………とにかく腹が減っていた。
俺は今日、企業面接を受けにいったが、持ち前のテンパリが発揮されなんだか手応えゼロ。
まったくの無駄足だった。
おまけにどうやら俺はまたも路に迷ったらしい(人生の)
しかも…追い打ちをかけるように雨が降り出す(人生に)
焦るんじゃない(人生を)、俺は腹が減っているだけなんだ。
このへん、どこかに俺がちょっとメシを入れていくような場所はないものか。
くそっ、それにしても腹減ったなあ。
“めし屋”は…
どこでもいい、“めし屋”はないのか
ええい! ここだ入っちまえ
「いらっしゃーい、相席でもよろしいですか?」
「ええ、…この、中華そばください。大盛で」
俺はできるだけ物おじせずハッキリという
注文を聞きかえされるのはやっかいだ
注文してしまうと、少し気が楽になり店内を見回すゆとりがでてきた
店内は割りときれいだ
…けっこう客が多いな、昼休み中のサラリーマンってとこか。暖かい店内で熱い中華そばを食っているというのに、みんな上着を脱いでいないのはなぜだろう? でもある種の美意識が感じられる。
「いらっしゃい、相席でもよろしいですか?」
俺が注文の品をまっている間も客はやってくる。みなサラリーマン風だ
「はーい、おまちどうさま」
お…きたきた、きましたよ
<中華そば 大盛>
深くて幅のない丼に透き通った醤油スープと細いストレート麺が入っている。
チャーシューは二枚、それにメンマと刻みネギ。
うーん、オーソドックスないかにも中華そばって中華そばだ
はふっ
うん、細いのにしっかりとコシがある
スープも特徴がないながらも、いやみがない
チャーシューは…っと、ちっとかたいようだが
マズくない! けしてマズくないぞ!!
ああ うまい!! かめばかむほど味がでてくる。なんだかなつかしい味だ
一つ一つの要素には驚くべきところはないが それが集まったときの安定性は驚くほどあるな
「すいません、お勘定」
「はい、中華大盛ね。600円です」
「…はい、ごちそうさま」
俺はゆったりと店をでる。店内でかいた汗が外の風で冷える。
自転車にまたがりながら、明日からまた就職活動頑張ろう、と思った。
そのとき俺は得体の知れない奇妙な満足感を味わっていた。

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