数種類の酒を鯨飲したせいで頭が重い。
明け方につぶれて床に転がっていた俺は込み上げてくる嘔吐感に眼を覚ました。
昨日、何をしたか途中からの記憶がない。ビール、焼酎、缶チュウハイと呑んでいって、最後に開けた赤ワインが拙かったらしい。
記憶を失くすほどに呑んだのはこれが始めてかもしれない。
口の中に溢れてくる胃液と涎を飲み込みながら俺は便器を抱え込んだ。
中島らもの『今夜、すべてのバーで』の冒頭にこんな一節がある。
「なぜそんなに飲むのだ」
「忘れるためさ」
「なにを忘れたいのだ」
「…。忘れたよ、そんなことは」
咽喉の奥から突き上げてくる不快感と、涙で霞む赤色に染まった便器に顔を突っ込みながら、なぜだかその言葉を思い出していた。
ローマの諺に曰く
『バッカスはネプチューンよりも多くのものを溺死させた』

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