メンバー
iwa、toku(記)
『年末の早月尾根は、あなた達が最初のパーティです』と富山県警から告げられ時、一瞬ドキッとしてしまった。
トレースを期待していたわけではないが、全くゼロだったとは言い切れない。
しかし、この言葉で2人の気持ちは一気に燃え出したのは間違いない。
そして、話を聞くと次のパーティは27日に入山予定のようだ。
『これで思う存分、冬の剣岳と向き合うことができる』と、2人で登頂を誓った。
12月25日
冬季ゲートに4:00に到着して歩き出す。雪は全くない。
荷物は2人とも20kgに抑えたからか、あまり重さは感じない。もしくは、いつもの縦走とは違いピストンゆえに気分的に楽なのがそう感じさせるのだろうか。
馬場島に到着し、富山県警の方にあいさつをし、ヤマタンを受け取る。

5:45に登山口をスタートする。雪は薄っすらある程度だ。

松尾平くらいから多少のラッセルになる。
1400mくらいまでは踏み抜きが多く、また根雪が少ないせいで根っこに引っ掛かり歩きにくい。

1700m付近の様子。この辺りはスネくらいのラッセルで、多いところでヒザ程度。
毎年のように暖冬と言われるが、今年は特に少ない気がする。
予定では初日はこの辺りまでなのだが、もちろん進む事にする。

猫又山方面。手前の樹林の尾根は赤谷尾根。
ラッセルは少ないが、歩くスピードは速く、結局のところかなり疲れてハードな事には変わりない。

ギザギザがカッコいい小窓尾根。次の目標の一つとして考えています。

13:20に早月尾根に到着。県警の方もまだ入山されておらず、誰もいない。
さて、ここで作戦会議。
26日の午後からは低気圧の影響で崩れそうだ。27日は強い冬型で行動は厳しそうだ。
心の中では停滞して本領発揮した剣岳を感じたいと言う思いもあったが、登頂の可能性の高い明日にアタックする事に決めた。

早月小屋から、この日の目標の2450m付近を見上げる。
ここは、11月下旬に入山した名古屋山岳会パーティから幕営適地であると教えて頂いていた。
その上の2690mも良さそうと言っていたが、ちょっと時間が足りない。

北方稜線の山々。このずっと奥に僧ヶ岳があって、今年は北方稜線の末端の宇奈月からすでに入山しているパーティがいるようだ。下部はヤブに苦しめられたと思うが、ビッグな縦走なだけに成功を願うばかりだ。

奥大日岳と室堂方面。ホテル立山の屋根が見えるくらいの素晴らしい天気。
この日は春山のような雰囲気だった。

15:30に2450mに到着する。ここまでで11時間半行動。
早月尾根で30分ほど休んだ以外はまともな休憩はなく、さすがに疲れました。
そして、ここでiwaさんがやろうとしているのは雪洞作りです。

と思っていたら、すぐにハイマツが出てきてしまう。剣岳のこの標高でもまともな雪洞が作れないとは…。
しかし、強引に掘って何とかスペースを確保した。
それでもテントよりは快適で、ここで本気を出した剣岳を見たいとさえ思ってしまった。もちろん、心の中で。
12月26日
さて、山頂アタックと危険地帯からの脱出の日である。
正午までには雪洞に戻る予定にして、6:00にスタートする。

4:00に起きた時は富山の夜景がキレイに見えていたものの、日の出ごろは何とか稜線が見える程度に。
できるだけ早く登頂しないと悪天候に捕まりそうだ。

2614mピークを越えたところでハーネスとギア類を装着する。このあたりからが悪そうだ。
ちなみに、iwaさんの今年のハードシェルは目立つ赤色だ。私に地道なカラーリングを指摘されていたのを気にしていたようだ。
一番悪かったのは獅子頭だろうか。ここは東大谷側を下り気味にトラバースした。トラバースしきって振り返ると鎖を見つけたのだが、ここは見た目には非常に悪く、知っていないと行く気にはならないだろう。

思っていたより悪天候になるのが早い。しかし、焦ってはいけない。
雪は安定していたので、獅子頭より上は岩より雪壁を選択する。
最後にカリカリのルンゼを登りきって別山尾根と合流。山頂は目の前だ。

お疲れさまです。8:45に剣岳に登頂。
雪は少なく、悪天候に捕まることもなかった。しかし、自分たちの力だけで登頂できたことは素直に嬉しい。
山頂で少し休んで、すぐに下山する。

山頂付近はとても視界が悪かった。早月尾根は視界がない時は下降が難しい。
まだまだ気が抜けない。

獅子頭は下りでは鎖を使う。しかし、鎖が埋まっていたら池ノ谷側のトラバースは厳しいだろう。
あとは地図とコンパスで確認しながら慎重に下降を続けていく。
やはり何度か迷いそうな枝尾根があったので、こんな時はこまめに地図を見ないといけない。

とりあえず早月小屋までは気が抜けず、ドキドキしながら歩いているわけだが、雷鳥さんのいたずらか、突然飛び出してくるので思わず声を出してしまった。

2450mの雪洞に置いておいた荷物を回収して、12:10に早月小屋に到着する。
昨日とは別世界だ。
あと一日遅かったらどうなっていただろうか。悪い剣岳を見たい気持ちを抑えながら小屋をあとにする。
この日はできるだけ標高を下げたいが、あまり下げると雨になりそうだ。
この日のうちに下山できなくもないが、そこまで急ぐ理由もない。
と言うか、無理して下山したら下山後の楽しみが減ってしまう。
途中で県警の方4名とすれ違う。年末の早月尾根で初めて会うのが県警とは…。
今年は入山パーティが少ないらしい。全国的にみても山岳会が衰退してきるのは明らかである。
トレースバンバンの早月尾根は好みではないが、誰にも会わないのはそれはそれで寂しい気持ちになる。
標高を下げていくと次第に雨になったので、この日は1551mでビバークする。
この標高でも雨なのか。
濡れた衣類にシケシケのシュラフ。iwaさんはあまり眠れなかったようだ。
12月27日
夜中からは雪に変わってくれたようだ。しかし、下は雨っぽいので気温が下がるまで少し待つことにする。
だが、早く出発しないと下山後の楽しみが減ってしまうので7:10に出発する。
食料は誰かにあげたいくらい余っていて、荷物の重さは初日とあまり変わっていない。むしろ、水分をガンガン含んでいるおかげで重くなっているようにも感じる。

雪質も非常に重く、また標高を下げると雨になってしまい気分も重い。
苦行でしかない。

けっこうな雨の中、馬場島には9:10に到着する。
こんな雨だからか、本日入山のパーティは来ていないらしい。

ひたすら降り続ける雨の中、10:20に冬季ゲートに到着。
やはり他の車はいない。冬季登山やアルパインクライミングはこれからどうなっていくのだろうか。
そんな事を真面目に語り合いつつ、下山後は温泉→お昼ご飯→クライミングジム→お寿司と、時間てきにはハードなスケジュールをこなして愛知県に着いたのは深夜に。もう、いろいろお腹いっぱいです。
次は小窓尾根でしょうか。iwaさん、必ず行きましょう!