今日は朝、約束があったのだ。昨日、アートセンターで会ったDAVIDさんという白人の方に家に来るように言われた。彼は長年この地に住んでいて、アートやイダキのコレクションがあるという。これは是非拝ませてもらいたい、ということで行ってきました。彼の家は今泊まっているリックさんの家から徒歩2分。到着したらシャワーを浴びてて、ちょっとだけ外で待つ。
部屋の中に入ると、壁にはすばらしいアートの数々(リックさんの家もそんな感じ)。部屋の奥からイダキを次々に出してくれた。中には1970年代前半のイダキも数本。Djatjirri#1が全盛期に製作したイダキや、珍しいペイントのイダキなど。こんなコレクション眠らせておくのはもったいないなあ。彼もいろんな人に見せたいらしくて、是非HPで紹介してくれと言ってくれた。そのHPに載せれば、ヨルングの子供たちが、自分の祖先が残したものを理解できるから、と。短い時間だったけど楽しいひとときだった。
さて、おおかた買い物が終わったので、今日は特になにもないといえば、何もない。とりあえずまずはアートセンターへ。購入したものをパッキング!と思ったのだが、新しいスタッフの人がやってくれるという。おお、なんて親切な!彼は新しく入ったアートコーディネートマネージャーで、KADEという男性。とっても良い人でした。
KADEそして、ずっとこのアートセンターを仕切っているWillと3人で話をした。
アートセンターも世界的な不況の波は押し寄せていて、昨年の売り上げは大幅に落ち込んだそうだ。それでもヨルングからはアートやイダキが持ち込まれる。だから、特に高いアートが動かず、連鎖的にヨルングの社会も潤わなくなってきている。この地は、ヨルングの土地とはいえ、実はボーキサイトの鉱山で成り立っている。天然資源が豊富なオーストラリアの景気を支えているといってもよいだろう。鉱山関係者はかなりよい給料がもらえるそうだ。今回お世話になっているリックさんも鉱山関係者。4日12時間フルで働いて、4日休む。そんな生活をしているそうだ。つまりこの地に住む白人達は景気がよい。それによってインフレが発生して、昨日話したような2000円近いランチが存在してしまう。
そのインフレの中でヨルング達は生活して行かなくてはならない。もちろん狩猟採取で食料を得ることもできるが、普段はスーパーで買い物をする。ほんの少し食料をかっただけでも5000円ぐらいは簡単になくなるのだ。
それを考えると、彼らの文化に対する対価は決して高いものではない。あんなに労力と時間をかけて作ったイダキやアート。もっと評価されるべきだけど、簡単に景気に左右されてしまう。
自分が一生懸命作ったイダキが高く買ってもらえないと、彼らは製作意欲がなくなり、やがては文化が衰退していく。
文化をビジネスとしている私にとっても、とても頭の痛いところである。
自分でディジュリドゥを作ったり、アジアの発展途上国で安価にディジュリドゥを製造して販売するのは容易なことだろう。でも、よく考えてほしい。それらの製品が彼らの文化を衰退へと導いていることを。いずれ形を変えて、ヨルングたちが、自分たちで製作をやめて、こぞってチークやプラスチックのイダキを使い始めたらどう思うだろうか?もしそうなってしまったら私はもうこのビジネスをやめるね。もしくはすでに製作されたイダキたちを買い取って販売する形に移行するだろう。
文化を守るなんて大それたことは言わないが、これからもヨルングの文化、アボリジナル文化を継承していく一助になれる活動を理想として行きたい。
さて、話はそれたけど、1枚の絵を紹介したい。
ダララルと呼ばれる神聖なイダキ(正確にはイダキとは呼ばない)の絵だ。
写真のちょうど後ろに移っているのが、ダララル。これは、神聖な儀式の始まりの合図にだけ使われる楽器で、トゥーツのロングトーンを2回鳴らす。それによって、人々や精霊が集まってくるという。このダララルについて語られたのが2004年のガーマだったかな?そこで初めて彼らの口から話されたのだ。
そんなダララルには紐がついている。女性が親族が亡くなったときにその悲しみを紛らわすために貝殻などで自分の頭をたたき、その痛みで悲しみを紛らわすのだ。この紐はそのときに流した女性の血も表しているそうだ。
こんな貴重なアート、現地では25万円くらいの値がついていたんだけど、20万円(送料込)で特別に売ってくれるそうです。もちろんアートセンターにはほとんど利益はありません。興味のある人は私まで連絡ください。
今日の天気は、午前中は晴れ。午後から時々スコールが降って、夕方もかなりの雨が降った。止んだのでジャルーにお別れを言いに最後の訪問。
外にはダンガルが子供たちに大きな長い風船を作ってあげて、遊んでいた。
ヨーチンもこんなに大きくなり、ババコ(ラリーの息子)はこんなファンキーな髪型に!
みんな訪問する度大きく成長していてとても嬉しいね。
もう13年もこの地に通っていて、どんどんいろんなものが変わっていく。
彼らにとって良い方向へ進んでくれたらいいな。この子供たちが大人になって、文化を継承していく姿を是非見守っていきたい。
ジャルーは部屋にいた。
暗い部屋の中でテレビを見ている。
1日のうちこうしていることが多いようだ。
もうかなりの年(正確な年齢は分からないけど、現在有力なのは76歳ぐらいじゃないかと)だから当然と言えば当然。
元気ではいたけど、咳き込んでいてかなり苦しそうだった。
それでもお別れを告げたとき、強い力で握手してくれた。
もっともっと長生きしてほしいね。
明日アーネムランドを経つわけだけど、自分には長期で滞在するより、短期で訪問してファミリーとの距離間を保つ方が性に合ってるのかもしれない。
今回の感じたことを5月末のカルチャーイベントでお話しできたら、と思っています。

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