メンバー
toku(記)、キスケ
日程
4/16 大谷原〜鹿島槍ヶ岳東尾根〜二ノ沢の頭
4/17 〜鹿島槍ヶ岳〜牛首尾根〜牛首尾根末端付近
4/18 〜S字峡吊橋〜ガンドウ尾根〜1833mJP
4/19 停滞
4/20 〜仙人池ヒュッテ〜池ノ平山南峰〜小窓〜三ノ窓
4/21 〜剣岳〜早月尾根〜馬場島

南仙人山から早朝の剣岳
フリークライミング、クラック、沢、雪山などいろいろやっておりますが、個人的には雪山が一番好きだ。
そして、その雪山の最終目標は?と聞かれたら、厳冬期黒部横断である。しかし、年齢や実力てきな問題などから実現できるかはわからないが、それでも目標に向けて一歩づつで良いから進んでいきたいと思う。
まず、その一歩として春の黒部横断に行ってきました。
1日目 4月16日 晴れ
この計画で最初に頭を悩ませるのは、車の回収問題である。いろいろ考えたけど、やっぱり車二台でいくのが一番都合がいいのかな。深夜、車二台で下山口の馬場島に集合。しかし、冬季ゲートはまだ閉まっていた。
そして、車一台で5:00に大谷原に移動。
初日のみ余裕がある行程なので、のんびりと歩く。東尾根に乗ると大きな木が多くて、この雰囲気はとても好きである。
トレースはあったり消えていたり。ラッセルは深くてヒザ下あたりでした。

お昼にはニノ沢に到着。時間はあるけど、この先の不安定な場所でビバークよりも、ここで過ごした方が快適で良い。
翌日は早いので、明るいけど18:00に就寝。
2日目 4月17日 晴れ
2:00に起きて4:00スタート。雪の状態は良く、ちょっと悪いトラバース部分も安心して歩ける。キスケ君には『トラバースは悪いからね!慎重にね。』なんて言っておいたけど、終わってから『あっ、今のが悪いトラバースだったんですか?』と言うくらいの余裕があった。

そんなわけで、第一岩峰はキスケ君にリードしてもらう。
ダブルアックスで安定した登り。問題ないですね。
ルートは中央のルンゼ。

フォローする私。雪の状態が良ければ難しさはあまりないと思う。朝一で雪はよくしまっていたので、スノーバーも良く効いていた。

続いて第二岩峰。ここは私がリード。ここは岩の要素が大きく、クライミング力が試される。キスケ君はテンションはしなかったけど、かなりギリギリだったようだ。それでも、『次はリード問題ないですね。今からすぐでもいけますよ!』と、強気のコメント。よいルートなので、今度は後輩と行ってみて下さい。
残置ハーケンは思っていたより少ないので、カムがあると安心ですね。
今回はキャメロット♯0.5と1を使用。特に核心手前に♯1がバッチリきまるので安心感がある。

第二岩峰は、ガバはあまり多くない。グローブでの登りに慣れておく必要があるだろう。

わりといいペースで鹿島槍ヶ岳南峰には9:50に到着する。
ここで剣岳が見えてモチベーションが上がる。
そして、牛首尾根を見ると、驚いたことにトレースがある。しかも、かなり新しい。
密かに、春の黒部横断一番隊を狙っていたので、ちょっと複雑な気持ちだ。
と思っていたら、下から2人組みが登ってくるのが見える。ん?最初は状況が理解できなかったけど、話を聞くと予備日がなくて敗退してきたらしい。彼らより先にはトレースはないとの事。懸垂ポイントのアドバイスなどの情報をいただく。
それにしても、牛首尾根は本当に長い。そして、頑張って上げた標高を2000mくらい下げるとこが精神的にもツライ。
黙々と歩いていると、1300mくらいで行き詰まる。ここは西側に一回懸垂をすると再び尾根に復帰できる。

このあたりには、このような建物や何かのコンクリートの残骸がたくさんある。しかし、すごい所に作ったもんだ。
1200mあたりからは踏み抜き地獄がハンパないです。また深さ3mくらいの穴がそこらじゅうに空いていて、踏み抜いたら怪我をするレベル。尾根の傾斜も地形図とは違って急で複雑。牛首尾根の下部はとても悪い。
予め、Bさんより『S字峡と東谷の出合いを目指すと良い』とアドバイスをいただいていたのですが、下降ポイントがよくわからずに尾根芯を忠実に進む。最後の最後までひたすら悪い尾根だ。
疲れきっていたので、最後は2回の懸垂で東谷の直前まで降り立つ。ここで、すでに18:20。

この日、なんとか渡渉まで終わらせておきたかったけど、それは不可能だと知り愕然とする。
地形図では尾根の末端は比較的緩やかに東谷に落ちていて、対岸は広い河原になっているはず。
しかし、そんな地形図からイメージするものとは全く別世界が広がっていた。垂直の壁や急なルンゼなどに囲まれた、いわゆるゴルジュ帯だ。吊橋まで高巻くこともへつることもできない。渡渉をするにしても、その水量と渡渉回数を考えると、とても現実的ではない。明日の朝一での登り返しが決定する。
3日目 4月18日 晴れ
とても疲れていたので、しっかり寝て7:00スタート。Bさんが言っていたポイントはここだろうと1050mまで登り返す。
ここから薄く尾根が出ているので、まず50m懸垂する。少しトラバースして、また懸垂。

東谷はスノーブリッジがつながっていたので、無事に渡る事ができました。やれやれである。

吊橋で荷物を乾かしながら、黒部川を眺めしばらく先の事を考える。
ここまでで半日の遅れ。明日は天気が悪く停滞だろう。翌日も強風の予報だ。
吊橋を渡っても大丈夫かな?これより進んだ場合、何かあれば進むも敗退も厳しい場所になる。
黒部川は、この先の『試練』を受け入れる『覚悟』があるのか?を、私たちに問いかけているように思えた。
2人でよく話し合い、強い気持ちを持って進む事にする。
そんな時、ちょうど私たちが考えていたラインのすぐ横で、比較的大きな雪崩が起きた。ますます緊張感が高まっていく。
さて、ガンドウ尾根はまず取付きが悪い。ここは正面やや右のルンゼにラインを取る。
その後も雪はしっかりあり、予想していたヤブに苦しめられることは特になかった。
が、1450mあたりから様子が変わり、なかなか悪い。

ナイフリッジ、急な雪壁、そしてグサグサの悪い雪。ひたすら気が抜けず緊張を強いられる。
50mごとにトップを交代しながら進んだのだが、毎度毎度50m進むのにとても時間がかかった。
もし敗退なら懸垂の連発ですね。

最後にこの雪壁を登り、1833mJPでこの日の行動を終える。地図を見ると全然進んでいなくて不安になる。

悪天候に備え、半雪洞を作ってみる。しかし、思ったより重労働なのと疲れもあって、結局テントの半分くらいの屋根しか作れませんでした。
4日目 4月19日 雨〜曇り、ときどき晴れ
こんな日に無理をして進んでも良い事はないだろと思い、停滞とする。
午前中は寝て体力の回復を、午後は晴れた時間に荷物を乾かす。
もし明日も停滞だったらと思うと不安で仕方がない。ちなみに、携帯の電波はわずかに入るものの、メールやラインを受信できる程度でネットはつながらなかった。
5日目 4月20日 晴れ
2:00に起きて、恐る恐る外を見てみると、天候が回復している!無風だし、月明かりだけでも行動できるくらいだ。
よし。これならいける!

雪の状態も良く、どんどん進む。雪が腐るまではハイペースで進むことにした。

南仙人山付近で明るくなる。立山連峰と後立山連峰に囲まれ、最高の気分だ。
谷の方を見ると、仙人温泉の源泉付近で湯気が見える。湯舟を作って入浴はできるのだろうか?非常に気になったが、今回はパス。いつか雪の時期に行って確かめてみたい。

天気や景色って大切ですね。モチベーションが一気にあがる。

池ノ平山まではキツイ500mの登りだ。ここも50m交代で淡々と進む。ところで、この斜面は岩も木も一切なく、真っ白で本当に美しい。こんなにキレイな尾根はなかなかないのでは。
池ノ平小屋と、その手前の仙人池ヒュッテは屋根の一部が出ている程度でした。ガンドウ尾根や牛首尾根もほとんど雪の上を歩いていたし、暖冬だったわりには雪が多い気がする。

手前に三ノ窓尾根と、その奥に八ツ峰。
池ノ平山南峰には8:00に到着。いいペースだ。
ここから小窓までは25m、50m、50mの懸垂3回で降り立つ。

小窓への懸垂。クライムダウン可能なくらいの微妙な傾斜だが、懸垂支点があるので懸垂した方が早いと思う。
実際は、写真よりだいぶ傾斜を感じると思います。
このあたりから雪が腐って歩きにくくなる。前半に飛ばしていたので、体力的にもキツイが三ノ窓を目指して進む。
しかし、北方稜線はとても気持ちが良い。危険な匂いもプンプンするが、それらが作りだす絶景を見ながら歩くのは、なんとも贅沢な時間と思う。

歩く。この日はひたすら歩く。地形図で見ても、この日は本当によく歩いたと思う。

小窓の頭を越えて、もうすぐ小窓の王だ。このあたりも傾斜は強く、北方稜線は常に緊張の連続である。

小窓の王から三ノ窓へは、25m、50mの懸垂2回。降りてからのトラバースもいやらしい。

三ノ窓から池ノ谷ガリー
三ノ窓には13:30に到着。さて、どうしようか。今夜、雪でも降ったら池ノ谷ガリーは危険。
できたら剣岳まで越えておきたいところだが…。
しかし、キスケ君は満身創痍でもう無理とのこと。仕方ないので、この日はここまで。
よく頑張ったかな。でも、こんな時に動けるか動けないかで生と死の分岐点になることもあるだろう。
体力=安全である。今後も体力強化に努めて欲しい。
6日目 4月21日 曇り
さて、危険な場所からの脱出の日である。しかし、昨夜から吹いていた強風はおさまらない。
2:00に起きてはみるが、しばらくは動けそうにない。

早朝の三ノ窓の様子。池ノ谷ガリーはガスで見えない。
ここは電波がとても良い。しかし、残念なことに今夜は降雪の予報が出ている。
焦ってはいけない。これから良くなることを期待して、じっと待つ。
待つこと6時間。やっと天候が安定してきた。
準備をして、9:00に出発する。

池ノ谷ガリーの傾斜はそこまで強くない。雪の状態にもよるが、ガンドウ尾根の方が難しく感じた。

しかし、北方稜線の独特な雰囲気なのか、この吸い込まれそうな感じは何とも言えないものがある。意外と緊張した。

長次郎谷と左に八ツ峰

手前に長次郎の頭と、奥はちょっとしたニセピーク。そのほんの少し先が剣岳山頂だ。
長次郎の頭からコルまでは一回の懸垂。ここはクライムダウンも十分に可能。
最後に、コルからの登りも厳しい。特に抜けの部分が立っていて難しい。

キスケ君は、ロープを使わなかったところでは、ここが一番難しく感じたそうです。
私もそう感じました。
あとは難しくなく、山頂へ。
早く行きたい気持ちと、ゆっくり一歩ずつ最後の歩みを楽しみたい気持ちで複雑な気分。

ついに来ました、剣岳山頂!
ゆっくりしたかったけど、今日中の下山を目指してすぐに早月尾根に向かう。
早月尾根は複雑で、視界が悪いと下りは難しい。最後まで気は抜けない。
数ヶ所悪いところがあり、懸垂した方が良かったのかな。と思うところもあったが、早月尾根ではロープは使用せず。
早月小屋からは悪いところはなく、黙々と下り馬場島へ16:15に到着。

お疲れさまでした。
北方稜線や早月尾根には人がいるだろうと思っていたけど、誰もいませんでした。
結局、今回の山行で会ったのは、牛首尾根の2人だけ。ガンドウ尾根から剣岳まではトレースもありませんでした。
ほぼ貸し切りの状態で黒部横断を楽しむ事ができたと思います。
しかし、馬場島からもまだ大変。まずはゲートまで5.6kmくらいを歩き、車の回収で大谷原まで戻らないといけません。
さらには愛知県まで。さすがに疲れと眠いのもあって、家に着いたのは翌日の昼でした。
厳冬期黒部横断が夢だけで終わらないように、これからは積極的にこの地に足を踏み入れてみたいと思います。
まずは、今年の年末年始に早月尾根に行くことを目標としたいですね。
最後に今回のまとめ
・スタートの重量はtokuが21.4kgでキスケ君が23.6kg。
軽量化には気を使ったつもりだ。私は食料を普段より減らしてみて、アルファ米やプロテイン、アミノ酸などの口に入れる物の総重量が4.2kgでした。3回の食事は全てアルファ米。行動食も春なら凍らないのでアルファ米が個人的にはパワーが出てよい。減らした食事は夜だけだが、プロテインを多めに摂取して質の高い睡眠が取れれば問題ない。今回、翌日に疲労はほとんど残らなかった。減らしたと言っても、アルファ米を、朝200g、昼200g、夜100g。普通の人より多いのかな。
・軽量化の続きだが、ロープ。今回はエーデルリッド社の7.1mm、スキマープロドライと言うとても細いロープとべアール社の5mm、バックアップラインと言う登攀には使えない、懸垂用のスタティックロープの2本。今回のロープ使用は懸垂がメイン。鹿島槍ヶ岳の核心部分である第二岩峰は私が登ったことがあり、落ちる可能性は極めて低いと考え、今回はこのようにした。
ただし、ダブルロープ一本で登ることになるので、もし登攀で不安がある場合は不適だろう。懸垂での連結は、ダブルフィッシャーマンの輪を一つ増やしてトリプルに。
懸垂のバックアップのスリングはダイニーマで。これは、ロープスリングだと滑ってしまうが、ダイニーマならよく効いてくれる。実際に、東谷への懸垂で空中懸垂になったが、ダイニーマのバックアップでしっかり止まってくれた。
また、懸垂で引く場合は必ず7.1mmから。もし、回収でスタックしても登りで使用できるので。
あと、懸垂中にテンションを抜くと細い5mmが動いてしまう。今回は最大で連結部分が3mほど動いたのが確認された。末端処理を忘れていると、思わぬすっぽ抜けの事故につながりそうだ。
・ガスはプリムス社の460g缶×1、225g缶×1をほぼ使い切る量でした。雪の水分が多く、思っていたよりガスは減らなかった。また、私たちは冬〜このくらいの時期までは、ガスを少し温めながら使っている。コッフェルにお湯を入れてガス缶を温めてあげると朝一から元気に動いてくれる。そのため、テルモスには夜のうちに熱いお湯を入れて準備しておく。
こうする事で時間短縮にもなるし、ガスのロスも減り、結果持っていく量も減らせると思う。
・ピッケルは2本。よほど経験と自信があれば別だが、黒部横断なら2本あった方が無難と思う。歩きから緩斜面はブラックダイヤモンドのレイブンウルトラを。急斜面の登下降や堅い雪にはペツルのガリー(ハンマータイプ)が使いやすい。両方とも軽量だが、性能面も特に問題なく安心して使えた。
・ヘルメットはシロッコ。ハーネスはヒューロンドス。アイゼンはバサック。カラビナはアンジュL。安全環カラビナはエスエムディ。以上は全てペツル。ギアはペツルが好きで良く使っています。軽さ、性能共に満足しています。ヒューロンドスはアイゼンを履いてギリギリ脱着が可能。
・靴はスポルティバのネパールキューブGTX。とても軽く、また保温性・防水性共にレベルが高い。キスケくんの靴はかなり中まで濡れていたが、私は濡れることなく過ごせた。
・ジャケットは、冬用のハードシェルではなく、カッパを選択。モンベルのトレントフライヤー。これは、とても悩みましたが、春なら問題ないと感じました。
追記キスケ
雪山から帰ってきたら、風邪や体調を崩してしまう事が続いていてしんどいです。月7日くらい体調が悪い…
さて本題。
この冬は、黒部横断に向けていろいろとトレーニングをしてきました。雪山に30日入る事を目標として、登攀や今まで少なかったリーダーとして経験などを積めたような気がします。
ただ黒部横断は、もうすこし長めの山行のトレーニングをした方が良かった。
これに関しては、2月の鹿島槍が雪が少ないのもあり早くいけてしまった事や、パートナーの問題もあったかもしれないが自分から積極的に計画すれば1週間とかそういった山行が可能だったかもしれない。
黒部横断に気をつけた事は、いつも通りにする事。日数が長いが基本的には、日々同じ事の繰り返し。毎日しっかり同じ事が同じように出来ることが大切で、無理は続かないので、継続出来る程度に生活をする。
今回は、生活面では今までの山行の中でもかなりしっかりできた気がする。
鹿島槍東尾根の核心第2岩峰では、あまりの荷物の重さに思わずテンションをかけるかと思った。
最初からテンションをかけているようでは、黒部横断が心配になるので本気で乗り越えなんとか行けたが、リードだったらどうしただろうか…
最も、精神的にしんどかったのは2日目の終わりだと思う。
登り返すか、対岸に渡るか、渡渉をするか…
登り返したところでいけるのか?対岸はかなり悪そう…渡渉は、相当大変だろう。そういった先の見えない状況の中、2日目を終えた。
ガンドウ尾根もこれまた結構悪くて、垂直ラッセルや木登り悪いトラバースなどが出てくる。黒部横断はこういった事の連続なので、総合力なのだろう。
4日の停滞は、有難い。結構疲れていたので、死んだように寝ていた気がする。
5日目は、カリカリのトラバースなど、あまり経験した事ない事が出てきた。やはり経験した事がない事は上手くは出来ないな。もっといろんなシーズンの山に行こう。
北方稜線も、急だしやはり大変であった。
6日目は、北方稜線ど真ん中の三ノ窓。剱岳の雰囲気を味わう余裕はなく、基本的に臆病なのではやく危険なところから脱出したい思いである。そんな中剱岳に着く。長かった…
早月尾根の上部は悪い。最初に事故が起こっても最後に事故が起こっても事故は事故。最終ピークを踏んでから気が抜けやすいので、慎重に下山する。早月小屋まで来ると、幾分安心する。
馬場島からゲートまで長かった。
さて、次の大きな山行はどこへ行こうか…