2005/9/4
宇宙放射線被ばく おしごと関係
先週宇宙放射線被爆に関するおもしろい講演を聞いたので、それをかいつまんで書いてみる。へぇへぇとか思ったことを適当に箇条書きで。
ー ロシアの宇宙ステーション、ミール上での実測によれば、宇宙放射線の9割以上は陽子。残りはα粒子(ヘリウム原子核)とかそれ以上思い原子の原子核。
ー 国際宇宙ステーション(ISS)の外壁は、単位面積当たりの比重にして100g/cm2くらい。これだと銀河宇宙線などエネルギーとして1 GeV辺りにピークを持つ普通の宇宙線はかなり防御できる。しかし1-1000 MeV帯のエネルギーが中心となる太陽フレアに起因する陽子は頭数が非常に多いため、かなりの量を浴びてしまう。これに対する対策はまだ不十分。
ー 放射線の吸収量の単位には主に2つある。Gy(グレイ)とSv(シーベルト)。Gyは1ジュールのエネルギーが1kgに吸収されたら1Gyとする。物理単位で定義がはっきりしており、測定も可能。
ー しかしSvの方は人体への吸収、特に発ガンを念頭に置いた人体への放射線吸収量を表すもの。Sv = A × Gy なので、2つの単位は比例する。しかしその比例定数 Aは実験をいっぱいやって決めるしかない。この実験は人体ではなくマウスを使って行う。
ー 放射線被爆に関する法令はみんなSvによって浴びていい量などを規定している。つまり我々はねずみ実験の値を信じて法律にしている。
ー 宇宙等で作業をする場合、法的に浴びていい限界は1年に1mSv(1000分の1Sv)。宇宙の実測によれば、スペースシャトル軌道上での作業で浴びる宇宙放射線は平均して1日に1mSvにもなる。つまり野口さんのような屋外作業は24時間前後で限界。
ー 昔の宇宙飛行士はみんな軍人だったため、線量限界の法律を無視することができた。(命令が優先、という理由)かつて1年以上宇宙に滞在した人は全員軍人だった。
ー ねずみに毎日1mSvくらいずつ放射線を浴びせても寿命は平均で99%くらいにしかならない。毎日20mSvずつ浴びせると、寿命が平均で9割に縮む。(こんなに浴びてもこんなもんなのか?)
ー しかし上記の実験はガンマ線(粒子じゃなくて電磁波です!)で行われているので、必ずしも宇宙放射線のメインである粒子線でも同じとは限らない。っていうか、多分効果は絶対違う。
ー 人の培養細胞に毎日1mSvの放射線を浴びせると、最初の30日くらいは突然変異の発生率が非常に高いが、1ヶ月を過ぎたくらいで突然変異発生率が急激に低下する。長い宇宙旅行に出る時は、あらかじめ地上で放射線を1ヶ月くらい浴びていった方がいいのかもしれない。(体の細胞の修復機能が高まって放射線による染色体の破壊スピードに追いつくのか?)
ー 宇宙被爆に関する研究は、1つ1つの個別症例の寄せ集めに基づいていて、統計的なことはさっぱり言えない。それなりの確からしさで太陽フレア粒子に対する影響を特定しようと思うと、ねずみが100万匹くらい必要。これくらいないと統計的に有意な結果にならない。(こんなたくさんのネズミを使うなんてほとんど無理)
ー 宇宙にいかなくても、普通の航空機乗って成層圏辺りを飛んだだけでも宇宙放射線を浴びている。宇宙ステーションだと1日1mSv。これが航空機だと1日0.07mSv。宇宙の10分の1弱。地上だとそのさらに100分の1。つまり航空機に乗ると、地上の100倍の宇宙放射線を浴びていることになる。
ー 現在の計算によれば、地球−火星往復をすると、片道半年、現地に1年半年滞在(帰りにちょうどいい軌道を待つため)として、1回の往復で1Svは浴びてしまう。人間は70Sv浴びると確実に死ぬので、火星まで70往復すれば確実に死亡。もちろん途中で太陽フレア粒子なんぞを浴びたりすればもっと短命。短期間で浴びたとするともっと少ない量でも致死となる。例えば東海村の事故の時の犠牲者の場合、ものの数分で2〜7Svくらい浴びてしまった。ほとんど即死。
ーー以下、放射線量が同じくらいになるものを集めてみたーー
約0.05mSv:
ー成田−ニューヨーク片道で浴びる宇宙線量
ー航空機に乗っていて普通クラスの太陽フレアが起こった時に浴びる量
ー健康診断の時の最初の小さいX線撮影1回分
0.2〜0.6mSv:
ー 東京に住んでて1年に浴びる宇宙線の量
ー 胃の検査の時のX線撮影1回分
ー 宇宙にいて普通の太陽フレア粒子を1発分浴びた時の被爆量
2〜7mSv:
ー 地上に住んでいて1年に浴びる自然放射線量の合計
(宇宙線以外にも地上の鉱物とかからも浴びる)
ー 飛行機に乗っていて10年に1回クラスの大フレアが起こった時浴びる宇宙線
ー 胸部X線CTスキャン1回で浴びる放射線量
(実はCTスキャンってのは結構浴びるんです!)
20mSv:
ー 原発等の特殊な環境で働く商業人が1年間に浴びてもいい許容量。
ー 宇宙にいて(もち宇宙船内)10年に1度クラスの大フレアの粒子を浴びた時の被爆量
(ものの20-30分でこれくらいいっちゃいます)
※ フレア粒子は普通3〜4日は続きます。もしこんな時に運悪くアポロとかに乗って月往復中だったりすると、宇宙船の中にいようが帰ってきた時は焼き鳥....というか重度の放射線焼けになってるそうな(NASAのシミュレーションによる結果)。実際このクラスのフレアがアポロ14号帰還と15号出発との間であったそうです。一歩間違えばアポロ13号どころでは済まなかったらしい
250 mSv:
ー これくらい浴びると医者がすぐにわかります。そろそろ命に関わるレベルでやばくなってくる。
1000 mSv(=1Sv):
ー 宇宙船に引き篭もりながら火星往還1回分
ー 短時間で浴びると致死率が50%以上になってしまう量
※こんな奴はいないと思いますが、宇宙船の外壁の外側に縛り付けられて火星往復をすれば上記のさらに数倍〜10倍浴びる。7往復で致死量。
数 Sv:
ー 短時間に浴びればほぼ即死
70Sv:
ー のんびり浴びたとしてもほぼ致死量レベル。ガンに対する放射線治療でがん細胞に照射する放射線量がこれくらいだそうです。つまり浴びてる傍から細胞をガンガン破壊できます。
ー ロシアの宇宙ステーション、ミール上での実測によれば、宇宙放射線の9割以上は陽子。残りはα粒子(ヘリウム原子核)とかそれ以上思い原子の原子核。
ー 国際宇宙ステーション(ISS)の外壁は、単位面積当たりの比重にして100g/cm2くらい。これだと銀河宇宙線などエネルギーとして1 GeV辺りにピークを持つ普通の宇宙線はかなり防御できる。しかし1-1000 MeV帯のエネルギーが中心となる太陽フレアに起因する陽子は頭数が非常に多いため、かなりの量を浴びてしまう。これに対する対策はまだ不十分。
ー 放射線の吸収量の単位には主に2つある。Gy(グレイ)とSv(シーベルト)。Gyは1ジュールのエネルギーが1kgに吸収されたら1Gyとする。物理単位で定義がはっきりしており、測定も可能。
ー しかしSvの方は人体への吸収、特に発ガンを念頭に置いた人体への放射線吸収量を表すもの。Sv = A × Gy なので、2つの単位は比例する。しかしその比例定数 Aは実験をいっぱいやって決めるしかない。この実験は人体ではなくマウスを使って行う。
ー 放射線被爆に関する法令はみんなSvによって浴びていい量などを規定している。つまり我々はねずみ実験の値を信じて法律にしている。
ー 宇宙等で作業をする場合、法的に浴びていい限界は1年に1mSv(1000分の1Sv)。宇宙の実測によれば、スペースシャトル軌道上での作業で浴びる宇宙放射線は平均して1日に1mSvにもなる。つまり野口さんのような屋外作業は24時間前後で限界。
ー 昔の宇宙飛行士はみんな軍人だったため、線量限界の法律を無視することができた。(命令が優先、という理由)かつて1年以上宇宙に滞在した人は全員軍人だった。
ー ねずみに毎日1mSvくらいずつ放射線を浴びせても寿命は平均で99%くらいにしかならない。毎日20mSvずつ浴びせると、寿命が平均で9割に縮む。(こんなに浴びてもこんなもんなのか?)
ー しかし上記の実験はガンマ線(粒子じゃなくて電磁波です!)で行われているので、必ずしも宇宙放射線のメインである粒子線でも同じとは限らない。っていうか、多分効果は絶対違う。
ー 人の培養細胞に毎日1mSvの放射線を浴びせると、最初の30日くらいは突然変異の発生率が非常に高いが、1ヶ月を過ぎたくらいで突然変異発生率が急激に低下する。長い宇宙旅行に出る時は、あらかじめ地上で放射線を1ヶ月くらい浴びていった方がいいのかもしれない。(体の細胞の修復機能が高まって放射線による染色体の破壊スピードに追いつくのか?)
ー 宇宙被爆に関する研究は、1つ1つの個別症例の寄せ集めに基づいていて、統計的なことはさっぱり言えない。それなりの確からしさで太陽フレア粒子に対する影響を特定しようと思うと、ねずみが100万匹くらい必要。これくらいないと統計的に有意な結果にならない。(こんなたくさんのネズミを使うなんてほとんど無理)
ー 宇宙にいかなくても、普通の航空機乗って成層圏辺りを飛んだだけでも宇宙放射線を浴びている。宇宙ステーションだと1日1mSv。これが航空機だと1日0.07mSv。宇宙の10分の1弱。地上だとそのさらに100分の1。つまり航空機に乗ると、地上の100倍の宇宙放射線を浴びていることになる。
ー 現在の計算によれば、地球−火星往復をすると、片道半年、現地に1年半年滞在(帰りにちょうどいい軌道を待つため)として、1回の往復で1Svは浴びてしまう。人間は70Sv浴びると確実に死ぬので、火星まで70往復すれば確実に死亡。もちろん途中で太陽フレア粒子なんぞを浴びたりすればもっと短命。短期間で浴びたとするともっと少ない量でも致死となる。例えば東海村の事故の時の犠牲者の場合、ものの数分で2〜7Svくらい浴びてしまった。ほとんど即死。
ーー以下、放射線量が同じくらいになるものを集めてみたーー
約0.05mSv:
ー成田−ニューヨーク片道で浴びる宇宙線量
ー航空機に乗っていて普通クラスの太陽フレアが起こった時に浴びる量
ー健康診断の時の最初の小さいX線撮影1回分
0.2〜0.6mSv:
ー 東京に住んでて1年に浴びる宇宙線の量
ー 胃の検査の時のX線撮影1回分
ー 宇宙にいて普通の太陽フレア粒子を1発分浴びた時の被爆量
2〜7mSv:
ー 地上に住んでいて1年に浴びる自然放射線量の合計
(宇宙線以外にも地上の鉱物とかからも浴びる)
ー 飛行機に乗っていて10年に1回クラスの大フレアが起こった時浴びる宇宙線
ー 胸部X線CTスキャン1回で浴びる放射線量
(実はCTスキャンってのは結構浴びるんです!)
20mSv:
ー 原発等の特殊な環境で働く商業人が1年間に浴びてもいい許容量。
ー 宇宙にいて(もち宇宙船内)10年に1度クラスの大フレアの粒子を浴びた時の被爆量
(ものの20-30分でこれくらいいっちゃいます)
※ フレア粒子は普通3〜4日は続きます。もしこんな時に運悪くアポロとかに乗って月往復中だったりすると、宇宙船の中にいようが帰ってきた時は焼き鳥....というか重度の放射線焼けになってるそうな(NASAのシミュレーションによる結果)。実際このクラスのフレアがアポロ14号帰還と15号出発との間であったそうです。一歩間違えばアポロ13号どころでは済まなかったらしい
250 mSv:
ー これくらい浴びると医者がすぐにわかります。そろそろ命に関わるレベルでやばくなってくる。
1000 mSv(=1Sv):
ー 宇宙船に引き篭もりながら火星往還1回分
ー 短時間で浴びると致死率が50%以上になってしまう量
※こんな奴はいないと思いますが、宇宙船の外壁の外側に縛り付けられて火星往復をすれば上記のさらに数倍〜10倍浴びる。7往復で致死量。
数 Sv:
ー 短時間に浴びればほぼ即死
70Sv:
ー のんびり浴びたとしてもほぼ致死量レベル。ガンに対する放射線治療でがん細胞に照射する放射線量がこれくらいだそうです。つまり浴びてる傍から細胞をガンガン破壊できます。
2009/5/6 19:20
投稿者:aspacephysicist
2009/5/6 17:30
投稿者:おじい
>宇宙等で作業をする場合、法的に浴びていい限界は1年に1mSv
これ、合ってますか?
地球上の一般大衆の線量限度が年間1mSv、放射線作業従事者の年間限度が50mSvであることを考えると、ちょっと変な気がするんですが・・・
これ、合ってますか?
地球上の一般大衆の線量限度が年間1mSv、放射線作業従事者の年間限度が50mSvであることを考えると、ちょっと変な気がするんですが・・・
もちろん私としても「そんなバカな」と感じますが、単に法整備がされてないだけのような気がします。ネットでいろいろ調べてみたのですが、航空機の搭乗職員(パイロット、客室乗務員)に関してはいろいろ議論がされているようですが、宇宙飛行士をこの「放射線業務」に含めるかどうかに関する話は見つかりませんでした。
代わりに、法律ではないですが、JAXAではISS(国際宇宙ステーション)での宇宙飛行士の被爆に関する「指針」を出しているようです。これによれば、1mSvよりずっと大きい値に設定されているようですね。
http://iss.jaxa.jp/utiliz/ra_guide01.html