2016/7/3
辺野古沖の海上警備業務で独占企業が労基法違反の収奪 ]U格差社会
◆ 残業代未払いで発覚した辺野古海上警備のブラックぶり (労働情報)
名護市辺野古沖の新基地建設予定海域で、沖縄防衛局から海上警備業務を請け負っている警備会社マリンセキュリティー(沖縄市泡瀬、以下マリン社)が、従業員の残業代を支払っていないとして沖縄労働基準監督署から是正勧告を受けた問題が明らかになった。
複数の従業員が月最大200時間を超える残業代が支払われないのは労働基準法違反として労基署に訴えを起こしたのがきっかけだった。
労基署に訴える前には会社側に訴えたが、支払う姿勢をみせなかった上に、これまで週5〜6日あった仕事が、週2〜3日に減らされるという「パワハラ」も受けた。従業員らは残業代未払いと仕事を与えないなどの嫌がらせを受けたとして、労基署に「金銭的不利益・精神的苦痛」を申告した経緯がある。
ところで、マリン社は、沖縄防衛局から辺野古沖の海上警備業務を受注しているライジングサンセキュリティーサービス(東京都、以下ライジング社)の100%子会社である。
ライジング社は、2015年の海上警備業務を一般競争入札で、約24億円で契約している。ただ、沖縄防衛局は15年からの業務で3社に見積もりを依頼したが、2社が辞退。ライジング社だけが提出しており、入札にも1社だけで参加したことが分かっている。
16年からの業務も1社の応札で、いずれも落札率は99%を超えている。
専門家は「1社からの見積もりしか取れなかったとしても、防衛局が独自に積算し、その見積もりと照らして精査することはできたはずだ」とし、防衛局が手を抜いた結果「うまい商売」になったと指摘する。
◆ 菓子パン一個でトイレもダメ
マリン社の従業員によると、海上での警備業務は日勤で最長15時間半、当直勤務は基本でも1泊2日で37時間半に及ぶなど拘束時間は長い。
求人誌の応募では、日勤で午前8時〜午後5時で日給9千円と記載されているが、業務の前後と実質的に業務から解放されない「休憩時間」を含めると、1日平均5・5時間の残業が強いられていた。
採用時には労働条件の明示や契約書もなかったという。
業務も過酷で、いったん海上に出ると基本的にトイレも行けず「ペットボトルを持っていくか、我慢するか」の状況。支給される「昼食」も菓子パンー個に缶コーヒー1本という日も多かったと証言した。
複数の従業員は自ら月ごとの超過勤務時間と金額、請求額を克明に記録、計算し、長い拘束時間と会社の指揮監督下にある場合も労働時間にあたるとして、声をあげたのだ。
従業員らの訴えで印象的なのは「国から事業を請け負っている会社が法令違反をしていること自体がおかしい。労働基準法違反がまかり通るのは許されない」と口をそろえたことだ。
一方、マリン社では、健康保険などの社会保険にも加入せずに、保険料負担を逃れていた疑いもある。
さらに、所得税法で給与支払者に発行が義務付けられている源泉徴収票を従業員の「希望制」にして交付していることも分かった。発行の際には、会社が用意する「発行願い」の書面にサインし、提出することが条件となっていた。
雇用保険についても資格取得日が採用から最大6カ月以上遅れて加入するなどの事例もあり、企業として当たり前の雇用環境の整備を怠っていた。専門家も「明らかな法令違反で、労働者をばかにした典型的なブラック企業」と指摘している。
◆ 従業員らの勇気と悔しさ
従業員らの勇気ある証言により、残業代の未払いや過酷な労働実態などが明るみに出たことで、マリン社は労基署に訴えを起こした従業員らに残業代を支払った。
しかし、残業総時間や総支給額、社会保険などの不備についての質問にはいまだに答えていない。
沖縄防衛局も労基法違反について「発注者として監視、監督していく」とのコメントにとどまっている。
辺野古沖の海上警備業務では、警備員が新基地建設に抗議する市民らの名前を特定し、行動を記録していることも明らかになった。
約60人分の顔写真や名前を記したリストで、撮影した写真と照らし合わせており、憲法で保障されている「表現の自由」を侵害しているとの批判も出ている。
警備員が乗る船にはマニュアルがあり、名前のリストはその中の一部。監視業務では、船名や乗員数、乗船者の名前などを無線で報告する。名前が分からない人は独自につけたニックネームや番号で呼ぶという。
リストにある市民の顔写真は覚えるように指導され、報告は監視にあたる警備員でさえ、「行き過ぎではないか」と言うほどだ。警備業務上、市民を特定する必要性に疑問を感じるとも。
当然ながら抗議を続ける市民からも「異常な監視」「抗議行動を萎縮させる」「一企業の範囲を逸脱している」などと反発が上がっている。
しかし、沖縄防衛局はこの監視の事実などについて「事実確認中」と述べるにとどまっており、説明責任を果たしていない。
この沖縄防衛局が発注した海上警備業務をめぐっては、次々と問題が明らかになっている。
マリン社の従業員らの勇気ある行動と労働者としての権利を明確に主張したことに敬意を表したい。
一方で、仕事のために声を上げることができない人や悔しい思いで会社を去った人がいることも事実である。
この一連の問題については、同僚の北部報道部・阿部岳記者と取材を担当している。今後も引き続き課題を掘り下げていきたい。
『労働情報 937号』(2016/6/15)
赤嶺由紀子(沖縄タイムス記者)
名護市辺野古沖の新基地建設予定海域で、沖縄防衛局から海上警備業務を請け負っている警備会社マリンセキュリティー(沖縄市泡瀬、以下マリン社)が、従業員の残業代を支払っていないとして沖縄労働基準監督署から是正勧告を受けた問題が明らかになった。
複数の従業員が月最大200時間を超える残業代が支払われないのは労働基準法違反として労基署に訴えを起こしたのがきっかけだった。
労基署に訴える前には会社側に訴えたが、支払う姿勢をみせなかった上に、これまで週5〜6日あった仕事が、週2〜3日に減らされるという「パワハラ」も受けた。従業員らは残業代未払いと仕事を与えないなどの嫌がらせを受けたとして、労基署に「金銭的不利益・精神的苦痛」を申告した経緯がある。
ところで、マリン社は、沖縄防衛局から辺野古沖の海上警備業務を受注しているライジングサンセキュリティーサービス(東京都、以下ライジング社)の100%子会社である。
ライジング社は、2015年の海上警備業務を一般競争入札で、約24億円で契約している。ただ、沖縄防衛局は15年からの業務で3社に見積もりを依頼したが、2社が辞退。ライジング社だけが提出しており、入札にも1社だけで参加したことが分かっている。
16年からの業務も1社の応札で、いずれも落札率は99%を超えている。
専門家は「1社からの見積もりしか取れなかったとしても、防衛局が独自に積算し、その見積もりと照らして精査することはできたはずだ」とし、防衛局が手を抜いた結果「うまい商売」になったと指摘する。
◆ 菓子パン一個でトイレもダメ
マリン社の従業員によると、海上での警備業務は日勤で最長15時間半、当直勤務は基本でも1泊2日で37時間半に及ぶなど拘束時間は長い。
求人誌の応募では、日勤で午前8時〜午後5時で日給9千円と記載されているが、業務の前後と実質的に業務から解放されない「休憩時間」を含めると、1日平均5・5時間の残業が強いられていた。
採用時には労働条件の明示や契約書もなかったという。
業務も過酷で、いったん海上に出ると基本的にトイレも行けず「ペットボトルを持っていくか、我慢するか」の状況。支給される「昼食」も菓子パンー個に缶コーヒー1本という日も多かったと証言した。
複数の従業員は自ら月ごとの超過勤務時間と金額、請求額を克明に記録、計算し、長い拘束時間と会社の指揮監督下にある場合も労働時間にあたるとして、声をあげたのだ。
従業員らの訴えで印象的なのは「国から事業を請け負っている会社が法令違反をしていること自体がおかしい。労働基準法違反がまかり通るのは許されない」と口をそろえたことだ。
一方、マリン社では、健康保険などの社会保険にも加入せずに、保険料負担を逃れていた疑いもある。
さらに、所得税法で給与支払者に発行が義務付けられている源泉徴収票を従業員の「希望制」にして交付していることも分かった。発行の際には、会社が用意する「発行願い」の書面にサインし、提出することが条件となっていた。
雇用保険についても資格取得日が採用から最大6カ月以上遅れて加入するなどの事例もあり、企業として当たり前の雇用環境の整備を怠っていた。専門家も「明らかな法令違反で、労働者をばかにした典型的なブラック企業」と指摘している。
◆ 従業員らの勇気と悔しさ
従業員らの勇気ある証言により、残業代の未払いや過酷な労働実態などが明るみに出たことで、マリン社は労基署に訴えを起こした従業員らに残業代を支払った。
しかし、残業総時間や総支給額、社会保険などの不備についての質問にはいまだに答えていない。
沖縄防衛局も労基法違反について「発注者として監視、監督していく」とのコメントにとどまっている。
辺野古沖の海上警備業務では、警備員が新基地建設に抗議する市民らの名前を特定し、行動を記録していることも明らかになった。
約60人分の顔写真や名前を記したリストで、撮影した写真と照らし合わせており、憲法で保障されている「表現の自由」を侵害しているとの批判も出ている。
警備員が乗る船にはマニュアルがあり、名前のリストはその中の一部。監視業務では、船名や乗員数、乗船者の名前などを無線で報告する。名前が分からない人は独自につけたニックネームや番号で呼ぶという。
リストにある市民の顔写真は覚えるように指導され、報告は監視にあたる警備員でさえ、「行き過ぎではないか」と言うほどだ。警備業務上、市民を特定する必要性に疑問を感じるとも。
当然ながら抗議を続ける市民からも「異常な監視」「抗議行動を萎縮させる」「一企業の範囲を逸脱している」などと反発が上がっている。
しかし、沖縄防衛局はこの監視の事実などについて「事実確認中」と述べるにとどまっており、説明責任を果たしていない。
この沖縄防衛局が発注した海上警備業務をめぐっては、次々と問題が明らかになっている。
マリン社の従業員らの勇気ある行動と労働者としての権利を明確に主張したことに敬意を表したい。
一方で、仕事のために声を上げることができない人や悔しい思いで会社を去った人がいることも事実である。
この一連の問題については、同僚の北部報道部・阿部岳記者と取材を担当している。今後も引き続き課題を掘り下げていきたい。
『労働情報 937号』(2016/6/15)






