って結論を出してきたし、チームとしてうまく進んでいたように思っていました。
ただ悔やまれるのは、2600m地点で私からtaroさんに先頭を代わった時にチームとしての話し合いがなかったことです。行けると思ったtaroさんと厳しいと感じたiwaさん。そして判断のつかない私とkuwaさん。
今回はみんな無事に下山できましたが、この事例を会のみなさんからの意見をいただき、もう一度4人で再考しなければならないです。
この経験をこれからに活かします!
追記:iwa
東海山岳会に入って3回目の年末山行で初めて他の人に会いました。
1年目はマニアックな頚城山系の「焼山」。
2年目はこれまたマニアックな南アルプス「蝙蝠岳」。
そして今年は人気の北アルプス槍ヶ岳。
さすが人気ルートとあって30日の下山日には20人くらいとすれ違いました。
自分たちの作ったトレースを登ってくれるのは嬉しいですね。
でもこのトレースを登るのは僕は嫌ですね(^^;
2日目はところどころにうっすらとトレースはあったものの4人でひたすらラッセル。
もう死ぬ気でラッセルしました。
苦しいけど楽しい。
Mですね。
雪崩は深さ30〜40cm。幅は10mほど。
すべり面は氷板の上にあった弱層でしょう。
付近の状況を考えると氷化した雪面に風の影響で吹き溜った層が雪崩たと思います。
小規模でしたが斜度があり一瞬でした。
当時風も強く声は全く聞こえませんでした。
振り返るとkuwaさんのオレンジのジャケットが見えて動いてたので一安心。
その上にtaroさんのエンジ色のジャケットが見えるも動かない。
最悪の状況も考えましたが大声で無事を確認。
自分たちも安定したところまで戻り合流。
怪我もなく無事でよかった・・・。
雪上訓練でビーコントレーニングとかやってますが実際に雪崩に巻き込まれると流石にパニックになります。
繰り返しのトレーニングとパーティでの共有が大切と感じました。
今回の反省点はtaroさんにルートファインディングを一任してしまったこと。
気づいていることがあるのに話し合わなかったことなど・・・
パーティの技量不足よりもコミュニケーション不足が大きな原因かと。
でも本当に無事でよかったです。
個人的には今回デビューさせた秘密兵器の黄色いやつが大活躍しました。
みんなの知ってる黄色いやつとは違います。
デザインやカッコ悪さを気にしなければオススメです。
詳しくはiwaまで。
追記:kuwa
雪崩発生時、トップのtaroさんの2〜3mくらい下を登っていた。雪崩は何の前触れもなくいきなりやってきたという感じ。いきなり体が吹っ飛ばされて、「あ、雪崩だ」と思った時にはもうなにもできなかった。態勢を立て直そうともがくが、どうにもならない。流されている途中でピッケルが手からはじかれてしまい、もうダメだと思った。入山前の父からのメール「無理しないで必ず帰ってくること」の文面が頭に浮かんだ。自分がどんな態勢で流されているかよくわからなかった。雪に埋まってしまうと思った。口に雪が入らないように手でスペースを作ることもできなかった。流されるのが止まって、自分が雪の上に出ているのがわかった。とっさにピッケルの流れ止めをたぐってピッケルを手繰り寄せる。自分の体が動くことを確認してホッとした。
他のメンバーを探す。すぐ上にtaroさんがいた。雪に埋まってはおらず、雪面に仰向けに倒れていた。「taroさん!、taroさん!」と叫ぶが反応なし。taroさんに近づいてもう一度「taroさん!」と呼びかけると「大丈夫」との返答。足があらぬ方向を向いている気がして足が折れてしまっているのかと思ったが、taroさんはクルマの中やテントの中でも足をクニャクニャした感じで折りたたんでいるので、いつも通りの状態でケガは無し。ただ「精神的にショックだ、またヤッてしまった(雪崩を起こしてしまった)・・・」と言っていた。
iwa、tokuさんを上部に発見。彼らは雪崩には巻き込まれなかったようだ(後から聞くとtokuさんは5mくらい流されたそうだ)。彼らに手を振って大丈夫のサインを送る。二人に合流後、tokuさんから「kuwaさん、大丈夫ですか。精神的にパニクってませんか?」と声をかけてもらった。そのときは「カラダも精神的にも大丈夫」と答えたが、あとになって考えてみると、ビビッていたと思う。撤退を決めてクライムダウンで下降する際はかなり慎重になって動きがぎこちなかった。
iwaもtokuさんも書いているが肝心なところでコミュニケーションがとれなかったのが悔やまれる。千丈沢乗越に入る前、みんなが「明らかにここから先はいままで歩いたきた場所とは違う」と思っていたはずなのに・・・。

千丈沢乗越。岩尾根を右に回り込んだ斜面で雪崩発生
追記 Taro
今回、私の判断ミスで雪崩を誘発してしまったことは大変申し訳なく、個人的には痛恨の極みです。雪質が安定していないこともあり、なるべく中崎尾根沿いに忠実に登っていたこと、雪壁が小規模で、ほぼ最上部地点にいたこと、傾斜がやや急になったものの残り10メートルほどで稜線上に出られるため、先行者として確実にステップを作ることに傾注していたため、雪崩への警戒心がこの時点で希薄になっていました。傾斜があれば、見た目にかかわらず雪崩は起こり得るという訓示を改めて思い知らされる出来事でしたが、特に天候や気温が顕著に影響することは再考すべきだと感じました。