2018/4/1

「結婚できない」「出産できない」「子育てできない」再生産不可能社会は奨学金制度改善で変えられる  ]U格差社会
 ◆ 給付中心の奨学金へ
   財源は富裕層への適正な課税で
(週刊新社会)
大内裕和(中京大学教員)

 ◆ 給付型導入は改善の一歩
 日本の奨学金制度を今後改善していく際の重要なポイントは二点ある。
 第一は、「貸与」中心の奨学金制度を「給付」中心の奨学金制度に変えていくことである。これについては、近年大きな前進があった。「奨学金問題対策全国会議」をはじめとする社会運動の高まりを受けて、政府は2016年12月に返済不要の給付型奨学金導入を決定した。
 この給付型奨学金の導入は、従来「貸与のみ」であった日本の奨学金制度を改善していくうえで重要な一歩である。しかし、今回の政府案は対象人数、給付額も極めて限定されたものにとどまっている。
 現在では奨学金利用者は、大学進学者の半数以上となっている。日本型雇用の解体による親の所得低下によって、中間層を含む多くの世帯が、子どもの学費を負担することが困難になっている。


 ごく一部の貧困層のみを救うという視点だけでは、現在の教育費問題を解決することはできない。
 今回の給付型奨学金の導入をきっかけとして、対象人数の増加や給付型奨学金の増額を実現し、将来的には給付中心の奨学金制度を実現することが重要である。
 これから給付中心の奨学金制度を実現するためには、そのための財源が必要である。給付型奨学金は、「生まれによる格差」を是正することが重要な目的であるから、富裕層に対する課税によってその財源をまかなうというのが、最も理にかなっている
 冨裕層は近年、日本社会で急増している。
 図1は野村総合研究所が、2014年11月18日に発表した報告「日本の冨裕層は101万世帯、純金融資産総額は241兆円」に掲載されたデータである。
 図1(野村総合研究所 News Release「日本の富裕層は101万世帯、純金融資産総額は241兆円」2014年11月18日より)
 日本学生支援機構の奨学金は、無利子貸与と有利子貸与を合わせて約1・1兆円である。
 図1から純金融資産1億円以上の富裕層(超富裕層+富裕層)の金融資産を計算すると、2000年の171兆円から2013年に241兆円まで増加している。1年間で平均すると約5・4兆円増加していることになる。
 1年間で平均約5・4兆円も増加しているのであるから、現在の年間1・1兆円分の貸与型奨学金を給付型奨学金にすることは、富裕層に対する適正な課税を行うことで十分に可能である。さらに、この方向で高等教育の学費軽減を進めることも可能だ。

 ◆ 返済負担の軽減が急務
 第二に、すでに奨学金を借りている人々の返済負担を軽減する制度を導入することである。
 2014年4月に、すでに奨学金を借りている人々に対して、延滞金賦課率の10%から5%への削減、返還猶予期限の5年から10年への延長などの改善が行われた。しかし、これらの改善だけではあまりにも不十分である。
 図2は、延滞者と予定通り返済している無延滞者それぞれについて、奨学金利用者の年収の推移を比較したものである。
 2007年度から2012年度にかけて、延滞者の年収構造にはそれほど大きな変化がないのに対して、無延滞者においては年収の急速な悪化が進んでいることが分かる。
 これは若年労働者全体の貧困化が進み、予定通り返済している人の多くが厳しい経済状況の下で、奨学金返済を余儀なくされている状況を示している。
 奨学金を「返せない」問題だけではなく、「返す」ことによって生じる問題も重要となってきているのである。

 奨学金を返済している人々の間で急速に広がっているのが、「結婚できない」「出産できない」「子育てできない」問題である。
 すでに出生数は減り続けている。1973年に年間209万人を超えていた出生数は2016年には97万6979人と、1899年に統計をとり始めて以来初めて100万人を割り込んだ。
 これは少子化どころか「再生産不可能社会」の到来とも呼べる深刻な状況である。このままでは日本社会自体が持続不可能となってしまう。
 「結婚できない」「出産できない」「子育てできない」再生産不可能社会を変えるためには、奨学金制度の抜本的な改善が必要だ。

 延滞金の廃止、10年という返還猶予期限の撤廃に加えて、本人の年収に応じて奨学金返済の負担を軽減する制度の導入が強く求められる。
 それは2017年度から導入された所得連動返還型奨学金制度の改善とセットで進めるべきである。
 給付型奨学金の対象人数を増やし、貸与中心から給付中心の奨学金制度を実現していくこと、すでに奨学金を借りている人々の返済負担を軽減する制度を導入すること、この二点が奨学金制度改善の.重要なポイントであると考える。

『週刊新社会』(2018年3月13日)


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