※以下は6月の夏山セミナーの資料として、会員向けにまとめたものです。
岩登りの基本まとめ 計画と準備 事故防止 アプローチ
無雪期の山岳登攀(以下本番)は、アルパインクライミングの初級編と言えます。ここをステップに、ビックウォール、沢登り、高難度クラック、冬季登攀、未開の山域での開拓など、個々の自由な発想による創造的な活動に広げられます。夏の本番で基礎を固めることが、総合力のあるクライマーとしての成長の第一歩と考えましょう。
初級編と言っても、山岳を舞台とする以上危険は付きもの。そもそもクライミング自体本質的に危険であり、それをよく認識したうえで細心の注意を払いトレーニングや準備に取り組まなければなりません。本番をいかにして安全に登るか、登山やクライミングを取り巻く環境が大きく変化してきている中、今まで以上に、事故を防ぐための意識を高めていかなければなりません。
■計画と準備
(1)段階を踏んだ相応しい計画
多くの遭難事例からメンバーの経験から推定して相応しくない計画、無理のある計画であったと思われる場合は多い。遭難はこうしてその登山が企画・準備される段階からはじまっている。山では不測の事態は容易に起こりうるため、どの程度の力量なら本番のルートを安全に登れるかの判断はとても難しい。早い段階で山行管理部や留守宅とのコンセンサスをとりましょう。
(2)充分なトレーニング
・肉体的にも精神的にも理論的にも充分なトレーニングが必要。どれか一つが欠けても事故につながる。体力的余裕がなければ冷静な判断もクライミングテクニックも活かすことはできない。
・パートナーとゲレンデに行き一緒に登りともにトレーニングする必要がある。事前に互いの技術や実力を確認する意味は大きい。
・新人は何度もゲレンデに通い自分に自信が持るまで練習を積み重ねよう。
・ザックを背負って登るなど本番を想定した練習。本番と同じ装備を使い慣れる。
・一連の動作を体で覚え込み、スピーディーな行動がとれるようにする。イメージトレーニングも大切。(確保点に着いたらまず…。下降支点では…)
・本番は危険がいっぱい。音・気配・風など感覚を研ぎ澄ます習慣も必要。
・高いフリークライム能力が余裕を生みスピードを向上させる。(ボルダー・スラブ・人工の技術)
・プロテクションの技術を学び、岩登りを理解するには、まずはクラックのルートをたくさん登り込むこと。クラックの技術を修得することが、アルパインクライマーへの第一歩。クライミングのメンタルな面で重要な創造性・発想力はクラックを登ることによって培われる。
(3)ルート研究と打合せ
・エリア研究、ルート研究(ルート図のほか過去の記録を読む。下降ルート、危険要素なども)
・山域全体の地形図を出力(カシミール3D)し、アプローチの距離・取り付きの標高、尾根・沢、迷いやすいポイントなどを予習する。
・山行の目的、進退の判断、装備などメンバー間で良く打ち合わせを行い、メンバー間でのお互いの考え方や性格についてよく理解しておく。
■登攀以外の行程
(1)アプローチ
・転滑落の危険性。確保されていないので登はん中より危険な場合が多い。気を抜かないこと。
・特に取り付き周辺(岩場)での道迷いは非常に危険。メンバーが離れ離れになることがないように後続のメンバーを意識する。先行のメンバーには見えなくなる前に「待って!」と伝える。
・落石に注意する。すでに発生した落石だけでなく、常に「予想」する。(この場所は落石の通り道でないか? すぐ下にいるパートナーは通り道を通過中でないか? 今きたら、どこに逃げられるか?いま落としたら後続やパートナーに当たらないか?)。
・物音や、コールに神経を研ぎ澄ましておく。
・危険なところに長居をしない。スピーディーな行動=安全
・安定して出来る場所で、早めに用を足しておく。
・取り付きは、安定した場所でないことも。ハーネス装着の適切なタイミング・場所を逃さない。
・必ず一番に取り付きに到着する。先行パーティーにより落石の危険が増し、時間的制約が発生。
(2)取り付き
・緊張感を持って、素早く確実にクライミングの準備をする。登攀中必要になる物は出しやすいところに入れておく。必要なギアの数や装備を確認する。必要なギアはトップに確実に渡す。荷物を落とさない(ザック・靴、全てフィックス)。
・2本のロープを絡まないように置き、それれぞれ末端を結ぶ。
・コールが通らない場合の打ち合わせ。ロープの結び目、ハーネスの折り返しを互いに確認。
(3)休憩
・登攀中はあまり積極的にまとめて休憩をとらない。すきを見つけてこまめに栄養補給・ 水分補給。はまってからでは、なかなか補給出来なくなる。エネルギーが切れてくるとスピードが落ちる。各自の問題としてではなく、パーティの問題として早め早めにに摂取すること。
(4)登攀終了後
・事故は、何でもないところで起きやすい。気を抜かないこと。パーティーに気を抜くような雰囲気を作らないこと。また、コンティニュアスはよっぽど簡単なところ以外、するべきでない。どこでロープを解くかの判断は重要。パーティーの力量を良く見極める。初めて行くところで、「簡単そうだから」と早々とロープを解かないこと。
■登攀中(岩登りの基本#02 確保技術の補足)
・落石の心配のない位置に確保支点を作る。場合によって逃げられるようセルフビレーは長めに取る。
・墜落により引かれる方向を良く考え、自分の安全を確保する。
・出来る限り多くの確実な支点からうまく分散して確保支点を作る。残置支点の確認は怠らない。場合によっては自分で安全なものに作り変える。
・ロープの残りの長さを随時トップに伝える。半分のマーク必須。
・安定したテラスでも、確実に確保されるまで絶対にセルフは外さない。
・ディージーチェーン(アンカーチェーン)でのセルフは暫定的なものと考えメインロープでのセルフを原則とする。
・ゲレンデとは違い、岩はかなり“もろい”。見て観察したたいて確認する。剥がれる方向に強く引くような使い方はせず、ソフトに押さえ付けながら登る。
・落石をおこさない細心の注意を。その落石がパートナーや後続パーティーの命を奪うかもしれない。落石がおこったら下の人に大声で伝える。
・最初の支点は早めに取る。
・屈曲するラインの場合ロープの流れに十分注意する。
・ピトンは手でゆすり、ハンマーでたたいて効いているか確認する。日本の本番ルートの残置支点はフォールにはたえられない場合が多いので、ナッツやカムが使えるクラックがあれば積極的に利用する。
■人工登攀とセルフレスキュー
人工登はんで錆びたリングボルトや浅打ちハーケンが続く場合には、タイオフを活用し、支点にやさしいクライミングを心がけ、決して墜落してはいけない。「たぶん大丈夫だろう」ではなく、考えるクライミングをしよう。墜落して宙吊りになった状態や、懸垂下降中の非常事態に備えプルージック登りの練習。確保体勢からの自己脱出も確認を。
